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【もっと知りたい!日アニ調査隊 Vol.2】お米からできているのにどうしてフルーティー?初亀醸造にきいた日本酒の楽しみ方

ちびまる子ちゃんと初亀醸造のコラボ日本酒発売について、告知用の文章を作成していた時の事です。
純米大吟醸の説明に書かれている「南国果実を思わせる香り」という言葉に目が留まりました。

”お米を使ったお酒なのに、なぜフルーツのような香りになるのだろうか…?”

正直に告白すると私は日本酒に詳しくありません。
そこで今回は、私のような初心者でも日本酒を楽しめるように、日本酒のあれこれを初亀醸造の橋本謹嗣さん、橋本康弘さんに聞きました。

初亀醸造について

初亀醸造は静岡県内最古の酒蔵で、全国でも31番目に古い歴史を持つ酒蔵です。
1636年に駿府城(所在:現 静岡市葵区)の近くで創業しました。
安倍川の洪水で蔵が被災し、静岡市安東へ移転。
明治9年に岡部町の平井屋という酒蔵を買収し、第二工場として岡部町での酒作りを開始しました。
その後、静岡市の蔵は絶えてしまいましたが、岡部町の蔵が現在に至るまで酒作りを続けています。

岡部町は、南アルプスを源流とする清流「朝比奈川」が流れ、山間の斜面には竹林と茶畑が広がる美しい里山です。
「静岡のヒト・食文化との調和」を第一に考え、蔵に湧き出る南アルプスの伏流水と手作りの麹を用い、丁寧な手仕事で酒を醸しています。

日本酒の作り方

“お酒っていっぱい種類があるけど日本酒ってどんな飲み物なの!?“
そんな疑問にお答えするために、まずは日本酒の作り方をざっくりと紹介します。

日本酒が出来上がるまでにはたくさんの工程がありますが、材料はいたってシンプル。
米と米麹、そして水だけです!(純米酒以外は醸造アルコールも加えられます)
それでは早速、日本酒の作り方を見ていきましょう。

①    精米
原料米の酒作りに不要な部分を削ります。
米の外側には脂質やタンパク質などの栄養素が含まれており、それらを残したままだと麹菌や酵母がどんどん増殖。
思った通りの質感にするのが難しくなります。

通常、純米吟醸は40%、純米大吟醸は50%の部分を削っています。
私たちが普段食べているお米は5%ほどしか削っていないので、その意味では贅沢な飲み物ですね。

②    洗米・浸漬
米の表面に残っている糠(ぬか)などを洗い流し、米に吸水させます。
削るほどに水分の吸収が早くなるため、しっかり時間を計りながら作業します。

③    蒸し
麹菌の作用をうけやすくするために米を蒸気で加熱します。
炊くのではなく蒸すことで、麹菌の繁殖しやすい水分量に!
蒸した米は麹用と仕込み用に分けます。

④    製麹(せいぎく)
製麹はでんぷんを糖化させる能力を持つ麹(こうじ)を作り出す作業です。
麹室(こうじむろ)という専用の部屋で、蒸した米に麹菌を繁殖させます。
製麹には、引き込み、種切り(たねきり)、床もみ、切り返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事(しまいしごと)、出麹(でこうじ)など、たくさんの工程が!

⑤    酒母作り
アルコール発酵に必要な酵母を培養します。

⑥    醪(もろみ)作り
仕込みタンクに酒母を入れて、蒸米・麹・水を数回に分けて加えてアルコール発酵を進めます。
こうしてできたものを醪と呼びます。

⑦    搾り
醪を酒と酒粕に分けます。
機械を使用する方法もありますが、初亀醸造の大吟醸は昔ながらの「槽(ふね)」という方法で絞り、35%がお酒に、65%が酒粕になります。

⑧    貯蔵
酒の中に残った滓(米や麹などの細かな固形物)の除去や、アルコール度数を調整するための加水、酵母の活動を止めるための火入れなど、さまざまな調整を行ない、瓶詰めし出荷されるまでの間、貯蔵します。

おいしさの秘密

初亀醸造の銘柄にもなっている“初亀”は、「初日の出のように光輝き、亀のように末永く栄える」ことを願い命名されました。
そんな初亀醸造のこだわりとおいしさの秘密を橋本謹嗣さん(代表取締役社長、第16代当主)、橋本康弘さん(専務)に聞きました。

右から橋本謹嗣さん(代表取締役社長、第16代当主)、橋本康弘さん(専務)

―――材料がシンプルな日本酒は、材料の選定に蔵のこだわりが出ると聞きました。初亀醸造ではどのようなお米を使われていますか。

謹嗣さん:
兵庫県特A地区東条産の「山田錦」、「愛山」、そして静岡のお米を使っています。

「山田錦」は兵庫県で研究・品種改良されたものなので、やはり兵庫の土壌によく合っているんですね。
通常の飯米よりもより背丈が高く、しかも粒が大きいこともあって風に弱いお米なので、しっかりと根を張れる深い土壌が適しています。
また、米作りには昼と夜の温度差が10度以上あることが望ましく、早く日が落ちることで昼と夜の温度差が取りやすい山間地域はぴったりの場所です。
兵庫県の中でも土壌と気候がマッチするのが東条地区の山間地。
今は、契約農家である田尻農園さんのお米を主に使っています。

―――康弘さんがお米を育てていらっしゃるんですね。

康弘さん:
地元の契約農家さんの指導のもと、自社田という形で今年から米作りを始めました。
農業従事者の高齢化により、全国的に耕作放棄地が非常に増えており、朝比奈地区も例外ではありません。
きれいな里山を残していくために、契約農家さんたちと6名で一緒に田んぼをやっていきます。
自社田に関しては、まずタンク1本分作れるくらいのお米を収穫したいですね。
まだとても足りないです。(笑)
 
自社田も当然増やしていきますが、一人でも多くの農家さんに初亀の酒作りに携わっていただきたいと思っています。
酒米も誉富士に限定せず、山田錦も作付けしていき、将来的には、使用する県産米をすべて蔵から5㎞に位置する岡部町朝比奈地区の酒米に限定していく予定です。

―――1升瓶を1本作るのにどのくらいのお米が必要なんでしょうか。

康弘さん:
大雑把に言いますと、1トンのお米を使うと2千リットルくらいの純米酒が出来上がりますので、1升瓶にすると千数百本くらいになります。
ただし日本酒は玄米でお酒を造るわけではなく、例えば純米大吟醸の最低ラインではお米を50%以上磨かないといけないので、1トンでタンクを仕込もうと思うと、2トンの玄米が必要となります。
とすると、2トンの玄米から2千リットルくらいの純米大吟醸が出来上がることになりますね。
実際には、一般的なお酒よりも純米大吟醸は贅沢にしぼるので、出来上がるお酒はもう少し減ります。

※お米を削ることを磨くといいます。

―――かなりの量のお米が必要になりますね。1粒のお米をどうやって50%にするのですか。

康弘さん:
重量で判断しています。
重さが半分になれば50%ということですね。
磨いていくと普段食べているお米と違ってだいぶ白くなるのですが、精米するだけでも40時間~50時間かかります。

お米にはたんぱく質や脂質などの成分が外側にあって、中心に進むにつれてでんぷん質が多くなっていきます。
たんぱく質はお米の発酵の段階でアミノ酸(=いわゆるうまみ)に代わっていきます。
うまみはいっぱいあった方がいいのではないかと思うかもしれませんが、お酒の場合はアミノ酸が強すぎると、どっしりと重たく飲みづらいお酒に。
物理的に周りのたんぱく質や脂質を除去してあげることによって、どんどんピュアなでんぷん質になっていき、お酒も透明感のある清らかなものになっていきます。
磨いてない方が味としては複雑、磨けば磨くほどでんぷん質の部分がピュアになってくるのできれいなお酒になっていきます。

今回のちびまる子ちゃんの純米大吟醸の方は、周りを60%削ったお米で作ったお酒ですので、かなりの透明感があって、きれいな品の良さのあるお酒です。
たんぱく質や脂質を除くことによって、より酵母が香りを出しやすくなりますので、磨いたお酒の方が香りとしてはフルーティーで華やかになる傾向があります。

―――フルーティーな香りは酵母が出すものだったのですね!穀物から果実の香りが出ると聞いて不思議な感じがしていました。

康弘さん:
香りの出し方も酵母のキャラクターによります。
日本には何十種類もの清酒酵母があるのですが、初亀は静岡県が開発したクラシックな酵母を使っています。

―――酵母も地元のものなのですね。

康弘さん:
静岡の食文化に合ったお酒を造るには静岡酵母を使うことが適しています。
新鮮なお魚を頂くことが多いので、お酒はどっしりとしたタイプよりも、軽やかなキレのある辛口タイプのお酒を造りたいと思っています。
静岡酵母を使った日本酒は穏やかな香りで、ドライで、残糖感が少ないです。
発酵力が非常に強いため糖の食いがよく、すごくドライに仕上がるので、地元の食文化とすごく合うんですよね。

―――どれくらいの人数、期間で作るのですか。

康弘さん:
私を含めて7名で作っています。
冬の期間で1年分のお酒を作るので、10月にお米の収穫を終えてから仕込み始め、ゴールデンウィーク前くらいに完成します。
寒い時期に作るのは空気がきれいで、衛生環境が良いからです。
蔵の中の環境も、日本酒つくりに役立つ菌類(酵母、麹菌)たちが健やかに活動できる時期を選んでいます。

初亀醸造ではより丁寧なお酒造りを行っているので、期間が少し長くなっています。
小さなタンクできめ細やかな管理をして丁寧に作ると、効率も悪くなるし、期間が延びてしまいます。
例えて言うなら、普段使いなれている小さなお鍋でお味噌汁を作るのと、ラーメン屋さんにあるような寸胴の鍋で作るのと、どちらの方が管理しやすいかですね。
酒作りに一番適した時期をめいっぱい使って、どこまで丁寧に作ってあげられるか、常に選択を迫られています。
最も寒い時期に作る大吟醸はタンクの大きさもより小さくなり、もろみを絞る工程も昔ながらの「槽(ふね)」という方法で絞ります。
機械で絞ると、65%がお酒になり、35%が酒粕になりますが、槽では35%がお酒で、65%が酒粕に。

謹嗣さん:
大吟醸の酒粕は、贅沢な酒粕になりますね。
「粕を見れば酒がわかる」というくらい、おいしいお酒の酒粕はやはり美味しいです。
初亀醸造の酒粕は伊豆や静岡のワサビ漬けに使われたりしています。

―――おすすめの飲み方はありますか。

康弘さん:
冷でもお燗でも、いろいろな温度帯でそれぞれおいしさが違うので、お料理の温度などに合わせてもらうのがセオリーかなと思います。
あとは季節に合わせて、ちょっと肌寒くなってきたら、お燗などで少し体を温めるなど。
今はぜひ秋の味覚と一緒に召し上がっていただければと思いますね。

―――読者へのメッセージをお願いします。

謹嗣さん:
酒造りは、昔から名杜氏といって、杜氏さんにスポットが当たることが多いのですが、うちは「チーム初亀」として、杜氏を中心に、蔵で働く人たちがみんなで良いチームを作っていくことによって、喜んでもらえるものが醸されるのではないかという気持ちで酒造りに取り組んでいます。
優しい人の醸すお酒で喜んでもらうことが一番大事じゃないかな、そういう蔵になっていければいいなと。
それが、初亀が考える目標、目指すものです。
是非一度ご賞味ください!

さくらももこさんとの関係

―――さくらももこさんは初亀醸造の日本酒を愛飲していたのですが、ご存じでしたか。

謹嗣さん:
どこかの飲食店で、「このお店で一番いいお酒を飲みたい」と話していた時に出てきたお酒が「亀」であったとお聞きしています。
うちに直接注文をいただいたこともありますよ。

康弘さん:
毎年お正月は、さくらさんのお宅で秘蔵大吟醸の「亀」をめいっぱい飲まれるのが恒例行事だったとか。

謹嗣さん:
「亀」は昭和52年の発売から今年で45年たつのですが、ロンドンで開催された世界最大級のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2022」のSAKE(日本酒)部門で、第一位を受賞することができました。
静岡酵母というすごくクラシックなものを使い、派手さはない酒なのですが、この酒をうちの酒にしていきたい、評価してもらいたいと続けてきました。
今回、静岡県の県知事賞も頂き、世界でも評価されたというのがすごくうれしかったです。

コラボ日本酒について

敬老の日に向けた新商品として、ちびまる子ちゃんと初亀醸造がコラボレーションした「純米吟醸 友蔵」と「純米大吟醸 友蔵とこたけ」の2アイテムが好評販売中です。

今回は、父の日ギフトとして好評を博したコラボ日本酒「父ヒロシ」に続き、「まる子」の“おじいちゃん”と“おばあちゃん”にフォーカス。
敬老の日のギフトにピッタリなアイテムです!
寒くなっていくこれからの季節、お燗で温まるのもいいですね。

感想

本文の最初に書いた通り私は日本酒について詳しくありません。
そんな私が日本酒の取材に行く!?
そんな私を優しく迎え入れてくれた初亀醸造の皆様には感謝しかありません。

普段お酒を飲まない私ですが、今回のご縁があって日本酒の楽しみ方を知ることができました。
初亀醸造の日本酒は香りが心地よく、何度も鼻を近づけてしまいます。
口にすると、その澄み切った味わいにリラックスすることができました。
飲みながら目を閉じると岡部町の美しい里山の風景を思いだします。

社長の謹嗣さんは趣味のモータースポーツが高じて、ユニホームをデザイン。
地域の保全活動にも熱心な方で、康弘さんをはじめ蔵の皆さんと力を合わせて静岡を盛り上げるために尽力されています。

例えば日本酒作りで出た副産物の活用。
地元の企業とコラボして、酒粕を粕漬けや、グルテンフリーのお菓子などに利用しています。
静岡駅の近くにあるカフェ「select eye」では初亀醸造の日本酒を使用した日本酒パフェも販売中です。

せっかくだからとパフェをいただいてきました。
出てきた瞬間から日本酒の香りがするのですが、アルコールはほとんど入っていないのでお酒が苦手な方も食べられますよ!

最後に

日アニnote編集部に寄せられた疑問を解決するべく、【もっと知りたい!日アニ調査隊】の企画をスタートしました。
読者の皆さんの疑問もどんどん調査していきます!
気になっていることがある方は是非コメントで教えてください。

聞き手:村岡 佑哉

© NIPPON ANIMATION CO., LTD.

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