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悩みなさそう

先日、ある方から私の人生において珍しいことを言われた。

「悩みなさそうだよね」

なんだかビックリした。
これまで生きてきて、あまり言われることのない言葉だったし、人によっては「闇あるね」と言われる類の人間だったもんで、こう見られる意外性に驚いた。

そして、そんな風に見えるのかと少し嬉しかった。

私はいつも、自分の中で引っかかった言葉や感情をGoogle先生に聞いてみたりするのだが、今回も同様に調べてみた。

「悩みなさそう」 検索。

すると、結果の上位に出てきたのはどれも、「悩みなさそうと言われて傷ついた、腹が立った、ムカついた」など、この言葉にマイナスなイメージを持つ人たちの叫びばかりだった。

そうか、人はこの言葉を言われるとそういう気持ちになるのか。

そりゃ、日々悩んだり苦しんだりして生きているのに、如何にも「何も考えてなさそう」みたいなニュアンスのことを言われたら、自分の何を知ってるんだ!となる気持ちももちろん分かる。

なんなら、私もずっとそちら側の人間だった。

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4〜5年前だろうか。
都内の会社に勤めていた頃、たしか暑い夏の日だったと思う。

連休明けの仕事の日の朝、支度をしている時に母から連絡があった。

「〇〇さん(祖母)が居なくなった!」

当時、認知症の祖母の自宅で介護をしていた母。
私と住んでいる自宅と祖母のところを行ったり来たりで、多くの時間は祖母のもとで過ごしていた。

明け方、母が眠っている間にひっそりと鍵を開けて出掛けてしまったのだ。

もちろん、急遽上司には事情を説明して遅刻する旨を連絡し、急いで探しに出掛けた。

足はしっかりしているが腰も曲がり、90歳前後なので、そう遠くへは行けないだろうと近場を探すが、そう簡単には見つからない。
夏なもんで、時間が経つにつれてどんどん気温も上がっていく。
場合によっては熱中症で倒れてしまっているかもしれない。

そんな中、汗だくでチャリで爆走していると、近所の高校がある交差点、陰になっている花壇に腰掛けている人の姿が見えた。

もしや…!と思い、駆けつけると、それは祖母だった。

本人は事の重大さに気付いていない。
ただただケロッとしていた。
だけど、きっと何時間も歩いて喉も渇いていただろう。とても暑そうだった。

私は「いっぱい歩いたね。そろそろお家に帰ろうか」と声を掛け、

祖母は「はいはい」と言い、私たちは自宅へ向かってゆっくりと歩き出した。

本当に無事で良かった。

会社の上司に事の結末を伝えると、心労もあるだろうから、とその日は休みにしてくれた。

その次の日である。
そんなことがあったとも知らない別の上司から、連休明けで休んだ私に

「連休ではしゃぎ過ぎたんじゃないの〜?」

と言われた。

私は「あんなに大変な出来事だったのにそんな風に思われるんだ」と、すごく悲しくなった。怒りというより悲しかったことを覚えている。

連休明けに休んだ私は、他人からそう見えるのか。

そんなことを言われたもんだから、私は元々話すつもりもなかった事実を話した。とにかく誤解を解きたかった。

今思えば、連休にはしゃぎ過ぎて次の日の仕事に支障をきたす人間だと思われたくなかったんだろう。

…という出来事を今回の「悩みなさそう」という言葉をキッカケにふと思い出した。
ちょっとニュアンス違うけど。

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結局、その人の人生なんてその人にしか分からないし、人は結構勝手なイメージを持ったりするものだ。

ある出来事から勝手にイメージを抱いて、その人の株を上げたり下げたり。
芸能人なんかが特にそうだよな。

冒頭の「悩みなさそうだよね」に話は戻る。

当時の自分ならイラッとしたり、

「いや、実は今こういうことを抱えてて…」と弁解して悩みがあることを証明しようとしていただろう。

だけど今は「私、のうのうと生きているように見えるんだなあ〜」と少し嬉しくなり、

「悩みかあ…」と少し考えてみると

今、悩みなかった。

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