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カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」読解④~親であり子であるということ~


こんにちは!日恵です!!

今回こそ「ねこのゆりかご読解」最終回!
今回こそ!!
今回こそ!!!
終わります!!!!

続き物なので、未読の方は是非前回

からそれ以前の記事も確認していただければ!!!!!

それでは、ネタバレテーマパーク、開場します!!!!!!!



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前回までのまとめとして、
・新たな神の発見による二ヒリズム脱却可能性
・方言から見た男性中心主義の発見
の二つがあるね。

今回は、それらを踏まえながら、前回の終わりで見た、「裏返って繋がっているかもしれない」二人の人物……ジョーナとボコノンの関係性から、作品全体の読解をまとめたいと思う。早速始めていこう!

まず、二人の繋がりをどう見るのか、ということなんだけど……さて、ここが難問になってくる。これは完全に私の予想で、読解に引っ張られた言説になるだろうからだ。一種の誤読だと思って読んで欲しい。しかし、誤読こそが豊かな哲学を産む、とドゥルーズも言っていたから、私も恐れず、堂々と読解していこう!笑

ここで早々に言ってしまおう。私の読解とは、こうだ……「ジョーナとボコノンは、同一人物に近しい間柄である」ということだ。

なんで???ってなると思う。とりあえず、納得していただけるかはわかんないけど、私がそう思った該当箇所をいくつか引用しながら説明するね!

まず、ジョーナが〈ヴィンディット〉を経験した、墓石売り場で発見した天使の彫刻を見た時のシーン。

マーヴィン・ブリードは靴の先で枝を押しのけ、台座に浮き彫りにされた文字を見せた。ラスト・ネームがそこに書かれていた。「変てこな名前だろう。その男に子孫がいたとしても、きっとアメリカ名前に変えちまってるね。今じゃ、ジョーンズか、ブラックか、トンプスンだ」
「ところがそうじゃない」わたしはつぶやいた。
(中略)
「そうじゃないんだな」幻影が去ると、わたしは言った。
「こういう名前の人間を知っているのかい?」
「ええ」
それはわたしのラストネームでもあったのだ。

34 〈ヴィンディット〉

私が注目したのは、この箇所。
ここで私は、初めは直観的に、次にスカスカの論理で、そのラストネームがボコノンと同じなんじゃないかと導き出したんだ。

ちなみに〈ヴィンディット〉は、ボコノン教の言葉で「啓示」みたいな意味だね。

この天使の彫刻を注文した人物は──台座にラスト・ネームが彫られている人物は、ドイツ系の移民だという。ブリードは「(彼の)子孫はアメリカ名前に変えてるだろう」と言うが、それをジョーナは否定した。だから、(もし名前が変えられていたら、自分のラストネームと違っていただろうから)ジョーナのラストネームはドイツ系なんだろう、と言われている。それはそうかもしれない。へんてこな名前、とだけ言っているから、ドイツ系の名前とは限らないんだろうけど。

ではボコノンのラストネームはどうか?そう、ジョンスンだね。あれ?!めっちゃありふれたアメリカ名前じゃん!!!!じゃあやっぱ違うの??嘘つき!!!となると思うけど、もう少し待って欲しい。とりあえず、名前が明かされる箇所を引用してみるね。

彼は、ライオネル・ボイド・ジョンスンと名づけられた。

48 まるで聖オーガスティンみたい より

ライオネル・ボイド・ジョンスン。この名前を見た私は、なんというかとても変な感じがした。作為的というか、なんというか。何かを誤魔化してるというか、隠してるような感じ。気のせいかな?……ううん、なんたってジョンスンをボコノンにしてしまうような人なのだ。なにかあるのかもしれない。私は直観に従って、インターネットで調べてみた。

まず、「ボイド」。これを調べてみたら──ビンゴ。すぐに出てきたのは、こんなページだった。

「boyd」を含む例文一覧 (2)
Johnson appointed Alan S. Boyd as the first Transportation Secretary
ジョンソンはアラン・S・ボイドを初代運輸省長官に任命した - 日本語WordNet

Weblio「boyd」https://www.google.com/amp/s/ejje.weblio.jp/content/amp/boyd

なんと!
ジョンスンまで芋づる式に出てきちゃった!!!
リンドン・ベインズ・ジョンソン、そして彼を初代運輸局長に任命した、アラン・スチーブンソン・ボイド。私は、ボコノンの本名のうち「ボイド・ジョンスン」はこの二人から取られたんじゃないかと思った。ジョンソンとジョンスンは綴りは同じJhonson。発音の違いでしかない。

おりしも猫のゆりかごが発行された1963年は、ジョンソンが大統領になった日。ベトナム戦争が激化していく、その最中だ。ボイドが初代運輸庁長官に任命されたのは1965年で、そこは合わないんだけど笑 まあそれ以前に何か大きな役割を果たしたりしてて有名なのかもしれないし、置いておこう笑

で、最後にライオネルだ。
私は、たまたま知っていた、この人から取ったんじゃないかと思う。

リオネル・ファイニンガードイツアメリカ人の画家。英語読みで──ライオネル・ファイニンガーとも表記される。

リオネル・ファイニンガー「フランシスコ会の聖堂Ⅱ」 1926年制作

1879年産まれで、ドイツに渡り、1937年、妻がユダヤ系だったため迫害を逃れてニューヨークに戻る、という経歴がある。これも作中のアウシュビッツなどの言及に通じてるね。そして、ドイツ系の移民。ジョーナのラストネームは、ファイニンガーである可能性もでてきた。うわ、なんか陰謀論みたいになってきた笑

だから、ボコノンことライオネル・ボイド・ジョンソンこそが、天使の彫刻の依頼主だったんじゃないか?って名探偵(迷?)日恵の私は推理した。

ちょっと待って!と、本書既読者の人は思うかもしれない。それじゃあ、劇中に出るフィリップ・キャッスルによる本、「サン・ロレンゾ──その国土、歴史、国民」の内容と合わないじゃん!ボコノンはイギリス国籍だよ!って。でも、それも待って欲しい。あの本は純然たるボコノン教徒によって書かれた、「真実が一切ない」ボコノンの書からの引用たっぷりの本だ。学問的な歴史書と作中で言われてるからって、むしろそう言われてるからこそ、無反省に信じるものじゃないと思う。そういう話をしてるのが、この「猫のゆりかご」なんだから。

そう、私は今、この本に「猫のゆりかご」を見ている。ボコノン的な〈神〉の御心のままに、そこにアメーバの変形を見出してる。Xのあやとりでしかないかどうかの判断は、読んでくれているあなたがしてほしい。

続けていこう。

私の予想だと、元の名前がなんであったにしろ、ボコノンのフルネームは偽名だと睨んでる。それは前出した墓石屋、ブリードの言動から推理している。

「変てこな名前だろう。その男に子孫がいたとしても、きっとアメリカ名前に変えちまってるね。今じゃ、ジョーンズか、ブラックか、トンプスンだ」

再度引用されるブリードさん

この内の、ジョーンズとトンプスンを合体させてみると、そう、ジョンスンになる。余ったブラックはニグロであることからなのかもしれない。無理が過ぎるかもだけど、言葉遊びとメタファを駆使するヴォネガットらしいんじゃないかな?と私は思ってる。
つまり、ブリードさんの言う通り、ボコノンはアメリカ名前に変えていたんだ。そして偽名を名乗っている。これはそこまで無理のある推理ではないと思う。

材料は揃ってきた。いよいよ終わりに近づいていこう。

で、どうしてボコノンとジョーナが同一人物に近い存在、なんて言えるのか?と言うと、それは、明かされないジョンのラスト・ネームにかかってる。

ボコノンがドイツ系の名前を持っていたとしても、それは明かされていない。ジョーナのラスト・ネームも、何故か明かされない。何故か?それはきっと、大した問題じゃないんだろう。だって、元の名前がどうであれ、役割には関係ない。正しくそう言っていたんだから。そうなると、大事なのはジョーナと同じ、「呼んでくれ」と呼びかけられた、偽名の方──作られた名前の方なんじゃないかと思う。そう──ジョンスンだ。

ジョンスンというのは、Jhonsonジョンの息子という意味がある。ジョーナの名付けられた名前はJhonジョン。つまり、ボコノンは、ジョーナの息子なのではないか?ということなんだ。

もちろん、実際の息子、という意味じゃない。それだと年齢も合わないだろう。だから、ここで言う息子というのは──ジョンスンは、ジョンの作ったフィクションではないか?ということなんだ。

そして、それは『世界が終末をむかえた日』と題される本が未完に終わった理由に関係してくる。

それを示唆する、ラストを引用してみよう。

「あなたはボコノン?」
「そうだが?」
「何をお考えですか?」
「『ボコノンの書』のしめくくりを考えていたところさ、お若い方。しめくくりを書く時期が来た」
「何かいい文句でも?」
老人は肩をすくめ、一枚の紙をよこした。
それには、こうあった──
もしわたしがもっと若ければ、人間の愚行の歴史を書くだろう。
(以下略)

127 完 より

これを踏まえて、初めの文を思い出して欲しい。

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。
それは、事実に基づいた本になるはずだった。
それは、日本の広島の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物達がどんなことをしていたかを記録した本になるはずだった。

1 世界が終末を迎えた日 より

私がもっと若ければ⇔今よりずっと若かった頃

愚行の歴史を書くだろう⇔事実に基づいた本になるはずだった

ボコノンの書は完成した⇔世界が終末を迎えた日は未完になった

いまわたしはボコノン教徒である⇔それは、キリスト教の立場をとった本になるはずだった

物語は「世界が終末を迎えた日」から始まっている──そしてそれは未完になった「完」になったのは、「ボコノンの書」の方だったんだ。

「私がもっと若ければ⇔今よりずっと若かった頃」の証明も、第①回で出ていたのかもしれない。

い、一日10本吸うとして、25000日……約60年笑 こっちの方がまだ近そうだけど笑 20歳だと仮定しても80歳か笑 ないことはないけど笑

私著 カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」読解①  より

ボコノンが1897年生まれで、本書の刊行が1963年と考えると、ボコノンは74歳。一日に吸うタバコの量が減れば、誤差でしかないンじゃないかな?この作品の現代年数が記されていない以上、なんとも言えないけど笑

そしてそれらの契機となったのは、ジョンにとってはジョンスン、ジョンスンにとってはジョンなのである。

ここから、以下のことがわかる。

ジョンスンに書かれたボコノンの書でジョンが産まれ、ジョンの書いた世界が終末を迎えた日にジョンスンが書かれていた、ということだ。

そして「世界が終末を迎えた日」と「ボコノンの書」は裏返しに繋がる物語は終わってから始まり、始まりから終わるんだ

そのチームに入れる「契機」となるアイテム(及びイベント)が、「カンカン」という物なわけなんだ、きっと。黒人が無料で配る聖書がきっかけでキリスト教になった、みたいな。そして、ジョーナの場合は、それが『未完で終わった自分の本だった』のであるらしい。

それってどういうことなの?
自分で自分に啓蒙されたの??
ということになるよね?ならない?私はなった。

つまり、これは『設問』なんだ。
ここから解答できるように文章を出してくから、よおく考えるように、っていう。

私著 カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」読解①  より

このことも、第①回での「設問」への回答になっているだろう。

第①回はテクスト分析として冒頭を読んでいたから、ここまで鮮やかに繋がって自分でもビックリしてます笑 ヤバい、〈ヴインディット〉だ笑 ボコノン教になっちゃう笑

そう、そういうわけでジョーナとボコノン……ジョンとジョンスンは、互いが互いを産みあい続けている。本がそれを媒介し、フィクションとフィクションの入れ子構造──メタ的なループ構造が産まれている

「本書に真実は一切ない」というのは、そのフィクションとフィクションの入れ子構造であることを指していたのかもしれない。

恐らく、ジョーナの──ジョンのフルネームは、ジョン・ジョンスン。

親であり子、子であり親。それがジョーナの役割だったのではないか?

そしてそれはこれまでの読解を全て貫通していく

ニヒリズムの否定、新たな〈神〉の創造。
それがニーチェ的な、永劫回帰の中で行われているんだ。

人は、存在は、自己が自己を産むことで、新たな自己を発見することができる。それは宗教と科学、生活について反省し、フラットに物を見て、それを行い続けることによって叶うことなのではないだろうか。

それこそが、この本の──私が書きたかった、この作品の「構造」……「エクリチュール」と言えるものなんじゃないか?と、私は思った。

それは、ある種の祈り──皮肉とユーモアとグロテスクに塗れた世界で、私たちに捧げられている祈りなんじゃないかと、私は思う。

だから、ここまで隠されて、祈っているように見えないようにしたんじゃないか、って、私は思う。

だって、皮肉屋は、照れ屋さんだもんね。

それにしても、ここまで付き合っていただきありがとうございました!自分でも無茶だな~、と思わないでもないけど、満足するまで読解が出来たとは思います!例えこの読解が──例え「猫のゆりかご」であろうとも、それを導く紐は、間違いなく在ると思うし、ね。

最後に、私がとてもニーチェ味を感じた好きな文章を引用して、この読解を終わろうと思う。

それでは、C U Again!!

くっつけあおう、足と足、そう
精いっぱい力いっぱい
愛し合うんだ、そう
母なる大地を愛するように

72 ちびっちょヒルトン より

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