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空  (掌編小説)

「…(どーんないろおがっすきっ?)って私と子供たちみんなで言ったの。そしたらね、鬼だったのは渚ちゃんなんだけど、なんて言ったと思う?渚ちゃんね、(あお!)って笑顔いっぱいに叫んだの。花が咲くように笑うってきっとああいうことをいうのだと思うわ。ほんとに可愛かったんだから。でねっ、私も、子供たちに交じって一緒にそれやってたの。晴れてたから公園にみんなで行ってたんだけどね。公園に青ってあるかしらっ、て。咄嗟に遊具とか見ても青はなかったし、私思わず渚ちゃんに言ったの。(青なんてないわ!)って。そうしたらね、私以外の子供達、(せんせい!あおあったよ!)って言って私のこと見て笑ってるの。私(え?)って声が裏返っちゃったんだけどみんなの掌が向いている方向、それは真上だったんだけどそれをパッと見たの。そしたらね、もうあなたもわかったと思うけど、青空が広がってたの。私、それを見た時言葉を失っちゃって、それがあまりにも透き通っていて、(ね!せんせい、あったでしょ?)(でもせんせい!そらはさわったことにならなくないですか?)って子供たちはみんな私に向かって言ってくれるんだけど、私、泣いてしまって…。みんなの純粋な心に私も溶け込んでいってしまったみたいでね、ああ、今も泣きそうなんだけど…その時涙でみんなの顔も見れなくなるぐらいに泣いてしまって…。あなたが亡くなってからもう一年ぐらい経つけど、あなたがきっと私の心の中で、あの子供たちの笑顔を一緒に見ていてくれたらって思ったら…青空の中にあなたの顔が見えたような気もしてね…。ああ、ごめんなさい、今も泣いてしまって。…ふぅ。
それで、みんな優しいから(せんせいだいじょおぶ?)ってわざわざ遊びもやめて私に声かけてくれるんだけど、そうしたら益々涙が溢れてしまって…、ほんとに素直な子供達だなって。子供って空みたいだなって。…あなたもきっとわかってくれると思う。あなたも子供好きだったものね。
それでようやく涙が止まった時に私、試しに言ってみたの。(私はあなたたちに触ったから大丈夫よねって?)そしたら案の定みんなぽかんとしてたけど、あなたたちほど綺麗な青色は他にないわって私は今でも思ってる。その後その遊びの中で青は出てこなかったし、今後出てきたとしても、私は子供たちに触れることは無いと思う。でも今日の空と子供たちとのことほど、私があなたに伝えたいことはないんじゃないかな。今日はそんな、素敵な一日だったわ。あなたもきっと見てくれていたと思うけどね。
…よしっ。
それじゃあ私は変わらず元気だから、あなたも青空の上で笑って過ごしていて、ほらっ、その写真の中の顔みたいにっ。うん、あなたも空みたいに、子供みたいに無邪気に笑ってる…。
きっと変わらないでね」

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