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無知の知~間違っていた筋肉注射の接種方法~

新型コロナウイルスの出現で、医療の現場は様々な変化をとげた。
感染対策室の人たちは、気を張る期間が続いているが本当に頑張っている。
医療安全管理室と部屋が近く一緒にいることも多かったが、常にあちこちからの問い合わせで電話はなりひびき、検査をし、会議を行い走り回っていた。
きっと未知のウイルスがまた現れても、この経験を生かして私たちは戦うことができる。
 
そんな様々な変化の中で私が一番ショッキングだったこと、それは筋肉注射の接種方法の変化だ。
新しい知識や技術と出会うことで「そうなんだ。知らなかった。」と思うことは日々あるが、筋肉注射の方法である。
神経の走行が変わった訳でも、神経の走行が新しく発見されたわけでもない。
同僚が「以前(新型コロナウイルスが流行するずっと前に)整形外科の先生に、「なんで看護師さんは、患者さんに肘を曲げて腰に手をあてる体位をとらせて筋肉注射をするんだろう?神経の走行から考えたらかえって神経損傷のリスクがあがるのに。」と言われたことがあったらしい。同僚は「教科書に載っているやり方です。」と返答したらしいが、とどのつまり教科書が間違っていたのだ。
(というか長い間エビデンスのない接種方法で教育されていた)
ネット上の情報もだいぶ変更されているが、今でも患者さんがひじを曲げ、腰に手をあてて筋肉注射をされている看護技術の動画や画像はたくさんある。
もっというと新型コロナウイルスのワクチン接種のニュースで、はじめのころに接種していた病院がメディアに流れたときも患者の腰に手を当てさせた方法で接種していたのだ。
ネットニュースでは奈良県立医科大学の整形外科の医師が、ひじを曲げて腰に手をあてて筋肉注射をされている画像をみてびっくりし(なんで橈骨神経損傷のリスクがある体位なのかと)、正しい接種方法を広めてくれたと報道しているものもあった。
 
ちなみに誤っていた知識は部位だけではない。
他にも注射針の刺入角度は45-90度と習ったが、90度刺入が正しい。
刺入したあとに血液の逆流がないか(誤って血管に刺していないか)一旦シリンジを引くと習ったが、シリンジによる陰圧確認はしなくてもよい。
今まで正しいと信じて私達看護師は新人たちにも教育してきたのに、間違っていたとは。
患者さんに神経損傷リスクがあがる体位をわざわざとらせていたとは。
 
思い浮かんだのは、無知の知。
知らないことを知っている1年目は、自ら学ぶこともできるし、先輩からも教えてもらえる。
でも、知らないことを知らなければ、あえて自ら情報も手に入れないし学ばずに誤った情報に囲まれて過ごしてしまう。
 
この事実は、私にとって自分たちが当たり前と信じた看護技術に対して「本当に?」という疑問を抱くきっかけになった。この事実を厚生労働省はどれくらい深く考えているんだろう?
「新しい筋肉注射の方法です」なんて記載している画像などもみかけたが私からすれば「新しい」のではない。
「長らく更新されず(もしくは教育内容の検討がされず)誤った方法が訂正されなかった」のだ。
こんなエビデンスに基づかない看護技術を教育しているということは、看護の教育は古いのではないか?
医師が正しく理解してるのか、整形外科の医師だから正しく理解していたのか、いずれにしても医療が互いに指摘しあい向上する雰囲気はないのではないか?
 
今私にできること。
無知の知。私が知っていることは一部なんだ。
知らないことがいっぱいあることをまず理解することからスタートしたいと思う。
 

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