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新型コロナウイルスワクチンのアナフィラキシー事例から思うこと① 医師会の医師擁護の姿勢から考える「医療事故調査制度」の役割


 2022年11月5日に愛知県愛西市の新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で起きた医療事故に関する医療事故調査報告書が公表され、ネットニュースにあがっている。

 報道と異なる看護師個人としての見解であるが、この報道がされた当初より気になっていた部分が明らかになったと思われるので、書きたいと思う。

 2022年11月18日付のYahooニュースhttps://news.yahoo.co.jp/articles/0193e5fa295d7b5a7a68c3959f55197c3198906e

2022年11月18日付のYahooニュースでは、15日に同医師会が開いた医療安全対策委員会を受けて「渡辺理事は、医師が呼ばれた時点でアドレナリンを打ったとしても『救命できなかった可能性が高い』と指摘。看護師が女性の体調変化に気づいた時点でアナフィラキシーと判断し、アドレナリンを注射すべきだったとした。」と17日に記者会見したことが記載されていた。これは発表の一部で、アナフィラキシーショックに対応するアドレナリン注射ができない『体制に問題があった』と結論づけている。
 
 この記事を読んで私が思ったことは、事例が起きてたった2週間の間にすべての関係者に事情を聴取し、検証ができるのであろうかということであった。私も院内外で医療事故調査を行うこともあったが、時系列にまとめ、専門の科の医師や看護師が集まり議論するのは、大変時間がかかるものであることが分かるからだ。また、当初この記事には、「同委員会によるこの事案の検証は、新しい事実が出ない限りは今回で終了する」とあったのを見て、これで幕引きをはかるのだろうか、と思った。
 
 勝手な想像であるが、結局誰かの助言で、この事案は医療法に定められている医療事故の定義にあたり、医療事故調査制度に則り報告すべきとなったのではないか。(記者会見の翌日11月18日に医療事故調査・支援センターへの報告を決定している。報告書にも、)
 
 報告書を読んで時系列に見て感じたことは、医師が診察開始したと思われる時刻から心停止(総頚動脈が触れない)までの6分間程度は、少なくとも患者さんの意識は混濁があったとしても受け答えが出来る状態であったことだ。報告書でも、「医師によるアドレナリン筋肉注射が迅速になされなかったことは標準的とは言えない」と記載されていた。一方、看護師に対しても報告書の総括には、「ワクチン接種後待機中の患者の容態変化に対して、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったのは標準的と言えない」と記載されている。今回の事例に関しては、医師、看護師がアナフィラキシーショックが起こる可能性を想定した準備を行うべきであり、そうすれば想定内としてもっと迅速にそれぞれの役割を果たすことが出来たのであろう。普段一緒に働いていない医療従事者が行うワクチン接種だからこそ、必要な体制づくりだったのだと改めて感じた。
 
 確かに最重度のアナフィラキシーショックであるならば、救命に至らなかった可能性も否定できないのかもしれないが、家族からすれば筋肉注射を実施していないのだから、より無念さがあるだろう。
 
 今回の報告書と、昨年度の医師会内の医療事故対策委員会を受けての記者会見を比較すると、医師会の報告は、医師擁護の姿勢をより強く感じた。もし、他の医師会も同様の姿勢ならば、医師会主導の医療安全対策委員会の報告書は真相究明には近づけないのではないか。
 
 だからこそ、第三者が介入し、医学的見地だけでなく、組織的な医療安全上の課題まで踏み込んだ発言ができる医療事故調査制度の存在意義を感じた。報道では、どうしても「救命の可能性が否定できない」ところに焦点があたってしまうが、報告書を最後まで読むと、搬送先の病院の詳細不明の死亡事例に対する対応、集団接種会場での救命処置の対応(物品など)も他の自治体を合わせて検証しているなどいくつもの課題を明らかにしているものとなっている。医療関係者だけでなく、多くの人に目を通してもらい、このような制度があることを理解してもらいたいと思った。f


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