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BA.5対応型ワクチン接種後の死亡事例の報道から思うこと②~アナフィラキシーは予見できた 回避義務は果たされたのか~

11月5日愛知県愛西市でBA.5対応型ワクチンの接種後に、せき、息苦しさ、嘔吐などの症状が出現したが、アナフィラキシーに対する治療を受けないまま亡くなった方いたと報道されている。
昨日は、「死亡診断書の死因」という視点で書いたが今日は「予見可能性」と「回避義務」の視点で書きたいと思う。(ちなみに、私はもともと法学部出身だが、学んでから30年近く経過しており間違ったことが記載されていたらコメントに指摘お願いします)
 
私達医療従事者が行う医行為は、リスクをゼロにはできない。究極「手術をしなければ手術による合併症も起こらないよね?」なんてなりうるが、実際にそのような司法判断がされることはなく、「予見可能性を前提に行為者(=私達医療従事者)に課せられる結果回避義務の違反」がある場合に過失があるとされるというのが一般的な見解だ。(今回は刑法と民法上の過失を分けずに考えました)
 
この事例をあてはめて考えてみたい。
アナフィラキシーは予見できたのか?
もし、予見できたならば、予見したものに対して私達医療者(一般人より注意義務をより負っている)が負う回避義務を果たしたのか?
もちろん実際に裁判になった場合には、事実認定がされたりいろいろな状況が加味されたりするので、こんな風に外野が簡単に過失の有無を推察すべきではないのだろう。しかし、医療安全管理者として配属されていたときに、私達医療者はこの視点で自分たちの行動を振り返る必要性を感じたので、今知り得た事実から推察したい。
 
1つ目のワクチン接種後のアナフィラキシー症状の予見可能性はあったのか?
「予見可能性」とは事故などの損害を発生させるような危険な事象の発生を、その事象が発生する前に予想できたかということだ。
これについては、「予見されていた」と考えるべきであろう。
その女性にアレルギー歴があるかなどは関係なく、すべての接種対象者に対して接種会場で15分~20分程度待機させている目的がそもそもアナフィラキシー症状の出現の有無を観察することだからだ。
そして一旦アナフィラキシーが発症した場合、即座に対応する必要があり、だからこそ会場にエピペンも準備されていた。
医師、看護師のバックグラウンドは分からないが通常の経験を積んでいれば少なくとも知識として予見はできたはずだろう。

2つ目は、予見できたアナフィラキシー症状に対して重篤になることを回避するための対策が適切に行われたかである。
「回避義務」とは、「予見した危険な事象に対して、その事象が発生する前に対処し、その事象の発生を回避する義務」のことである。前提として、「回避可能性(回避できる可能性)」があることが必要である。
この事例の場合、アドレナリンの筋注を速やかに行っていれば結果(死亡)を回避できたのかということがその際問題になるかもしれない。
(昨日書いた死亡診断書の病名が気になったのはここに関連する。もし致死的不整脈が本当の死因ならば、医師や看護師がアナフィラキシーの対応を行わなかったことと死亡という結果に因果関係がなくなり、医師に回避義務が生じない可能性が出てくる)
もしアナフィラキシー症状が死因であるならば、報道されているようなアナフィラキシー症状の対応の経験がないのかが問題ではなく、予見できるアナフィラキシー症状に対して処置ができなかった(回避義務を怠った)ことが問題となる。
 
アナフィラキシーに実際に対応したことがある医師・看護師は、そんなに多くないと思う。
私も院内で接種する新型コロナウイルス対応ワクチンの接種会場の手伝いを行ったことはあるが、実際に重篤なアナフィラキシー症状が出た人はいない。しかし、だからこそ、事前に救急カートの位置や酸素投与の場所(すぐに酸素が使えるように配管に接続されているかまで)の確認、エピペンのデモ機を使ったり、ワクチン接種直後、待機場所それぞれで具合が悪くなったときの移送の動線などを全体でシュミレーションした。
だから、ワクチン接種会場に来ていた医師・看護師のバックグラウンドは全く分からないが、一人の医師、派遣されている看護師の問題だけではないだろう。
 
おそらく今後調査すれば、実際には全国でヒヤリハット事例が起きていたのではないかと思う。それに対してきちんとした情報が収集されていれば、このような重篤な事例を防げたのではないかと思うと悔しい。
医療従事者として自分たちは関係ないではなく、自分たちは他の面でも大丈夫なのだろうかと振り返らなければならないと感じた。
 
院内でも抗生剤投与、輸血の実施時などアナフィラキシー症状が起こりうる場面はある。
当院でもCT撮影時の造影剤投与は医師が行い、観察時も医師が近くに待機している。
しかし、病棟で抗生剤内容を変更した際など医師が常時そばにいない事例もある。
今回の事例をみて改めて思ったが、医師に報告後、医師の到着を待てないくらい急激に容態が急変するリスクがある場合、その場にいる看護師がすぐに対応できるようなマニュアル、フローが整備されているかもう一度振り返る必要があると感じた。

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