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読書|高瀬 隼子「め生える」

単行本(ソフトカバー):168ページ
読了までにかかった時間:90分

みんなはげてしまうならいい。一人残らず、一本も残さずに。

高瀬 隼子「め生える」

面白かった!すごく面白かった!!

ある日突然、子ども以外みんな禿げてしまう謎の感染症が世の中に蔓延。
子どもの頃から薄毛をからかわれ気にしていた真智加は、みんなが禿げていることで自分の薄毛を気にしなくて良くなった社会に安心するものの、また次の不安が現れては消えることなく、他人の視線、他人の頭が気になる日々。結果、ますます禿げに囚われた人生を歩むことに。
同じように、幼少期公衆トイレで知らない男に髪を切られるという被害に遭遇した琢磨も、はげ社会に生きていく中で悩みは尽きず・・。その加害者もまた・・。

芸人さんの容姿いじりを見るだけでも、コンプラ的に大丈夫かしらとドキドキするこの時代に、禿げ!はげ!の連呼。
一体どんな話になっていくんだと思ったら、刺激的でありえない設定なはずなのに、どこか現実味を感じる、面白さあり怖さあり、登場人物たちの心情の変化に共感するしかないお話だった。

コロナ禍を経験した今、このありえない設定の物語に妙なリアリティを感じるのは私だけではないはず。

キャッチーな題材を面白おかしく描いただけの作品ではなく、単なるルッキズム批判でもなく。周りが変わっていくのに自分だけが変わらない恐怖とか、人それぞれのプライドとか、無限に出てくるコンプレックスとか、薄い板一枚の上を歩くような青春期の友情とか、もう色々な要素がしれっと詰まっていて、短い物語なのにのしかかってくるテーマが重厚で想像以上の面白さだった。


毎朝ヘアアイロンとスプレーでバチバチにヘアセットしていく「前髪命」の我が子たちが読んだら、どんな反応をするだろう。きっと恐ろしい設定に、悲鳴を上げるはず。あらすじを伏せたうえで、それとなくすすめてみよう。

こちらの作品も、奥田亜希子さんの作品と同じくU-NEXTの「100 min. Novella(ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ)」からの刊行。表紙のぶわっと生えてる感じがなんとも示唆的。U-NEXT会員ならWEBでも読めます。

高瀬 隼子「め生える」
U-NEXT 2024年1月6日発売


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