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なぜアフリカは資金不足なのか

1.     サブサハラアフリカのビジネス市場としての魅力
さて、皆さん、もし友人や親族が「アフリカでビジネスを始める」と言ったらどう思われますか?恐らく第一印象は「危なそう」「儲からなさそう」「狩りでもするの?」といった否定的なものが多いのではないでしょうか。こう考える方は、一般的な常識がしっかりと身についている方かもしれません。実際、以下に示す世界銀行のビジネス環境評価表によれば、アフリカはビジネスの始めやすさにおいて全大陸の中で最下位となっています(この指標はあくまでビジネスの始めやすさを評価したもので、儲けやすさを考慮すると実際には他の大陸とのギャップがさらに大きくなる可能性があります)。

世界銀行のビジネス環境評価表


とはいえ、アフリカには同時に未開拓のビジネスチャンスが豊富に存在しています。市場規模を物凄く単純化した一面で捉えると“人口×一人当たりの購買力”で表すことができますが、以下の表が示すように、アフリカの人口は年々増加傾向にあります。2024年時点でのアフリカの総人口は約15億人で、既に世界人口の約18%を占めていますが、2100年には約40億人、世界人口の約38%に達すると見込まれています。

大陸別の人口推移

じゃあ、式の後半部分の一人当たりの購買力はどうなんだというと、実は一人当たりの購買力も以下の表が示すとおり増加傾向にあります。

アフリカにおける一人当たりの購買力の推移

 
2.     なぜサブサハラアフリカに資金が流れないのか
偉そうに書きましたが、このような情報は世界中の企業が既に知っていることです。しかし、サブサハラアフリカは持続的な発展に必要な資金が慢性的に不足しており、実際に資金流入は他の大陸と比較して大きく遅れを取っています。以下の表は、世界の地域ごとのFDI(Foreign Direct Investment、要するに外国からの投資額)を示したデータです。これを見ると、アフリカへの投資額が非常に低いことがわかります(ちなみに2019年と2020年はコロナの影響もあり、特に世界全体で投資が減少した時期でしたが、大陸間の格差という観点では、2024年の現在も大きく変わっていません)。

大陸別のFDI流入額

3.     気候変動という文脈における資金不足
じゃあ、なぜアフリカは慢性的な資金不足が続いているのかについて、少し掘り下げてみたいと思いますがあまり主語を大きくしすぎると話がぼやけてしまうので、今回は再生エネルギー投資に絞って見ていきましょう。まず、アフリカの再生エネルギーの市場の背景にさっと触れてみますと、実はアフリカは世界で最も再生エネルギーのポテンシャルが高い地域とされています。例えば、国際エネルギー機関(IEA)によると、アフリカの太陽光発電の潜在量は約10,000 GWと推定されており、アフリカは世界の太陽資源の60%を保有していると予測されています。こういったポテンシャルがあるため、前述のアフリカの人口増加や一人当たりの購買力を考慮すると、各国の電力会社や事業投資会社がこぞってアフリカの市場を勝ち取るために参入してきそうですよね?ところが、実際にはそうなっておらず、アフリカの再生エネルギー市場はあまり開拓されていません。現状は、昔から建設された化石燃料に頼った発電所(1970年代のかなり効率が落ちたものを使用しているケースもあるようです)に多く依存しています。
 
4.     サブサハラアフリカが抱える種々のリスク
なぜ、そういった状況にあるのかといいますと、アフリカの再生エネルギー市場がなんとなくリスキーだからという背景があります。例えば、最近NISAが流行っていますが、今後成長するといわれているインド株よりも、なんとなく馴染みがあってリスクが少なそうなアメリカ株や日本株を買ってしまいませんか?もちろんこれらリスクを加味した上でもリターンの方が大きいという判断が出来るのであればそれでも投資続行ということにはなるものの、現状、相応のリターンはないと判断し多くの事業者が参入を撤退してしまっ
ているような状況です。さて、では実際に事業をする人はアフリカの再生エネルギー市場にどのようなリスクがあると見ているのでしょうか。
 
マクロリスク
マクロリスクとは、国や地域全体に影響を及ぼす大規模なリスクのことを指します。これらのリスクは、特定の企業や産業に限らず、経済全体や市場全体に影響を及ぼすものです。具体的には、経済リスク(インフレや金利上昇など。最近は日本でも話題になっていますが、途上国ではさらに深刻な状況になっています)、政治リスク(政府の不安定さや政策変更など。例えば、事業者が事業を開始している最中に急な政策変更により事業が頓挫することが途上国ではよくあります)、社会リスク(社会不安や労働市場の変動など。例えば、急なデモやストライキによって事業が頓挫することもあります)。
 
市場リスク
上述のマクロリスクと関連性が高いのですが、市場リスクとは市場価格や金利為替レートなどが予見できないリスクを指しています。例えばアフリカにおいては物価変動が激しく頻繁に発電に係る資材価格、労働価格などが変動します。
 
テクニカルリスク
テクニカルリスクとは、途上国ならではのリスクの一つで、技術インフラの未整備や人材の不足によって事業の実施が困難になる可能性を指します。確かに途上国においては人口は増加の一途を辿っているものの、高度な配線や溶接作業など、技術的なスキルを持った作業員が不足しているのが現状で、事業の展実施に制約が生じ成果を上げることが難しくなってしまいます。
 
ファイナンスリスク
ファイナンスリスクは、金融市場の未発達や資本の調達が困難であることを指します。多くのアフリカ諸国では金融業が未成熟であり、国内の金融機関が事業に十分な投資を行うことができない場面がよく見られます。では海外の金融企業はというと、海外の金融企業もアフリカのリスクを鑑みて、投資に対するリターンや借入に対する利息を大幅に上乗せする傾向があります。例えば日本でも銀行でお金を借りる場合、公務員は比較的安全で信頼性が高いため、リスクが低く低金利でお金を借りられますが、フリーターにおいてはリスクが高く評価されてしまい金利があがってしまいますよね・・・
 
5.     サブサハラアフリカに資金が流れるためにどういった仕組みが必要なのか
さて、アフリカの資金不足問題を解消するにはこれらのリスクを軽減する必要がありますが、これには大きく分けて2つのアプローチが考えられます。第一に、事業者がリスクをヘッジできるよう、公的機関(アフリカの当該国政府や国際機関)がリスクの一部を負担することが挙げられます。たとえば、発電事業において、電気料金の回収がスムーズに進まない場合、政府や国際機関が料金の支払いを代行してくれたり、現地の労働人口の給与が急激に上昇したり、為替レートが大幅に変動した場合も同様にこれら公的機関が一部変動分を負担するといったことも必要となるでしょう。
 
第二に、アフリカに関する理解を深めることも重要です。例えば、途上国の政府が投資を促進したいと考えている場合、政府高官が日本を訪れ、アフリカの現状や課題、懸案事項、今後の方針について説明することで、事業者はアフリカの将来の方向性について適切なリスク分析を行うことができます。さらに、事業者自身がアフリカについてより深く理解することも一つの方法ですが、これを実現するためには、日本政府や政府系機関(JBIC、JETRO、JICAなど)の支援が不可欠です。
 
まとめ
アフリカの市場は現状も多くの過大が存在するのは事実であるものの、その市場規模はみすみすと見逃すことは日本にとっても大きな機会損失になってしまいます。官民連携で今後、アフリカへの進出について検討することが今後求められてくるでしょう。

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