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【GPS】×【探偵】×【不倫】終了のお知らせ。そもそもGPS調査は「探偵業務」と言えるのか?

 

私立探偵と公立探偵


 昭和の頃のミステリー小説を読むと「私立探偵」というワードが時々出てきます。探偵自体は今も存在しますがそれらの業者を私立探偵と呼ぶことも、探偵自身自分のことを私立探偵と自称することもなく、もはや「私立探偵」という言葉は死語になっている感がありますね。

 そもそも「私立」ってなんだよ?じゃあ「公立」もあるのかよ?ある(あった)んですね。元々探偵は英語から来ているのですが、英語で探偵はDetectiveで警官の刑事もDetective。区別が付きません。そこで民間の=
Private Detectiveが探偵を指し、これを訳すときに「私立探偵」となったと言われています。つまり公立探偵の位置づけは刑事です。「江戸前エルフ」11話にもそんな話が出てきました。

 さて警察(刑事=公立探偵)がGPS機器を対象者の車両に無断で設置して、無承諾にて位置情報を取得するGPS捜査については以前の記事で紹介したとおり、対象者のプライバシーを侵害し、本来法律の定めを前提に司法審査を経て行うべき捜査であってこれを任意捜査として行ったのは違法だと最高裁が判断して決着を見ました。つまり公立探偵はGPS捜査が不可なのです。

 捜査機関が実施するGPS捜査は、重大犯罪の捜査という公益性が高いはずです。それでも対象車両にGPS機器を設置して位置情報・移動履歴を網羅的に取得するGPS捜査は見張りや張り込みとは一線を画すると裁判所(裁判官)は判断しているのです。これに対して私立探偵ともいえる探偵業者が、一私人のプライベートを暴くために(プライベートを暴く=公表するとは違います。プライベートとは誰にも取得されたくない秘め事です。公表されずともたった一人にでも取得されること自体が「暴かれている」になります)GPS調査を行うことが許容されているのか?別に法律の専門家でなくてもバランス感覚や嗅覚に優れた方なら「そりゃ普通にまずいよね」と慎重になります。
 なお刑事裁判だけでなく民事裁判でも、労使間でGPS設置に同意ある場合でも勤務時間外や退職後の位置情報取得は不法行為を構成するという判決が出ております。ますます「そりゃ普通にまずいよね」案件です。

 ところが今や探偵業務にGPS機器は切っても切れない存在になっているようです。探偵業者のWEBサイトを見るとGPSレンタル・GPS調査の文字が踊ります。「探偵用GPS」でググると楽天やamazonで数々のGPS機器が販売されており、そこをみると「探偵が使用している」「探偵と共同開発」とのキャッチもあります。またスパイガジェット的にGPS機器を販売している実店舗もあるようです。もはや探偵がGPS機器を扱い、GPS調査を行うことは当たり前のような風潮です。じゃあ探偵がGPS機器を使いGPS調査を行うことの法的な根拠やお墨付きはどこかにあるのだろうか?と調べましたが私には見つけられませんでした。ある探偵業者のブログによるとこうありました。

GPSを使った浮気調査の違法性 まず最初に知ってもらいたいのは、法律で浮気調査にGPSの使用は禁止されていません。

ですが、浮気調査にGPSの使用を法律で認めているわけでもありません。 探偵業法の中身を見ても、GPSを使った浮気調査を禁止する内容は存在しません。

https://prosupport-hamamatsu.com/gpshamamatu.html

 この業者は真面目です。禁止されてないが容認もされてないとして真面目に分析を加えています。
 そもそもなのですが、世にいる探偵業者は当たり前の顔をしてGPS機器を扱っています。GPS調査は探偵業務と言えるのでしょうか?これが本稿の主題です。

探偵業法における「探偵業務」

 【探偵業の業務の適正化に関する法律(平成十八年六月八日法律第六十号)】(以下「探偵業法」)2条1項は探偵業務を

 「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務」

と定義しています。
 「他人の依頼を受けて」ですので例えば探偵業者Aが商売敵をつぶす目的で自らライバルの探偵業者Bの調査をすることは「他人の依頼を受けて」にあたらず「当該依頼者に報告する」こともないので、探偵業者が行う調査ではありますがこれは探偵業務ではありません。
 さて問題は「面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査」に件のGPS調査が含まれるのか?です。例示として「面接による聞込み、尾行、張込み」が列挙されており、探偵業務として行いえることは「これらに類する方法による実地の調査」であることが分かります。「実地の調査」は「(=現場に出向いて行われる調査)」との説明がされています。

https://www.jda-tokyo.jp/_p/2470/documents/探偵業の業務の適正化に関する法律と解釈.pdf

 ところがGPS機器の【設置】と現在位置・移動履歴の【情報取得】は「面接による聞込み、尾行、張込み」ではありません。「その他これらに類する方法」に含まれるのではないか?とも考えられますが「その他これらに類する方法」は「面接による聞込み、尾行、張込み」らとともに「実地の調査(=現場に出向いて行われる調査)」でなければならないのです。しかしGPSにて監視する作業は現場に行かずに行えますし、むしろ現場に張り付かずとも24時間バッテリーが生きている限り網羅的に位置情報が取得できるのがGPSのメリットなんですからわざわざ現場に出向いてばれるリスクを冒す必要はありません。つまりGPSを設置して自宅からオフィスからその位置情報を確認する作業は到底「実地の調査」とは言えません。つまり「実地の調査」に含まれてないですから「その他これらに類する方法」には含みません。よってGPS調査は探偵業務には該当しません。これが本稿の結論です。
 尾行中に失尾した際のリカバリーとして尾行と並行して設置使用する方法は「実地の調査」と言えるかもしれませんが、尾行や張り込みで長時間対象者に張り付く労力やコストを減らすことができるというGPS調査がここまで探偵に広まった最大のメリットを放棄することになってしまいます。

 探偵業務に非該当だからといって探偵業者が一切できないということにはならないでしょう。探偵業務に該当しない調査等については、届出した探偵業者が正当行為として探偵業務を行う場合に特別に考慮される、調査目的・必要性・相当性・妥当性による違法性阻却や、対象者が調査にて被る不利益について社会生活上の受忍限度などの利益衡量をする余地はなく、あくまで(探偵業無届者を含む)一般的な私人と同等・同様の限度で許容されるにすぎないと考えられます。ただ、そうだとしても探偵業者が赤の他人である対象者の車両にGPS機器を無断で設置して、無承諾での位置情報・移動履歴の取得をすることに一体どのような許容性や対象者がかかる調査を受け入れ受忍すべき義務があるのだろうかと考えてしまいます。


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