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<本と映画の答え合わせ(第11~15回)>「グレート・ギャッツビー」、「変身」、「ガープの世界」、「悪童日記」、「すべての美しい馬」



(第11回)グレート・ギャッツビー

【本】
〇タイトル:グレート・ギャッツビー
〇作者:スコット・フィッツジェラルド
〇感想:
 ・言い回し、例えが洗練されていて素敵。特に「寄せては返す波のように」の表現が印象に残った
 ・話の展開、内容に魅せられた一方で、一読しただけでは登場人物の関係、時代の流れがよく分からなかった
 ・ギャッツビーが他の女性に目を向ければよいだけの話。一方でデイジーにこだわり続けたギャツビーの生き方にも戦地に赴任していたという理由があることから、少し心を揺さぶられる
 ・最終的には誰も得をしないストーリーではないか。だからこそフィッツジェラルドの美しい叙述をまとい心に響く作品となっている
〇評価:◎

【映画】
〇華麗なるギャッツビー(2013年)
〇監督、主演:バズ・ラーマン監督、レオナルドディカプリオ、トビーマグワイア
〇感想:
 ・神の目と称されている看板がイメージの通りに再現されている
 ・当時の華やかさが伝わる一方でギャツビーの影の部分も程よく仄めかされている
 ・語り手の視点も踏まえ構成面でよくできていると感じる
 ・訳し方に様々な見解がある"Old sport" は特に意識せずに音声で聞くのが1番
〇評価:○

【総合】
〇感想:
 ・本を読んで映画を観ることで本作品が理解できた。つまり、本だけでは理解不足な面があったことを否めない
 ・「若きウェルテルの悩み」のウェルテル、「嵐が丘」のヒースクリフそしてギャッツビーと既婚者への愛を題材とする作品をいくつか目にする。他の男性を選んだ女性をそこまで想うことに対して共感しづらく、ナルシストなのではないかとの疑念を抱く
 ・フィッツジェラルドとカポーティの文章が似ている。ともに心地良いと感じるのは自分だけであろうか。フィッツジェラルドにはもっと多くの作品を残してほしかった

(第12回)変身

【本】
〇タイトル:変身
〇作者:フランツ・カフカ
〇感想:
 ・目覚めたら虫の姿といわれてもどのような虫なのか、その時点で不思議な世界
 ・虫として扱われ切ない、これもカフカの心情、メッセージなのかと思いは膨らむ
 ・カフカの作品は一言でいうと「不思議」。言いたいこと、メッセージがよくわからないけれども読み進めてしまう
 ・究極の不条理、長い人生においては何度か納得いかない、努力が報われないといった場面に遭遇する。「なんで」と絶望に陥るのではなく、朝起きたら虫になってなくてよかったくらいの気持ちで乗り越えたい
 ・本人の作品ではないが「絶望名人カフカの人生論」はカフカの生涯、人格等について書かれており、カフカという人間に対する関心が湧く
〇評価:◎

【映画】
〇変身(2019年)
〇監督:クリス・スワントン監督
〇感想:
 ・原作の内容をほぼ忠実に映像化している
 ・「朝起きたら虫に変身していた男の話」とだけ知っていれば、本(原作)を読んでいなくても十分に楽しめる
 ・変身後の虫の姿が意外と可愛く、嫌悪感を抱く姿ではなかったのである意味ほっとした。また、大きな眼と切ないセリフが哀愁を誘う
 ・作品自体が不条理で信じられないストーリーであるが、映像でテンポよく進むのでいろいろと考える間もなく受け入れられる。ただし、家族の虫になったグレゴールに対する態度の冷たさには違和感を覚えた
 ・せめてグレゴールが話す言葉が伝わり、家族とコミュニケーションを取ることができたならこのような冷たい態度にはならなかったのであろう
〇評価:○

【総合】
〇感想:
 ・本を読むだけではもやもやした感じであるが映画を観ることで想像が固定化されすっきりした
 ・子供が中学生になってからは一緒に映画を観る機会はなくなってしまったが、家族(中学生以上)で鑑賞できるシュールな作品ではないか。次の世代の人たちがカフカについて関心を持つきっかけになればよいと思料する

(第13回)ガープの世界

【本】
〇タイトル:ガープの世界
〇作者:ジョン・アービング
〇感想:
 ・思いもよらないストーリー展開、特にガープの誕生に関しては想像を超える
 ・過激な内容、強烈な表現が垣間見られる、また、ウーマン・リブが根底をなしている
 ・本作品の中でガープが書いた作中作である「ベンセンヘイバーの世界」は凄まじい内容。作品の主人公が描く物語を読むという経験は初めてのことで斬新であったうえ、その内容が強烈すぎて驚いた。もちろん映画ではカットされているが映像化できないからであろう
 ・「ホテル・ニューハンプシャー」が、初めて読んだアービングの作品であったが、同様の衝撃を受けた。ともに重いテーマを扱っており、アービングの他の作品はしばらく時間をおいてから読みたいと思う
〇評価:○

【映画】
〇ガープの世界(1982年)
〇監督、主演:ジョージ・ロイ・ヒル監督、ロビン・ウィリアムズ
〇感想:
 ・冒頭に赤ん坊の映像とともビートルズの"When I'm 64"が流れる、なぜかとてもマッチしており、期待を持って観始めることができる
 ・青年から大人へと成長するガープをロビン・ウィリアムズが演じるが、青年期を演じるのは少し無理がある
 ・本(原作)に忠実にほぼ全ての内容をテンポよく再現、映像化している
 ・1970年代(おそらく)の白人を中心とするアメリカ社会に対する理解が進む
〇評価:◎

【総合】
〇感想:
 ・映画を鑑賞するだけでも楽しめる。過激、刺激的な文章、深い内容を知りたいのであれば本も読むことをお勧めする
 ・当時のウーマン・リブの盛り上がりが伝わる。主要先進国において現在、女性解放運動(集会等)は殆ど目にしないことから、その目的はある程度達成されたということであろう
 ・そもそも完全なる男女同一社会は実現不可能であり、基本的には男女同一であるものの時と場合により男性>女性、男性<女性が受け入れられる社会が現実的と考える(不等号は優先先を表す)

(第14回)悪童日記

【本】
〇タイトル:悪童日記
〇作者:アゴタ・クリストフ
〇感想:
 ・最後のシーンが予測を遥かに上回り恐れ入った
 ・双子には感情がない、つまり、感情を持たないように自分たちで鍛え上げたと言える。これも戦時下およびその後の不安定期における共産圏の小国を生き抜くために必要とされる生き方、逞しさと納得した
 ・戦争がもたらす現実、例えば、幼いうちから目の当たりにする親族の死、死と隣り合わせの日々そして無秩序な日常社会などが赤裸々に描き出されている
 ・現在生じている戦争、紛争であるが報道されているのは表面的なものにとどまり、現地では実際にこのようなことが起こりうる、起きていると感じる
〇評価:◎

【映画】
〇悪童日記(2013年)
〇監督:ヤーノシュ・シャース監督
〇感想:
 ・原作を忠実に再現
 ・共産圏の暗いイメージが映像を通してリアルに伝わる
 ・ドイツ兵が去り代わりにソビエト兵が来ても決して彼らは味方ではない(助けてくれるとは限らない)。現在のロシアによるウクライナ侵攻のルーツを見た気がする
 ・日本は島国であり他国と陸地で繋がっていないことからこのように次から次へと隣の大国から攻め込まれることはない。地理的、歴史的背景が積み重なって民族の特徴に影響を与え、形成していくことをあらためて認識した
 ・このような地政学リスクはこれからも0にはできないものである。防ぐためには独裁者の出現を防ぐ、指導者に対する権力集中を排除する体制を築くしかないのではないか
〇評価:◎

【総合】
〇感想:
 ・過酷な環境下にあって生き残るためにはこの双子のように残忍さ、冷酷さも必然的に身につく、優しさだけでは決して生き残れないとつくづく感じた。
 ・その後の双子がどうなったのか期待して「ふたりの証拠」、「第三の嘘」を読んだが、冗長、複雑であった。本作品で受けたような簡潔で分りやすく、かつ、衝撃的なシーンは見受けられなかった
 ・本作品の作者同様ミラン・クンデラもヨーロッパにおける小国出身でともに抑圧からの解放が作品の根底にあると感じる。一方で同じく素晴らしい文学作品が多いロシアの作家には他国からの抑圧はないものの自国社会からの抑圧は散見される。作家の出身、作品の舞台がいつ、どこの国かを意識することでより多くのことが見えてくる
 ・人間である以上、「歴史は繰り返す」ことについて否めないと感じる。AIのように蓄積し続ける、同期できるわけではなく、人間は「死」によって人生で得た知識、経験は途絶え、新たな「生」は0から始まるのであるから

(第15回)すべての美しい馬

【本】
〇タイトル:すべての美しい馬
〇作者:コーマック・マッカーシー
〇感想:
 ・「越境」、「平原の町」の国境三部作を読了。振り返るとどれがどの話だったか不確か。
 ・複雑な人間関係等はないので内容は理解しやすいが、読み進めながら何か違和感を抱く。
 ・なぜなら登場人物の会話に括弧がないのである。このため会話が詩のようにも感じられ新鮮であった
 ・アメリカ南部からメキシコへ、日本は島国であるため異国と陸地は繋がっていない。大学時代の海外旅行でサンディエゴからティファナに国境越えをしたとたん街の雰囲気ががらりと変わったことを思い出した
〇評価:○

【映画】
〇すべての美しい馬(2000年)
〇監督、主演:ビリー・ボブ・ソーントン監督、マット・デイモン、ペネロペ・クルス
〇感想:
 ・複雑な内容ではなく、また、登場人物が多いわけでもない。このため映画を鑑賞して壮大な風景、美しい自然、馬等を堪能するだけでも充分かと思料する
 ・メキシコの収容所の混沌さがリアル。また、本(原作)に所々見られる暴力性も伝わる
 ・マット・デイモンとペネロペ・クルスが実に格好よく馬を乗りこなす
 ・タイトル通り馬が登場するシーンが多く、馬の逞しさ、その神聖さ等がいろいろな意味で美しく描かれていると感じる
〇評価:○

【総合】
〇感想:
 ・3部作全て読まなくても本作品の原作、映画を観れば充分、「越境」および「平原の町」については同じような内容で印象に残らない
 ・大都市を抱え近代化されているイメージがあるテキサス州はから牧場、馬を愛する主人公が自分の居場所を求めて馬に乗り国境を越える。報われない恋をはじめ様々な経験、葛藤を経て成長してく姿が共感を呼ぶ
 ・ガリバー旅行記の第4編に馬の国が出てきたことを思い出す。昔から馬は人間にとって身近な動物であり、愛情を持って接してきたからこそ文学作品においてもこのように美しく取り上げられるのであろう



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