梅雨なれど夏の香

ヘルマン・ハウスクネヒトが

物語に触れた日々は、


闇のような毎日の中であった。



現実よりも魅力に満ちた世界


それでいて、届かない。



どうすれば届くだろうと

くだらない言葉に囲まれながら


身と心は

すり減っていった。


そこに正気があるとすれば、


狂気に呑まれぬ


意地ひとつ


故にこそヘルマンは


物語の続きへと現れる術を得たのだろう。



グリム「なんだ、生きてるじゃないか」


壊死しかけていた体をさすりながら、


ヴァレンティン・グリムは


ヘルマンに語りかける。


気まずいのか、

返事こそ示してこないが

合わせる顔がないと

落ち込んでいるようにも 感じる。


グリム「僕もようやく、

    ギーゼラを思い出すことができた」


アデレイドの名を再構築するかのように

ヘルマンは

記憶をたぐる。

まるで指を使うように、


古傷が残る神経を


慰めている。



グリム「ゾンマーフェルトさんは

    まだ現れないな。


    でも、いずれ肉穂を

    使えるとしたら


    あの人しか有り得ない……0…………」


からくり の ような身体を

慈しむグリム。


一度は幕を下ろした世界に続きが生まれた。



生き延びたのだと、


初夏 は つげる

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