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いつもと違う山頂からの眺め

先日の雨で、いつもの散歩コースである小山で土砂崩れが起きてしまい、
しばらく通行ができないようである。

仕方がないので、数日は平坦な道や公園の中をぐるぐると歩いてみたが、
あまりおもしろくない。
あの小山の登り坂は、夏場は特に過酷だけど、
あれこそが妙味だったんだな……。
楽しさを感じなければ、朝起きることさえも何となく億劫になってしまう。

そんな時にふと、いつもの小山の逆方向に
もうひとつ別の小山があることを思い出した。
そこも、散歩コースが整備された遊歩道が山頂まで続いており、
標高も同じくらいである。
思い切ってその山に登ることに、昨夜眠りにつく時に決めた。

そして今朝、その山に初めて登ってみたというわけである。
同じ市内であるのに、まるで他所の土地へ旅行へ来たような気分で
見慣れない街並みを通り抜け、山の麓に着いた。

なんと、山の入り口の門が固く閉じられている。
うろうろとあたりを歩き回って様子を窺っていると、
ひとりの高齢の男性がやってきた。
尋ねてみると、傍にある入り口を教えてくれた。
これも何かのご縁だろう。
頂上までその男性と、途中合流したその男性のお友達と、
3人で頂上を目指した。
毎日登っていることや、いろいろなコースがあることなど、
おしゃべりしながら歩いていると、山頂展望台に到着した。

いつもの山とほぼ同じ高さなのに、山頂からの眺めはまるで違っている。
なんと、私が生まれ育った故郷の町まで見渡せるではないか。
いつもと違う人や猫、いつもと違う街、いつもと違う風景……。
空気までがいつもと違うような気さえしてくる。
とても新鮮な気分だ。

何だかふわふわとした面持ちで、帰途につく。
家について歩数計を確認すると、いつもとほぼ同じ歩数だった。
なのに、まるで違う世界を旅してきたような不思議な感覚が
しばらく頭を離れない。
いつものようにシャワーを浴びても、コーヒーを淹れても、
まるで旅先で迎える朝のように、目に入るものすべてが目新しく感じた。

土砂崩れによって、いつもの山に登れなくなってしまったことは、
私にとってはルーティーンを脅かされる不運な出来事だった。
けれども、こうやって新しい世界の扉を開けるためには、
一見不運な出来事でも起こらなければ、
なかなかいつものコースを変える勇気はでないし、
そもそも別の山に登るという発想にすら至らない。

この夏、あの小山の全てのコースを制覇するぞ!と意気込んだ、
いよいよ梅雨明けかもしれない夏の朝であった。

今日も素晴らしい一日が始まる。





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