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#041 死角を作るな

 先日、息子の習い事(スイミング)の様子をギャラリーから見ていた。その際、ヒヤッとする場面があった。それは、ある子(息子ではない、4〜5歳児くらい)が「溺れている。」と感じる状況が1分以上続いたことだ。結果的に、彼はぴょんぴょん跳ね壁に捕まったので大きな問題とはならなかった。指導者は一切気付いていなかった。もしかすると気づいていたのかもしれないが、だったら「指導者は気付いていますよ。その上で、彼を好きにさせています。」という雰囲気を出しておく必要がある。そうしなければ、今回の私のように保護者は不信感や不安感を募らせてしまう。
 今回は何事もなかったから、良かったものの指導者も気付いていないため、こういった事態が繰り返され、いつか取り返しのつかないことになると感じたため、知り合いのスタッフに伝え、改善を要求した。
 今日は、この件を振り返り改めて「死角を作らない」ということを提唱したい。

死角を作ることのリスク

 はじめに、死角を作ってしまい子供達を守ることができなかった時のリスクを考えたい。1つ目は、命を落としたり大怪我を負わせたりという身体的ダメージである。当たり前のことである。子供を預かる身として、その場を任される責任として安全な状況を保つ責任がある。
 2つ目は、心理的ダメージである。「溺れた」という経験をしてしまった子供は、本能的に水泳が嫌いになる。大怪我をしてしまった競技には、苦手意識や恐怖心を抱いてしまう。競技者として極める過程やプロの怪我ならまだしも、幼児期の習い事や学校教育は競技者を育成する過程ではない。そのような段階でトラウマを作られてしまうことの罪は大きい。命や安全を守ることは当然であるが、心理的ダメージを負わせないのも大切なことである。

生命の危険性がある活動は「3秒」

 学校において、最も危険な活動は「水泳」である。水泳は、非日常の世界でかつ、生命維持のための呼吸を制限されるため、死に直結する。まさに、今回私が見た場面である。そのため、3秒以上の死角を作ってはいけない。ヒヤリとする場面に3秒以内で気づき、様子の異変に気付くと引き続き5秒程度観察しながら近づく。そして、危険と判断しすぐに駆け寄ることで、15秒程度で助けることができる。15秒であれば、子供がパニックになる前に助け、トラウマになるようなことを避けることができる。

危険な活動は「30秒」

 体育の跳び箱運動、理科の実験、図工の彫刻刀など、生命の危機はなくても大きな怪我のリスクがある活動の目安は「30秒」である。もちろん、死角を一切作らないのが理想ではあるが、個別に指導したり場を作ったりする中で、死角を作らざるを得ない場合がある。しかし、こういった活動では「30秒」を目安に全体を見渡すようにしたい。
 全体を見渡すことで「ふざけている」「危険な状況である」など危険の予兆に気づくこともできる。水泳の場合、命に関わるので30秒も猶予はない。しかし、ここで挙げるような活動は、予兆となる行動が見られて事故につながるため、30秒に一度、全体を見渡し確認する。

その他の活動も意識して「死角」をなくす

 上記に挙げた活動は、特殊である。学校生活の大半は、教室で座って授業を受けることになる。安全は担保された環境であるが、「死角」は作らないようにしたい。物が落ちてきたり、突然子供が暴れたりなどのことは滅多にはない。でも、万が一の際に見ていたのと見ていなかったのでは、初動が変わってくる。いじめなども同様である。また、保護者に説明するときにも変わってくる。初動や保護者説明などは、安心感を持たせる上で大切である。

安全と安心の違い

 死角を作らないことは、安全に直結する。また、安心できる環境を作るためにも死角を作らないことが大切である。安全とは、危険のない状況である。一方、安心とは人の心から不安を取り除くことになる。たとえ事故がない状況を作っても、子供や保護者の心の中で「先生は大丈夫かな?ちゃんと見ているのかな?」など不安を抱かせてしまったら安心は得られない。そのため、いくら危険を取り除き安全な環境を作っても先生が見ていなかったり保護者説明で不安を与えたりすると安心できる環境を生み出すことはできないのである。
 安全だけでなく、安心を獲得するためにも「死角を作らないこと」を大切にしたい。

死角を作らないために

 死角を作らないためには、教師の「意識」と「立ち位置」が大切である。「意識」は、言葉通り「死角を作らない」と意識することである。上記にまとめたようなことを頭に入れておくだけでも意識は高まる。常に、意識し落ち着きがないと思われるくらい周りを見渡すように意識したい。
 2つ目は、「立ち位置」である。人の視界は左右に200度程度と言われている。常に、子供達がこの200度に収まるように立ち位置を工夫したい。子供の前側に立つと180度には収まり、死角はできない。しかし、子供達の中心に入ると360度に子供達がいるために必ず死角ができる。また、200度と言っても両脇はしっかりと見ることは難しいので教室の隅に立ち90度の範囲を見るようにするとよく見える。このように、死角を作らないためには「立ち位置」が大切になってくる。これは、運動場や体育館で行う体育においても言えることである。つい補助や個別支援に入りたくなっても死角を作らない角度から個別に声を掛けるなどの工夫が大切である。

まとめ

 今回は、息子のスイミングでの出来事をもとに「死角を作らない」ことに大切さについて考えた。これまでは、指導者としての視点で考えていたが、今回「保護者の気持ち」がわかった。指導者が死角を作らず安全な環境を作っていうことは、子供だけでなく保護者にも「安心感」を与えると感じた。安全第一は言うまでもないが、安心が学ぶ上でとても大切である。「死角を作らない」と言うことは「安心して学べる」環境作りにつながることを肝に銘じたい。

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