小村野火(おむらのび)

落語小説家。 落語スタイルの小説を書いています。 古(いにしえ)の日本、なにもかもが歩…

小村野火(おむらのび)

落語小説家。 落語スタイルの小説を書いています。 古(いにしえ)の日本、なにもかもが歩く速さでゆっくりと移ろっていた時代の土を踏みしめて、 今一度生きる楽しさや悲しみを表現するべく試行錯誤を繰り返しています。

最近の記事

  • 固定された記事

ご挨拶に変えて 落語小説の愉しみ

落語小説とは?創作の気持ち 落語って本当は寄席へ足を運び見て聴いて楽しむもの。 わたくしはそれを読んで愉しみたいと思いました。 それに、実を申しますと、 定番の古典落語には少し飽きてもいます。 もちろん、古典落語はたいへんに素晴らしいもので私も同じ落語を何千回、何万回と繰り返し繰り返し聴いてきました。 そのためでしょうか。 少し飽きてしまいました。 そこで書いたのが落語小説です。 笑い、人情、郷愁、不可思議、大好きな古典落語のエッセンスを全部詰め込みながらも、まったく

    • 石を背負う

      枕 どうも友達というものがわたくしには一人もおりません。『あんた!あんたには友達がいないの?!』。ある日妻に怒鳴られたので、仕方なく周囲を見回してみますと、いや驚きました。わたくしには一人として友達と呼べる人がいないではありませんか。幸い、昔を振り返ると、まあ友達だったんだろうなという人は、ありがたいことに数人はおります。ところが、今に至りますとみんなすっかりいなくなっちゃった。これも旅暮らし人生の結果なのでしょう。  『あんた!友達がいなくて寂しくないの?!』とさらに妻は

      • 阿波踊り

        枕 その昔、江戸は浅草へ参りますとありとあらゆる種類の芝居や大道芸、あるいは見せ物を楽しむことができました。今でも浅草はそんな感じですが、江戸の頃はもっとにぎやかでした。といいますのも御城下の風紀が乱れるのを心配した時の幕府が、その頃全国から江戸に集まっていた役者、芸人、見せ物の類を全部まとめて浅草の一か所に集めていたからです。おかげで、その頃の浅草は全国津々浦々からやってきた芝居や芸の一大博覧会場ともいえる、凄まじい様相を呈しておりました。

        有料
        300
        • 姫鯖《ひめさば》

          本編 「おお、おまんがお鶴か。ここに座りい。先の乳母より聞いておるがよ。よう姫様に使えちゅう話や。」 「ありがたいことでございます。新しい乳母様。初めまして。あたいが鶴です。土佐からの長旅お疲れ様でございました。どうぞよろしくお願いいたしまする。」 「うむ。子どもながらに立派な挨拶じゃ。かまんよ。楽にしちょってな。さっそくながよ。おまんに頼みたい仕事があるがやき。よう聞きや。」 「はい。新しい乳母様。」 「ときにお鶴。おまんはなぜにこのあてを新しい乳母様と呼ぶ?頭に

        • 固定された記事

        ご挨拶に変えて 落語小説の愉しみ

          大宅太郎光国《おおやたろうみつくに》

          枕 日本は知られざる姫の国です。歴史を遡りますと、優れた功績を残し、人々をあっと言わせるほどの大活躍をしたお姫様たちが、私たちの国には大変大勢おりました。彼女たちは、名だたる武将など足元にも及ばないほど勇猛果敢で、その上豊かな才能と本当の意味の美貌を兼ね備えておりました。ところがその事実は、女性だからというただそれだけの理由で歴史からはほぼ完全に無視されております。そのため彼女たちの存在を知る人は今でもほとんどおりません。非常に残念なことです。まことに男尊女卑ほど間抜けな思想

          大宅太郎光国《おおやたろうみつくに》

          |荒行《あらぎょう》

           枕 こんなわたくしでも、時には人生の意味について考えることがあります。『いったい私は何のために生きているのだろう?』『私の人生にはいったいどんな意味があるか?』と、ごくごくたまには考えます。  時としてこんな難しい問題について考えなきゃならないのは、おそらくその本源を辿ると、私が他の人とは違うからだと思われます。自分が特別な人間だと言うつもりは毛頭ありません。それどころか、私はごく当たり前のつまらない人間です。それなのに、右を向いても左を見ても、生まれてから今日まで、私は

          |荒行《あらぎょう》

          |鼠長屋《ねずみのながや》

          本編朝です。さあ一日の始まりです。まずは気持ちよく味噌汁を飲もうとお椀の縁を口に近づけたまさにその瞬間です。天井からパラパラと埃が降ってきてポチャポチャと音を立てて味噌汁の中に入りました。せっかくの温かい味噌汁はもう飲めません。憮然とした顔でお志麻さんは持っていたお椀と箸をちゃぶ台に置きました。 隣は?と見ますと、夫八五郎のところへも天井から煤やら埃やら漆喰やらが雨のように降り注いでおります。けれども八さんはそんなことはまったくもって気にならない様子。お椀に入ったゴミを器用

          |鼠長屋《ねずみのながや》

          かごかき入門

          枕  古今東西 世界広しといえども「かご」ほど謎めいた乗り物はありません。 これはまったくもって理解し難い乗り物です。いったい誰が好き好んでこんなものに乗りたがるでしょうか?あるいはまた進んで運転したがるでしょう?窮屈なかごに座らされガタガタ揺られながらどこかへ運ばれるのも嫌ですし、ましてや人間の入った重いかごを肩に担ぎ歩いてどこかへ運ぶのもまっぴらごめんです。そのためかどうかはわかりませんが、かごという乗り物は今ではすっかり姿を消しました。うれしいことに今では絶滅してい

          夢犬

          本編「ここはなんだかやけに気味が悪いね 。昼間だってのに薄暗くてさ。空気だってジメジメとしているよ。人っこ一人いやしねえ。おーい、誰かいるかーい、いるなら返事をしてくれー。」  呑気に声を出すと、幇間(ほうかん)のポン助は耳に手を当てて、辺りを伺いました。 「返事なんぞあるわけがねえんだ。知ってるよ。あたしだって馬鹿じゃねえ。あたりめえさ。人っこ一人いやしねえんだから。見りゃあわかる。 それにしてもなんだね。なんなんだい?この池はさ?やけにまっ黒いじゃねえか。一体全体