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創作小説「DEvice in summer time」2/2

この記事は下の記事の続きです。


冷えた水は偉大である。あれだけ歪んでいた世界がたるんだ糸を張るように輪郭を取り戻していった。
イライザから話を聞いたときには、はっきりと言って迷惑だと思った。
こんな暑苦しい部屋を速攻出たかったがあいにくデバイスはこの部屋にしかない。
しぶしぶ立ち上がり、タオルを取る。
誰もいない。一瞬、イライザが幻覚でも見たのではないかと疑ったが、外から話声がするので外にいるんだろう。
多分、イライザの奴は全員部屋に入ってきていると思っているのだろう。
全員がこんな暑苦しい部屋に躊躇なく入ると考えるとはあいつらしいな。
デバイス制作の最終段階に差し掛かったあたりでイシカワが外で誰かと大声で話していたのを思い出す。
流し台でペットボトルに水を入れたのちに外に出る。
たしか、今日は猛暑日だったはずだが不思議と涼しく感じた。
「おおーミラーさんにカノンちゃんじゃん、久しぶり。元気にしてたか?」
「ライ先輩!?先輩も部屋の中にいたんですか!ちょっとミナミ、何で言ってくれないの。」
突然の登場に驚かせてしまったみたいだ。イシカワはカノンちゃんの驚いた様子を面白がている。
カノンちゃんことカノン・キタは1学年下の後輩である。イシカワの元クラスメイトで俺なんて足元にも及ばないほど優秀な生徒である。
イシカワと二人で南北コンビと称されており、その実力は折り紙付きである。
しかしコンビと称されてはいるもののこの二人は仲が悪い。入学式でミナミを差し置いて登壇したにも関わらず、その直後の学内試験において、ミナミに大差をつけられ学年2位になったことがきっかけ。去年、ミナミだけが飛び級したことにまだ納得がいっていないようで、二人の溝はより一層深くなっているそうだ。
「あれ、カートゥーン君は?さっき案内するって言っていたのに部屋に入れなくて遅れてしまって。」
ミラーさんが訊いてきた。
「いいのいいの。あんな暑いところに入れる人なんてほとんどいないって。あと、イライザだけど、さっき新しくできたデバイスのチューニングを頼んじゃって、もうちょい時間かかりそうなんだけど待ってくれる?ごめんな。」
このとおりと合掌して軽く謝るとミラーさんは手をひらひら振って承諾してくれた。
「先輩、また新しいのを作ったんですか。大人でもこんなにデバイスに明るい人はそういないですよ。」
カノンちゃんの表情にはいつもお世辞の色が見えないので素直に受け取れる。
「そうかな。そんなこと言ってくれるのはカノンちゃんくらいだよ。」
「いやぁ、そんなことないですって。そうだ!今度は私にも作ってくださいよ!」
突然の提案に戸惑う。
「全然いいよって言いたいところだけど、カノンちゃんが扱えるレベルのものになると作るのにもかなり時間がかかるし、それに何に使うんだい?授業と部活動意外の私的なデバイスの使用はご法度だろう?」
「・・・たしかに。大型デバイスの練習に使えればいいなと思ったんですけど。」
落ち込んでいる様子を見るのは少しつらい。
「なに落ち込んだふりしてるの。見苦しい。そんなことをしたところで4年じゃ使う授業とか試験なんてないでしょ。」
追い打ちをかけるような冷淡なイシカワの言葉に肝を冷やす。
いや追い打ちにはならないのかと気づいたときにはカノンちゃんはもう反論し始めていた。
「予習って言葉を知らないの?さすがは神童。甘やかされて育ったのが見て取れる。」
「そっちこそ先輩をたぶらかしてデバイスを作ってもらおうだなんて、品性のかけらも感じられない。風紀委員の風上にも置けない尻軽女に私の何がわかるっていうの?」
カレンちゃんが次の言葉を言う前に、二人の間に割って入る。
「そこまで。これ以上続けたら録音するよ。」
携帯電話の録音画面を二人に見せると沈黙が流れた。
思わず胸をなでおろす。
そもそも誰が見ているのかわからないような空間で喧嘩することは録画されていることと大差ない。
そんな状況で始まった喧嘩に効果があるかどうかは半信半疑だった。
これ以上この二人を一緒にしていてはまずい。
きっかけを探す俺の考えを見透かしたかのように、イライザから「すまん。スケールの微調整に時間がかかりそう。先に始めといてくれ。」との連絡がきた。
「イライザが時間かかるから先に始めといてだって。」
「そうしましょうか。すぐにできないのなら今から始めてしまったほうが早く終わりますから。」
すかさずアシストが入る。ナイス、ミラーさん!
「じゃあ近くの開いている部屋を借りてしようか。こっちはデバイスの一覧表とデバイスを持っていくからカノンちゃんとミラーさんは開いている部屋を探してきて。イシカワはこっち手伝って。」
早く誘導しようと焦りで早口になる。
「わかった。先に行って待ってるから。」
やっと二人が別行動をとれる。
はやる気持ちにブレーキを掛けつつ、よろしく。と言いかけた矢先だった。
「先輩、それ多分だめですよ。」
「「え?」」
イシカワが放った一言にふたりは虚を突かれた。
「私たちがデバイスを提出した場合、全部のデバイスを持ってきたという証明ができないです。」
それはそれはごもっともな意見で。
くそっ、これじゃあ
「じゃあライ君とカノンさんがデバイスをもってきてくれない?イシカワさんと私で教室を見てくるから。」
ミラーさんは天才なのか、それとも神様なのか。
そのの助け舟はあの太陽のように光り輝いていた。
「チェックリストを管理するミラー先輩が確認しないと承認が下りないですよ。」
「あ、そうだったね。忘れてた。」
先ほどの助け舟はカノンちゃんの放った一言で見るも無残に砕け散った。
忘れてたじゃないですよ、ミラーさん。と言い放ちたいのをぐっとこらえる。
え、積んだ?
まずい、まずい、まずい、まずい。
このままではイシカワとカノンちゃんという組み合わせが爆誕してしまう。
どうにかしなければ、どうにか。
問題児二人はまるで気づいていないかのように普通に言ってのけた。
よく考えて!嫌な思いをするのは自分自身だぞ!!!
「どうしよう。」
ふっと漏れた心の声。
「ならキタに教室は任せて、後の三人でやりましょう。デバイスを使えば一気に運べますから。」
イシカワの案はスムーズに決行された。
考えが回っていなかったのはどうやら俺たちのほうだったらしい。

デバイスの最終調整がようやく終わり、気づけば外はオレンジ色に染まっていた。
ライからの伝言で2つ横の教室を訪ねると4人が梱包作業をしていた
「あ、やっと来たな。出来はどうだ?」
「もう十分使えると思う。チューニングの幅が広すぎてエラーが出てさ。もうちょっとスケールを考えて作れよ。」
「スケールを大きくしたら誰だって使えるようになるから便利じゃん。」
「メンテナンスがその分多くなるからどっちもどっちだよ。それに僕はその“誰だって”に含まれてないことを忘れるな。」
どうだっていいようなことを口走りながら新作デバイスを取り出す。
「これ後で一度試したいんだけど、回収はそのあとでいい?」
「あとで提出してくれるなら問題ないよ。」
ライの隣で段ボールに梱包されたデバイスを箱詰めしているミラーさんは快諾してくれた。
あと原因はよくわからないがライとミラーさんが教室の中央で作業しているのに対して、ミナミとキタさんがあとの二人を挟む形で対角上で作業している。
絶対作業効率悪いだろ。
そのミナミに近づきデバイスの確認をしてもらおうとしたとき後ろから
「せっかく全員いるんだし、それここで使おうぜ。」
とライが提案してきた。誕生日プレゼントか。
「だめだ、校則違反だし、安全面からみても部室でやったほうがいい。それに成功するかどうかもわからないんだから。」
「えー、大丈夫だって。別に危険性のあるデバイスじゃないし。」
お前、この間スピーカ代わりになるデバイスを爆発させただろ、という言葉をぐっと飲みこむ。
普段のライならばこのあたりで折れてくれるのだが今日はそうもいかなかった。
「部員以外に見てもらう機会なんてそうそうないんだから、今日だけ、今日だけだから!」
長い付き合いで散々思い知っている。
彼はオーディエンスがいるとますます燃えるたちの人間なのだ。
この今日だけ今日だけだからというセリフを僕は何回聞いたことか。
「私もあたらしいデバイスが使われてるところ見てみたいです!」
しかし、今日はオーディエンスも乗り気だった。
「別にいいんじゃない。活動の一環としてそういうことをしている部活もあるんだから。」
結構グレーな活動だと思うのだが、風紀委員としてその発言はいかがなものか。
「先輩、デバイスが正常に稼働できればば私が何とかしますから。」
できない可能性も0じゃないよね。絶対なんてないんだから。
と言い返せるはずもない。
特にキタさんがぐいぐい来る。
「えーー、大丈夫ですって。そんなに心配することはないですよ。何せ先輩達が作ったんですから。さあさあ、早くしましょうよ。ほら!」
近い近い近い近い。後ずさりしようとすると腕をつかんできた。
「先輩、そんな硬いこと言わずに。今日だけですって。」
腕を引っ張られさらに距離を詰められそうになった時、キタさんの動きが止まった。
キタさんの肩にミナミが笑顔で手を置いている
ゆっくりとつかまれた腕が解放されていく。
ミナミの笑みから無言の圧力を感じる。
「わかった。今回だけだぞ。あと念のため障壁を張っといて。それが最低条件。」
仕方なくあきらめるとミナミにデバイスを手渡した。
一定の距離を取ってもらい僕とミナミ以外は障壁の後ろに退避する。
こっちはいつでもオッケーだ。ああ、こっちも同じく。
僕とライの声には隠し切れない緊張が見える。
ライは動画撮影を始め、僕は万が一のため破壊デバイスで最悪の事態に備える。
幾度となく経験した失敗が脳裏によぎる。
はじめます。というミナミの声が教室に重く響く。
深呼吸ののちに華奢な腕が少し力む。
デバイスに徐々に霜がついていく。
それと同時にミナミを中心に空気が渦巻き始める。
ヒュォォォォーと風が冷たい空気で塗りつぶしていく。
空気を操るミナミはまさに雪女のようで
室温の低下に伴い風が弱まり、デバイスの霜が解け始めた。
圧巻としか言いようのない光景に誰もが固唾を飲んでいた。
ミナミが満足げにほほ笑みこちらに終了のサインを送ると急に絡まった空気がほどけ始める。
「よっしゃ!文句なしの成功だろ。」
ライが録画を停止し、デバイスを受け取りに行く。
「結果は上々かな。ミナミ。違和感はなかったか?」
「デバイス自体には特に。デバイスのサイズと使用感の違いがどうしても引っかかりますけど。」
ミナミは隅に寄せられた机に座り、体を弛緩させながら答えた。
ライが受け取った使用後のデバイスのデータを取るために、コンピュータにデバイスを接続しているのを横目で見ていると、オーディエンスからのお褒めの言葉をいただけた。
「凄い、大型デバイスでもないのに大規模の魔法が使えるなんて。しかもミクロとマクロの操作系魔法を同時使用しなきゃならないんでしょ。本当に何から何まで私と同じ学生とは思えない。」
ミラーさんがここまでデバイスに詳しいことにも驚いたが、その分だけ増えた言葉の重みが嬉しかった。
「本当、僕も心の底からそう思うよ。ライとミナミは凄い。規格外と言って差し支えないほどのことを軽くやってのけるんだから。」
僕の発言が終るやいなやミラーさんの言葉にキタさんが反応した。
「今のってそんなことしてたんですね。同じ操作系とはいえ同時は私でも苦戦しますし、大型デバイスとなると。それをミナミがしたってことはちょっとだけ癪ですけど。」
彼女なりの褒め言葉なのだろうと思う。
僕からすれば二人の間の差なんてあってないようなものだ。
今のを再現できそうな人はキタさんと生徒会長くらいかな…
「そうだ、今度うちの活動に遊びに来なよ。チューニング合わせてあげるから使ってみれば?僕らもその方が多くデータが取れるし」
キタさんが目が輝く。
「えっ、いいんですか!?」
ライもこの提案に乗ってきた。
「おお、堅物のイライザにしては良いこと言うじゃん。全然大丈夫。むしろウェルカムだよ。ね、いいでしょ、イシカワ。」
予想外に名前を呼ばれたことに驚き、ミナミは少しの間戸惑っていた
「……何で私に聞くんですか。」
「だって使用感がわかるのイシカワだけだから。」
ミナミは少し閉口し、少しの間キタさんを見ていた。
「ちょっと、別に良いでしょ。あなたのものでもないのに。それとも私には使えないって言いたいの?」
それに耐えかねたのかキタさんが突っ掛かる。
それでもミナミはしばらくの間、何も話さなかった。
「うんとかすんとか言っt
「出来る。」
ようやく口を開いたのはたまりかねたキタさんが何かを言おうとした時だった。
「あんたならコツさえつかめば間違いなく使える。私の目が節穴じゃなければね。」
出鼻をくじかれ勢いの落ちたキタさんにミナミは言い放った。
その発言に驚いたのは僕だけではなかった。
ミナミを除く全員から、え。と声が漏れる。
キタさんにいたっては開いた口がふさがっていない。
意味を理解し損ね、返す言葉を見失う僕らを気にもせず、
「いいよ、使っても。」
と腑抜けた顔のキタさんにミナミは続けていった。
ミナミだけがこの雰囲気に納得していたようだった。

その後、先ほどの新作も含め、中断していたデバイスの梱包作業を終わらせるとミラーさんは報告書に印鑑を押して、手伝いのミナミとともに階下にいってしまった。
取り残された三人は使わなかった段ボールを使いたいとのライの要望で段ボールをまとめたのちに、心地よい部屋でくつろいでいた。
「さっきのは驚いたな。まさかイシカワがあんな風に言うとは。」
「ほんと、そうですよ。私の怒り損じゃないですか。」
確かにそうだねと笑っていると、ミナミたちが帰ってきた。
だが一人多い。
「あなたたち!ここで何してたの。って君は昼の。」
生徒会長だ。今回はきっちりと制服を着こなしている。
「あぁ、生徒会長。その件はどうも。」
「え?先輩、どこであったんですか?」
「水を汲みに行った時だよ。」
ミナミの顔が曇る。何を不審がっているのか。
「会長、持ってるデバイス見せてもらえませんか?」
「ええ、いいですけどどうして。」
ミナミはひとりでそれらを調べ始めた。
「いや、ちょっと気になることがあって。」
「まあ、いいですけど。それじゃあ本題に入ります。あなた達この部屋で何をしていたんですか?」
「ライがよくわかってると思いますよ。」
どうせそのことだろうと生徒会長を見たときに思っていたので僕は知らんぷりを決め込む。
こっちを見るんじゃないよ。絶対に助けないからな。
「わかっているとは思いますが、許可された場所以外での魔法の使用は校則で禁止されています。それを同好会が破るということはどういうことかわかっていますよね?」
「ええ、まあ。いろいろ―と活動を規制されるんですよね。ええ、知ってます、知ってますから。」
「もちろんこれはもし破っていたらの話ですけど。それでここで何をしていたか教えていただけますか、部長さん?」
「あの、えーと、すみません。ちょっとした魔法を使いました。」
あーあ。いっちゃったよ。観念してくれ。
「はぁ、ちょっとどころではないでしょう。かなり大規模な魔法を感知しているんですから。もっときちんと話してください。」
うん。全部ばれてるみたいだ。
機材とか取り上げられるのかな。
今まで作成したデバイスは?それはやめてほしい。
するとミナミが声を漏らした。
「生徒会長。ちょっといいですか。」
この雰囲気でよく行けるね、君は。
その行動力は素晴らしいけど、協調性が足りないぞ。
これ以上ことを荒立てないでくれよ。
その願いが届いたのだろうか、ミナミが何かを生徒会長の耳元でつぶやくと、急に生徒会長はバツが悪くなったように僕たちを見始めた。
「あ、ちょっと生徒会長と話すから待ってて。」
そういってミナミは会長を連れて廊下に出ていった。
誰もが混乱していた。
「なあ、イライザ。さっきのデバイスに変なものって混ざってたか?」
「いや、学校支給のデバイスに、残留魔力検査のデバイスくらいじゃなかったかな。」
「だよな。」
僕の目に見間違いが無ければおそらく両方とも正規品のような加工がしてあったはずだ。
それにライが見間違うとは思えない。
ミナミはいったい何に引っかかったんだ?
残りの二人もわかっていないようで、見ると首を振った。
5分もかからないうちに戻ってきた二人の内、生徒会長は落ち込んでいたし、ミナミは僕をにらんできた。
何でだよ。あと生徒会長に何をしたんだよ。
「ごめんごめん。もうこっちの用事は済んだから。」
「すみません。お時間をとらせてしまって。」
「それと、今回のことはここにいる二人に活動を知ってもらうためという事情があるんです。なので今回は大目に見てもらえませんか?」
「そ、そうだったの。まあ、今回だけね。次回からはきちんと報告するように。」
そういって足早に出ていってしまった。
怪しい。絶対に圧力をかけられてるでしょ。
それはともかくこのピンチを救ってもらったことは確かなので文句を言えた立場ではないが。
止めきれなかった僕も含め、全員でミナミにお礼をしてから、ミラーさんとキタさんの二人と別れた。
今日はいろいろと災難な日だったと思う。

廊下にて僕たちは活動部屋へ戻るまで話をしていた。
「ほんと、ありがとな。マジでいろいろ取り上げられたりするところだった。んでどうやったの?」
ライはいやに上機嫌だ。自分の失態にお咎めがなかったことがよっぽど嬉しいと見える。
「んー、秘密です。悪用されると困るので。」
生徒会長の様子から見てもかなりのことなんだろうな。聞きはしないけど。ほら、僕は紳士だから。
「ミナミって空気をわざと読まないことができるたちの人間だからな。」
「それ褒めてるんですか?けなしてるんですか?」
「んー、秘密。」
僕の返答にライはけたけたわらう。
ミナミの笑顔には隠し切れない怒りが張り付いている。
「あ、そうだ。さっき生徒会長が言ってたけど具体的に何があったんだ?」
「水汲みの時にたまたま出くわして、ハンカチを拾ったんだよ。」
いちいち心配をかけたくなかったし、細かいやり取りは省いた。
「ふーん。もしさ、生徒会長がかわいい系の服着てたら、イライザ、好みのタイプでしょ。」
昼の光景が目に浮かぶ。
「あー、確かに。嫌いではないな。」
そう言った時だった。
何かにつまずいた。
慌てて体勢を立て直そうとするもうまくいかない。床が濡れているかのように滑る。
倒れる恐怖で反射的に目をつぶる。
衝撃は来ない。今日の昼のような軽い衝撃すらなかった。
目を開けると障壁で作られたやわらかいネットで支えられていた。
今度こそ間違いようなく自信を持って言える。
「おい、ミナミ、ひっかけただろ。」
「お返しですよ。あともっとうまくできたでしょ。」
得意げな顔を見て、やっと理解する。
貴様、昼の出来事を生徒会長から聞いたな。
「性格悪いって言われない?」
「女子なんてみんなそんなもんですよ。」
こわっ。正直に言わなかっただけでそんなにする必要ある?
「いや、こけやすくするために足元に障壁を出して動かすようなことをする女子は少ないぞ。」
ライ、それは本当か。
それになぜミナミは勝ち誇った顔をしているのか。
まあ、受け止め方はミナミのほうがよかったけど、
三人でそんなことを言い合いながら、活動部屋に到着した。
「よし、あとはメンテだけして帰るか。」
そういってライがドアを開けた瞬間、僕らは叫んだ。
「「「この部屋、涼しくするの忘れてた!」」」

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