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超短篇小説9 "穴"

目の前には大きな穴がある。
昨日まではこの道にこんな穴は無かったはずである。


その横には看板があり
"この穴のに入れば幸せな世界に出会えるだろう"と書いてある。

当然、こんなものに入る馬鹿はいない。


その町の大地主である私は言う、こんな穴は埋め立ててしまえと、


しかし、どれだけ土を入れても一向に穴が埋まる気配はないとこの町の大工は言うではないか。  


その穴ができてから10日ほどした時である。
町の人が何人か行方不明になっているのである。  

日が経つにつれて、行方不明者が増えていく。  

おそらく、あの穴に幸せがあると信じて飛び込んでる馬鹿がいるんだろう。  


ある日、私の妻や娘が
「もしかして、本当にあの穴の底には幸せな世界があるんじゃない??」
と言った。  


私は馬鹿馬鹿しいと言ってはみたものの、妙にあの穴が頭から離れなくなっていく。  


日が経つにつれどんどん町民はいなくなっていく。  


これだけ立て続けに沢山の町民が穴に飛び込むということは、
本当にあの穴には幸せがあるんではないか?
そう少しずつ思うようになってきた。  


町民はどんどんいなくなっていく。
その気持ちはどんどん増していく。  


妻や娘もいなくなった。  

この町に残されたのは私だけとなった。  


私は穴に飛び込むことにした。  



ドガッッ!
その穴には幸せなんて無かった。  


それはただの深い穴だった。  


薄れゆく意識の中、穴の上を見ると、町民達がみんな笑いながらこちらを見ている。  


町民のみんなが言った。  


"幸せな世界に出会えたよ"と  



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