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ご飯を食べよう

 私の食へのこだわりは尋常じゃないと思っている。人生のメインイベントが食事である。幼少期の楽しかった思い出ですぐに出てくるのが、小学生の時に家族旅行で行った高知の鰹のたたきが美味すぎたことである。ライブ終わりの打ち上げの居酒屋でもこだわれるだけこだわる。
 「あなたとならどこでも楽しい♪」なんてことも、もちろんあるが、「あなたとならどこ(できるだけ美味しいご飯と美味しいお酒とアテが食べれるところだと、なお)楽しい♪」である。

 後輩がインスタのストーリーで美味しそうな麻婆豆腐をアップしていた。四川風の本場の麻婆豆腐だそうで、しかも楽屋Aの近くに店があった。そしてキャンペーン中でインスタのストーリーにアップしたら500円になるとのことだった。
 麻婆豆腐は大好きで、以前麻婆豆腐部を作ろうと人数を集めたが部長の私しかおらず、無念の廃部。そこからは麻婆豆腐とは良い友達でいることを心がけた。歩いていて見かけたら必ず挨拶していた。「片時も忘れない」という距離感ではなかったが、困った時には話を聞いてくれる(麻婆豆腐的に言うとれんげを持ち上げる)、そんなような存在であった。

 その麻婆豆腐について、後輩にラインをしたら美味しかったとのことなので、すぐさま口内が山椒を求める。ピリリン。今日の晩御飯は必ずや、麻婆豆腐にしようと決意した。ゴールデンウィーク興業まっただ中の忙しい中、急に麻婆豆腐についてラインしたのだが、ご丁寧にランチの営業時間を知らべてくれて、しかも、終わっていることを教えてくれた。
 11:30〜15:00のなんだったら長い方の営業時間なのに、私が殺気立っていたせいか「いわしさんの忙しさ舐めてますわ!」と思ってもいない悪口を言わせてしまった。

 しかし問題が発生。16:00までライブで、その後別ライブの打ち合わせが入っており、次の予定があるため19時には出ないといけない。打ち合わせはかなりの難航が予想されるような内容で3時間で終わるのか怪しい。しかしどうにか麻婆豆腐を食予定(しょくよてい)にぶち込みたい。みんなを誘わず一人でいくか。でも、そのためには打ち合わせを巻かないといけない。麻婆豆腐の店は楽屋Aの近く。打ち合わせの場所、四ツ橋のマクドにも近い。絶対に見つかる。あいつやたら打ち合わせ巻いてたけど、麻婆豆腐屋で山椒効かせてるなんてバレたら恥ずかしい。どうせ、うちらを舐めてる後輩達が、楽屋AのTOP3やWのポスターの前で「おーおー山椒臭いかと思ったらこいつらかい!」とか「山椒は効かせるくせに、ネタのスパイスは効いてませんなあ!」とか言われるに決まっている。うちらを舐めている後輩め、かかってこいや。

 どうしよう。なんて言おう。

 「あの、麻婆豆腐屋で打ち合わせ、なんて・・・」

ダメだ。山椒がきかせてるところで、何が閃けるのか。

 「先、麻婆豆腐屋さん行ってから、打ち合わせってのは・・・」

アホか。山椒の余韻で打ち合わせどことではない。

 「打ち合わせ早く終わったら、麻婆豆腐行きませんか?」

 これか。これだ。でもこれは「打ち合わせ早く終わったら」なのではなく、「終わらせて」である。伝われ。
 伝わるか心もとない。そうだ。隣に食いしん坊がいる。

 「なあ、これみて。麻婆豆腐。打ち合わせの後いかん?」
 「うわ。ウチめっちゃ好きやねん。」
 釣れた。

 自分のことをウチというキノコ頭は写真を見せればすぐその気になる。結果、強引に打ち合わせを終わらせ、全員連れて麻婆豆腐を食べに行った。

 れんげで一口すくって食べると、もう旨味が口の中に広がる。後から追いかけてくる山椒がピリリと効いているが、決して攻撃しているわけではない。ミンチ肉もかみごたえがあり、まるでハンバーグ。なによりもオレンジの油がうまい。どういうことかわからないが、オレンジ色になってる油がうますぎる。

 至福のひとときを過ごした。私はなんでこんなに食べるのが好きなんだろうと帰り道思っていたら、もしかしたら「いい食べっぷり。こっちが嬉しなるわ。」と言われることが多かったからかも知れない。私は食べて幸せ、他人は私の食べっぷりをみて幸せ。こんなにwinwinなことがあるかいと思っていた。でもこれは多分、おばあちゃんの存在がでかいのだと思う。

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