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NIリサーチャーコラム #34 価格受容性調査 ~PSM分析を行う前に押さえておきたいこと~(2023年8月執筆)

執筆者: NIマーケティング研究所(集計分析担当) A.Y

※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。

1)価格受容性調査・分析の方法

商品の価格の決め方としては原価や利益を基準に設定する、市場にでている競合商品の価格と比較して決めるなど様々なパターンがあると思います。

さらに一度決めたら終わりではなく、定期的に価格の見直しを行うことも重要で、そんな時の調査として価格受容性調査があります。

では、価格受容性調査で用いる分析の方法と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。

PSM分析やCVM分析、価格に特化しているわけではないですがコンジョイント分析などがあげられるかと思います。

いずれも有益となる分析方法になりますので、ケースに応じて使い分けていただくのが良いかと思っています。

今回は、主にPSM分析のメリット・デメリットとともに、活用方法・注意点、その他の価格分析にについてご紹介させていただきます。

※コンジョイント分析については、過去のコラムでも掲載しています、こちらの記事をぜひご覧ください。
「NIリサーチャーコラム #06 ~ 【コンジョイント分析】の有用性 ~」

2)PSM分析

PSM分析とは、Price Sensitivity Meterの略で、価格妥当性を確認することを目的とした手法です。

商品・サービスの価格について、対象者に「高いと思う価格」「安いと思う価格」「高すぎて買えない価格」「安すぎて品質が不安になる価格」の4つの質問を行い、得られたデータをPSM分析の手法に則って解析し「上限価格」「下限価格」「妥協価格」「最適価格」といった指標を確認できる分析手法になります。

※質問例
<1>「高いと思う価格」はいくらですか。
<2>「安いと思う価格」はいくらですか。
<3>「高すぎて買えない価格」はいくらですか。
<4>「安すぎて品質が不安になる価格」はいくらですか。

※アウトプットイメージ例

3)PSM分析を行う前に押さえておきたいこと ~メリット、デメリット、調査・分析時の注意点~

PSM分析を行う前に、PSM分析の特性を理解して分析することはとても重要になります。

より精度の高い分析とするため、メリット、デメリット、調査・分析時の注意点として抑えておきたいポイントをお話します。

<メリット>---------------------------------------------------------------

単純に聞く場合よりも信頼性が高い
 いくらなら買いたいですか?などのような聞き方では、実際に買うわけではないので、実際の行動とは乖離してしまう可能性があったり、いくらで買いたいと思ってはいても、±いくらまでなら買うといったように価格イメージ(価格幅)までは把握することができません。
PSM分析では聞き方を、いくらくらいから高い/安い/高すぎる/安すぎると思いますか。
とすることで消費者独自の価値観に基づいて価格イメージ(価格幅)を把握することができます。

聴取内容がシンプル、結果の解釈も分かりやすい
 PSM分析では、上述に記載の4つの質問を聴取するだけなので、対象者からの回答を得られやすく、 4つの質問を視覚的にグラフ化、それぞれの交点の値を算出することで、結果の解釈が分かりやすいのも特徴です。

消費者視点の値ごろ感を把握できる
 アンケート調査のみで結果を得られるため、売り手側の思惑を考慮せず客観的な結果が得られます。

<デメリット> ---------------------------------------------------------------

実現が難しい価格となることがある
 PSM分析は、消費者視点での価格イメージとなるため、開発費や人件費、材料費などの原価を考慮しない価格が算出されます。

必ずしも適正価格にすれば売れるということではない
 あくまでもアンケート結果における価格分析となるため、絶対的な指標にはならないので注意が必要です。

<調査・分析時の注意点>----------------------------------------------------

聞き方に注意、対象者のイメージしていることが同じになるようにしないと、回答がバラバラになる
 対象者ごとにイメージする内容、単位などが異ならないように、商品の特性や特徴、スペック等を呈示する必要があります。

ある程度価格がイメージできるもの
 普段よく使う日用品や食品などはスペックに対しての価格をイメージできるのでPSM分析に向いていますが、家などスペックによって大きく価格が異なるものは価格がイメージしづらくPSM分析に不向きです。

属性・ターゲットを明確に
 性別や年代、居住地、年収、●●の使用状況別など、属性を分けて分析することで精度があがります。

4)その他の価格分析

話が少し変わりますが、PSM分析に向いていない場合でも、内容によっては別の方法が分析に向いている場合があります。

~CVM分析~
CVM(仮想評価法)とはContingent Valuation Methodの略。

商品の価格を呈示し、対象者の購入意向を段階的に繰り返し聴取することで、購入意向の変化を把握、価格に対する市場規模や離脱率が分かりやすく、「付加価値に対して+いくら払うのか」といったような分析にも適しています。

※質問例1
この商品が500円だったら、買いたいと思いますか?
この商品が600円だったら、買いたいと思いますか?
この商品が700円だったら、買いたいと思いますか?
この商品が800円だったら、買いたいと思いますか?



(繰り返し同じ人に聞いていくと回答精度が落ちるので、回答者をいくつかの群に分けて聞くことを推奨)

※質問例2

群の数や価格幅は商品の想定価格によって設定します。
例)男女10歳刻みで比較したいのならば、各セル100s×群数 等

※アウトプットイメージ例

ここまでのPSM分析、CVM分析といった方法は、商品単体に焦点を当てた分析方法になりますが、別の角度から分析したい、例えば、商品Aの価格が変わることによって別の商品Bにどのくらい顧客が流れていってしまうのか?といったようなことを確認したい場合は下記の視点で確認すると参考になります。

~流出危険価格~

※質問例
あなたは商品Aの価格がいくらになったら商品Bを購入しようと思いますか?

※アウトプットイメージ例

固定層では1,625円で、併売層では1,475円で10%以上の流出危険性があることが明らかになります。
またグラフ化することで、ゆるやかに流出するのではなく、加速度的に流出が進む危険価格がわかります。

5)終わりに

いかがでしたでしょうか。今回は、PSM分析・その他の価格分析についてご紹介させていただきました。

このように価格調査と一言で言っても様々な分析手法があります。

✓消費者の商品に対する値ごろ感を知りたい →PSM分析
✓ある商品に付加価値を加えた場合、どの程度の価格幅で売値を検討すれば市場に出せるか →PSM分析
✓段階的な価格において、受容率のシミュレーション・離脱率の確認をしたい →CVM分析
✓ある商品に対する付加価値に、どの程度の価格的価値を感じてくれるのか →CVM分析
✓○○発売によって、●●からどの程度○○に顧客が流れるのか →流出価格分析
✓現行品を○○にした場合、どの程度の顧客が競合に流れるのか →流出価格分析

など、「どのような目的で価格受容性を知りたいのか」によって、よりふさわしい手法があります。

そして、どの分析手法も調査方法や対象者設定を適切にしなければ有益な結果は得られないのと同時に、メリットやデメリット・注意点を十分に理解した上で進めていくことが非常に重要です。

当社の経験豊富なリサーチャーがお客様の課題解決のために、その他の手法も含めてよりふさわしい手法をご提案させていただきます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

執筆者プロフィール
NIマーケティング研究所(集計分析担当) A.Y

前職では、主にFW部門に従事、現場では実際にアンケート参加者の方の声を直接聞きながら走り回りまわりました。
集めたアンケート結果の集計・分析に興味を持ち2013年から現職。
現在では食品や日用品・消費財などのメーカー様の課題解決のために集計分析~報告までを担当しています。
単に集めたデータを正確に集計~報告するだけではなく、お客様がより解釈しやすい、新たな気づきを得られるような分かりやすいアウトプットを意識して業務にあたっています。