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超えた一線は引き返せない-呼称における心の機微③-

さて、忘れた頃に第3弾(^^)。

呼称の話はこれで最後になります。

前回、前々回と、敬称の二人称Sie(あなた)から親称の二人称du(きみ)への呼称の変化がもたらす心の距離や心情を、体験を交えて書いてきました。

今回は、親称du(きみ)から敬称Sie(あなた)へ移行する唯一の場合をご紹介しましょう。

親称の二人称du(きみ)から敬称の二人称Sie(あなた)への移行ということは、これまでの人間関係よりも距離を置くということです。そんな人間関係の裏には一体どんな事情が潜んでいるのでしょうか。

縁切り? 離婚? 破門?

実は、この穏やかならぬ人間関係を連想させる事態の現場は、学校です。

上下関係のはっきりしている、例えば師弟関係においては、敬称Sie(あなた)を用いますね。
しかし子どもの世界は、親称du(きみ)で出来ています。幼稚園や小学校の先生は親称du(きみ)で子ども達に話しかけます。
ところが15、16歳になると、先生の方から生徒たちへ向けて、敬称Sie(あなた)へのオファーをかけます。
大人に成長しつつある子どもたちに、今後は一人前の人間としてリスペクトした態度で臨みますよという先生たちの意思表示です。
こうして子どもたちは、先生たちとの大人の距離感を保証されるのです。これは言い換えれば、各々が存分に個として確立していくことを促し、個人の精神の不可侵領域を保証する距離感なのですね。

もっとも近年は、高校(ギムナジウム)以外の学校では、親しみやすさのメリットから引き続き親称のdu(きみ)が教師と生徒の間で使われるという傾向もあるようです。

しかし大人になって様々な人間関係を紡いで、色々な経験を積み重ねてみると、若いころは他人行儀と思っていた 敬称Sieの距離感が、どこかしみじみと心地よく感じられることがあるものです。

地味ですが、歳を取って良かったなと思うことの一つです(笑)。

以上3回に渡って、呼称にみる心の動きについて書いてみました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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