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空気を読む日本人のメンタルケアとは?|映画『サンシーロの陰で』木村好珠さんトークショー

精神的に追い込まれる若手選手の苦悩を描いた『サンシーロの陰で』上映後、スポーツメンタルアドバイザーの木村好珠さんをお招きしてのトークショーを実施しました。

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第66回を担当します、スタッフの細川です。

サッカーだけではなく、仕事や家庭などの日常生活でも参考になるお話も盛りだくさんのトークショーの様子をレポートします。

世界的に重要視されているメンタルケア

ーー『サンシーロの陰で』をご覧になっていかがでしたか?

木村 世界的にスポーツにおけるメンタルの重要性が見られているんだな、ということを改めて感じました。ユース世代に関しても、サッカーってサッカーだけじゃないよね、オフ・ザ・ピッチのところでのメンタルケアや、人間性のような部分って大事なんじゃないの?ということを示してくれる作品だと思います。

強い選手を育てる前に、人間育成に力を入れたいという話をすると賛同してくださる団体も増えてきています。でも、まだまだ「うちのチームは人間育成よりも強い選手を育てたい。」という考えはまだ根強く残っているようでなかなか難しいです。この映画のような例は死ぬほどあると思います。

ーー世界的にもメンタルの重要性が見られるようになっているということですが、海外ではどのように捉えられていますか?

木村 海外ではメンタルはイコール「思考」なんです。スペインで選手たちにメンタルがどこにあるかを聞いたら全員が「脳」を指したんですよ。「思考」は状況を判断して考えて行動するということ。考える癖というのは、語学と一緒です。

私が今、幼少期に習得した日本語を話しているように、幼少期から考える癖を身につけていれば考えられます。プロになって、「今からすごい選手たちと戦えます。自分のイメージするプレーを言語化してください。」と言われてもいきなりできるものではないです。でも、考える癖がついていればしっかりと考えられます。

日本人のメンタルは「思考と感情の組み合わせ」

ーー日本では違いそうですね。

木村 はい。私は、メンタルを「思考と感情の組み合わせ」と説明しています。海外では状況を判断して考えて行動する軸が自分にあるから「思考」だけでよいけど、日本では「心技体」という言葉があって一番最初に「心」が出てきます。私も心もとても大事だと思っているので「思考と感情の組み合わせ」と言っています。

ただ、日本では「空気を読む」という文化が浸透し過ぎていて、他人の状況を判断して行動してしまう。自分の長所と短所を自己紹介で言ってもらっても、短所は言えても長所は言えないんですよ。自分の自慢をしていると思われる、と空気を読んでしまうんです。相手の状況をしっかりと見てしまって、自分の感情を客観視できない。なので、日本では「感情」というものを考えて欲しいと思っています。そこを考えることが自分の好きにつながって強い選手にもなるので、メンタルのケアは最初からするのが大事だと考えています。

メンタルは「強い・弱い」ではなく「整っているか・いないか」

ーーメンタルの状況はにどのようにモニタリングして分析するのでしょうか?

木村 それは最大の課題ですね。数値で表せないか、とか、メソッド化できないか、というのはよく聞かれます。でも、例えば10段階で8ぐらい楽しいと思ったとしても、それは人によって違うので数値化するのは難しいです。私はすべてを数値化して見えるものだけを捉えるということ自体が間違っていると思っています。だって、感動って実際に見えないから。

ーー数値でないとすると、どのように評価するのでしょうか?

木村 メンタルが整っている選手の特徴は、言語化能力とやはり自己分析力です。話していて、この選手はメンタルが整えやすいなというのはわかります。あと、人によると思いますが、私は表情と声も評価基準にしています。私は精神科医として1日に30~40人と接しているので、完全に経験によるものですが。

「メンタル」というと「強い・弱い」という話で使われることが多いと思いますが、私は「強い・弱い」という示し方はしません。あるとすれば元々持っているもので、性格や個性のひとつだと思っています。

確かに個性としてメンタルが強い人もいます。例えばセルヒオ・ラモス選手です。彼のメンタルは強い。でも、なろうと思ってもなれないから「目指すな」と話しています。一方、クリスティアーノ・ロナウド選手も一般的にメンタルが強いと言われてると思いますが、元々強かったとは思いません。かつてはクライ・ベイビーと言われていたように泣くし、落ち込んだりします。元々メンタルが強いのではなく、彼のサッカー人生の中で作ってきたものなので、ロナウド選手は目指してもよいと話しています。

メンタルの整え方は個人によって違うので一般化できません。感情を表現する選手であれば、出してよいと思うんです。それを表現することで逆にチームを引っ張れるかもしれない。まずは自分を知ること。自己分析して自分の特徴を言語化できる選手が強いと思います。

とにかく楽しむことが大事

ーー日本人は達人というのは明鏡止水みたいなイメージがありますが、元々持っているものを知った上で自分に合う活動をするのが大事なんですね。

木村 そうですね。この作品の問題点は誰も楽しんでサッカーをしてないことです。play soccerということで”play”、「遊ぶ」ということがまず大事。「楽しい!」でサッカーしていないとうまくなりません。人を蹴落としたって自分がうまくなるわけじゃないってことを、一度立ち止まって考えて欲しいなって思いました。もし、私が映画の彼らに話しかけるとしたら「今、サッカー楽しい?」って聞きます。仕事でもなんでもそうですが、やはり楽しまないと成長は難しいし、内からの本気が出ないとどこかの段階で燃え尽き症候群になってしまう可能性もあります。

私はよく「目標」と「目的」を立てるように言います。「目標」は目に見えて誰でも評価できる「プロになる」「何億稼ぐ」というようなもので、「目的」とは「何のためにやるのか」ということ。「目標」しかないと達成した後、燃え尽き症候群になってしまうけど、「目的」があれば「自分はこのためにやってる」ということでがんばれます。

主人公には「そこまでがんばれるのはすごいことだけど、サッカーであなたは何を表現したいのか、一度立ち止まって考えてみて。」って言いたいです。選手が楽しんでプレイしているとサポーターも嬉しいですよね。


サポーターも選手たちの能力という部分だけではなく、楽しんでいるかということも見て応援していきたいと思いました。木村さん、貴重なお話をありがとうございました。

サンシーロの陰で
第94回 アカデミー国際長編映画賞、スウェーデン代表作品。 16歳のベングソンは若きスター候補生として、インテル・ミラノと契約する。プロサッカー選手になる夢の為、故郷のスウェーデンを離れ、ユースの選手寮で生活を始めた彼を待っていたのは、敵意に満ちたチームメイト達だった。夢の陰でもがく若者を、美しい映像でスリリングに描く。
2020 / スウェーデン、イタリア、デンマーク / 116分 / "Tigrar"
監督名:ロニー・サンダール
出演者:エリク・エンゲ、フリーダ・グスタフソン / アルフレッド・イーノック
                                       

ゲスト|木村好珠:精神科医、スポーツメンタルアドバイザー

東邦大学医学部を卒業し2014 年に医師免許を取得。産業医やクリニック勤務のほか、東京ヴェルディや横浜FCアカデミー、北海道コンサドーレ札幌アカデミー、南葛SCのメンタルアドバイザーとして活躍している。趣味は海外サッカーとアニメ鑑賞。大学の時には準ミス日本グランプリを受賞。最新著書『コミュ力アップの法則』(法研)
https://twitter.com/konomikimura
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