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誰もが一緒に映画を楽しめる!音声ガイドの可能性《前編》

バリアフリー上映、音声ガイド付き上映はシネコンを中心に拡大し、認知も広まってきています。しかしながら、知らない、知っていてもどんなものなのかまでは分からない方もまだまだ多いと思います。

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第19回を担当します、スタッフの細川です。よろしくお願いします。

ヨコハマ・フットボール映画祭は、数多くの障害者サッカー映画、パラスポーツ映画を上映してきました。また、並行して視覚障害者向けにライブ音声ガイド付き上映も展開しています。
2021年10月開催
ヨコハマ・フットボール映画祭2021では、最新のブラインドサッカー映画『VOY!-光と影の冒険-』を音声ガイド付きで上映します。

「多くのサッカーファン、映画ファンとサッカー映画を楽しみたい」という映画祭の願いを、長年音声ガイドで支えてくださっているヨコハマらいぶシネマ代表の鳥居秀和さんに、映画のバリアフリーについてお話をうかがいました。
(取材日:2021年6月11日)

バリアフリー上映、音声ガイド付き上映とは

ーーまず、ご存知ない方もいらっしゃると思うので、バリアフリー上映、音声ガイド付き上映、について少しご説明いただけますか?

鳥居 映画を楽しむためには、いろいろな制約を受けている方々がいらっしゃいます。感覚の障害、例えば、見えないとか聞こえないという方にしてみれば、映画を完全な形で楽しむためにはすごく大きなバリアがあります。その他にも、例えば車椅子で自分の思うような席に座れないとか、劇場のアクセスが難しいということもあります。

その中で私たちの取り組みは、目の不自由な方々に映画を楽しんでもらうにはどうしたらいいか、というところに絞っています。バリアフリー上映というと、すべての障害者に対してバリアフリーであるべきだという考えがもちろんあるんですが、全部に一度に手を伸ばしてしまうのはちょっと大変なので、私たちは、音声ガイドで目の不自由な方に映画を楽しんでもらおうというボランティア団体です。ですから、「バリアフリー上映」ではなく、「音声ガイド付き上映」と私たちは言っています。

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ヨコハマらいぶシネマの音声ガイド付き上映の様子

音声ガイドの需要と有効性

ーー現在、目の不自由な方は国内にどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

鳥居 何を視覚障害者というかというのもあるけど、障害者手帳を持っていて視覚障害者というのは今、31万人いるんですよ。これは障害者手帳を持っている人の数で、目が見えなくなってきていて手帳を取りに行くまでの間の人もいます。目が見えなくなってきてるけど、手帳を取りにいくのが面倒という人は何倍もいるんですよ。生活には困ってないという人の数も入れるとその何倍もいる。恐らく10~15倍くらいいるんじゃないかな。このまま進んでいけば、人口比でいうと圧倒的に増えていきます。

その中で映像にアクセスできなくて諦めている人が圧倒的に多い。そういう人たちは自分たちが諦めているから要求もしないです。映画を観なくても死にはしないし、テレビを観なくてもラジオがあるからいいやと。そうしてしまうと、結局どこまでたっても広がらない。テレビも映画も音声ガイドがあるから今までと同じように別に困らないんだよ。という風に発想してくれれば、全部が平均的に底上げされるわけではないけど、30万人が映画を年間1本か2本観るだけでもすごい数ですよね。

ーー諦めてしまうのですね。需要はあるのだから、広まって活用されていくとよいのですが。

鳥居 最近注目しているのは、在日外国人や日本語を習ってる日本語が不自由な方たちです。外国人の方も、音声ガイドがあれば日本の時代劇が楽しめるんですよ。

あとは、子どもたちの情操教育にも反映させたらすごくいいんじゃないかと。知的障害とか常同運動障害などで映画を集中して見られない場合も、音声ガイドのサポートがあると非常にお話がわかりやすくなるから映画を楽しむことができる、ということは随分証明されてるんですよ。映画も画面を追ってると集中できないことがあるんです。例えば、「涙が溢れてきて頬を伝う。」っていうガイドが入ると、あ、目のところを見ればいいんだなと分かる、とかですね。あるいは、人物が誰だか分からなくなってきても、服装とか髪型、年齢などのガイドがあると分かるということもあります。そうやって考えると音声ガイドの可能性はいろいろあるので、もっと当たり前にあって選べるといいと思うんですよね。

シネコンのバリアフリー上映の状況

ーーシネコンではバリアフリー上映が広まってきていますが、バリアフリー上映にするかどうかというのは配給会社が決めているのでしょうか?

鳥居 録音したものを映画館で観てもらうことができるようなったのは5年くらい前かな。UDCastというアプリが作られて、似た操作性でメーカーが違うHELLI! MOVIEというのができて。どちらも、アンドロイドにもiPhoneにも対応するアプリがあって、このアプリには公開中の作品の音声ガイド、字幕ガイドの両方が入るわけです。

この音声ガイドというのはあくまでも映画を配給する会社が付ける作品を決めています。大手の会社では、東宝さんと松竹さんはほぼ全部、東映さん、角川さんでは人気作はアプリ対応の音声ガイドを作っています。それ以外のプロダクションや制作会社の映画もたくさんありますが、これはぜひ音声ガイドを付けて欲しい、という依頼を受けてガイドを付けているということになります。作品ごとに作ってる会社が決めていらっしゃいます。

ーーアプリでバリアフリー上映の状況は大きく変わりましたよね。

鳥居 大きく変わったのは、映画館の対応ですね。私たちが活動しているジャック&ベティではそういうことなかったんだけど、以前は都内のシネコンですと、視覚障害者の方が大勢こられると他のお客様の迷惑がかかるので……迷惑とは言わないけど、別の廊下の隅っこに30分くらい前に集められて、そこに立って待たないといけないというようなことがありました。映画館側も対応に戸惑っていたんですよ。

でも、アプリができたおかげで、いつどの回にいっても音声ガイドが使えるから、普通にみんなと同じようにチケットを買って、入って、映画を楽しむ、ということができるようになりました。映画館としてもサービスに余裕ができて、対応にも余裕ができたわけですよ。ご自宅から都合のよい映画館に行って、そこの常連になると映画館のスタッフが声をかけてくれて、映画が終わると席まで迎えに来てくれて、「どうでした?」とお話をしながらエレベーターまで連れて行ってくれる、という風になってきています。映画館の対応でトラブルになったというケースは私は1件も聞いたことがないです。
アプリで音声ガイドが聞けるというだけで、こうまで社会が変わるのだな、と思いましたね。

ーー劇場側も対応の仕方がわからない分、何かあったらどうしよう、という不安があっただけだったということですね。知ってもらうことは大切ですね。

鳥居 バリアフリー上映というのは映画だけではなくて、劇場もバリアフリーにならなければならないし、劇場に行くまでのアクセス、交通機関もバリアフリーでなければならない。そうでないとバリアフリーにならないんです。

ーー劇場自体のバリアフリー化も必要ということですね。どの劇場にも車椅子専用の座席はありますが、ほとんどが前方だったりして観辛そうですよね。

鳥居 一番前の隅っこなんで有り得ないでしょ。大手シネコンの関係者からうかがった話ですが、劇場を設計する時に、劇場としてはまず"もしもの場合"を考えるんですよ。映画の観やすさよりも、お客さんをどう避難させるかを考えた時に、スクリーンの前が一番早いし、車椅子の方を避難させられたらあとはみんなを誘導できるって考えるんですよね。でもあそこしかない理由はなんだろう、と考えると、違うんだろうな、って。そういう物理的なものだけじゃないよね。って私は思ってるんですよね。

アメリカのバリアフリー上映事情

ーー海外のバリアフリー上映の状況はどのようになっているのでしょうか?

鳥居 アメリカではADA(Americans with Disabilities Act/障害のあるアメリカ人法:1990年制定)という法律でこの義務化がかなり進んでいて、公開されるメジャー系の映画は100%音声ガイドが付いた状態で、すべての劇場で観ることができるようになっています。劇場に音声ガイドを聞ける端末がついている椅子がいくつも用意されていて、車椅子席も前方、中央、後方と何ヶ所かに作られていると。

そういう実例が海外にあるので、映画会社なり、興行や配給会社なりがそういう事例を研究して、行政とともに進めていかなければならないし、行政はその推進のために予算化しなければいけないと思うんです。例えば、文化庁から補助を受けて映画を作る場合にはバリアフリー化しなければならない、そのために予算を付けなければならない、という風な制度的な裏付けが必要です。先日国会で通った、改正障害者差別解消法で法律的な根拠はできたので、この制度的な裏付けはできるんじゃないかと思っています。あるいは日本アカデミー賞の選考基準や国際映画祭の出品基準に、バリアフリー化を入れる。というような方法で、何かしらの枠を作っていく。そういうやり方で業界が変わっていかないといけないんじゃないか。日本では視覚障害者側からの働きかけで動いていますが、映画界から、こういうやり方があるということを出していかなければいけないと私は思います。

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バリアフリー上映の課題

ーー国内のバリアフリー上映の課題についてはどのようにお考えでしょうか?

鳥居 もうひとつ突き詰めて見ると、物理的なことはどうでもよくて、やっぱりマンパワーなんじゃないかなって思ってます。障害のある方が世の中に出ていってぶつかるのはしょうがないので、ぶつかった時にお互いに前向きに考えられますか?考えもせずに、杓子定規に「あなたは無理です。」ってなってませんか?ということなんですね。

ニューヨークに視覚障害者6人と晴眼者私ひとりで行ったことがあるんです。すごく無謀でしたが。その時、街を歩いていてひとり迷子にさせちゃったんですよ。でも、日本から来た迷っている視覚障害者に声をかけてくれて、連れて来てくれた人がいて、無事に合流できたんですよ。それが当たり前なのね。いい悪いではないのですが、ニューヨークには点字ブロックもないし、音声信号もないんですよ。でも、視覚障害者がいると、危ないからと声をかけて一緒に渡ってくれる人がいる。そういう仕組みで動いているんだなというのは感じました。いろいろとそういう経験はおもしろかったです。

一番の課題は、圧倒的に音声ガイド付きの映画の本数が足りないという現状。日本では映像供給が過剰な状態になっていて、公開される映画を全部観ている人はいないと思うんですよ。去年はコロナの影響で公開数は減ったと思いますが、それでも日本映画は年に600本を超える新作が公開されていて、その中で音声ガイド付きで観られるようになったものは60本くらいなんですね。ということは、1割ということになります。テレビ番組にも音声ガイドがついていますが、プライムタイム(視聴率が最も高い時間帯。日本では19~23時)で1割です。24時間の全部を合計すると恐らく5~6%くらいになると。これはで普及とは言えないと私は思っています。

私たちが外国映画を観たいな、と思った時に日本語字幕が付いているのは当たり前ですね。映画を観る時に字幕が付いてるかどうかなんて調べる人はいないわけですよ。つまり、外国映画を公開する時には字幕を付けることが当たり前になっているから、その分を予算に組み込んでるわけですね。だけど、音声ガイドが付いているかどうかは、調べないと分からない。もし仮に、公開される外国語映画の1割にしか日本語字幕が付いていないってなったらどうなりますか?恐らく誰も観に行かなくなります。1割あるからやったー!ラッキー!という人はいないと思うんです。つまり、視覚障害者にとって、映画というのはまだそういう状況なんです。これが5割とか7割となっていくと、どれを観ようかな。さあ今週末はこれを観ようかな。となっていくわけです。だからまだまだ先は長いなと思うわけです。

ーー課題に対する対策というのはあるのでしょうか?

鳥居 これは非常に厳しい言い方なんですけど、今は制作費に余裕があるから音声ガイドをつけましょうというのが現実です。制作費に最初から音声ガイド、字幕ガイドの予算化ができていないんですね。先ほども挙げた改正障害者差別解消法で、障害者に対する差別の解消についてはこれまでは官公庁には義務付けられていましたが、民間企業に対しても努力することが義務化されるようになりました。ということは、視覚障害者がこの映画を観たい、ってなったら映画会社は考えなければならない。合理的配慮というのは難しいところもありますが、映画を作る時に、これは音声ガイドがないから無理ですよ。ということではなくて、言われたら何か音声ガイドに対応できるような方法を検討しなければならない、というのが企業の義務になってくるわけです。

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私が音声ガイド付き上映の存在を知ったのは5年ほど前ですが、目の不自由な方が映画を楽しめる、楽しみたいと思っている、という事実に、恥ずかしながら驚いてしまったことを覚えています。そして、驚いたと同時に音声ガイド付き上映の持つ可能性についてとても感動しました。

後編では、ヨコハマらいぶシネマさんの活動について、具体的にご紹介します!お楽しみに!

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