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誰もが一緒に映画を楽しめる!音声ガイドの可能性《後編》

ヨコハマ・フットボール映画祭でも実施している「音声ガイド付き上映」はどんな風に作られているのでしょうか?

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第20回を担当します、スタッフの細川です。よろしくお願いします。

2021年10月開催ヨコハマ・フットボール映画祭2021のプログラム、ロシアのブラインドサッカー映画『VOY!-光と影の冒険-』では、映画祭初の試みとして、録音型音声ガイドの制作にチャレンジしました。

今回は、ヨコハマらいぶシネマ代表の鳥居秀和さんへのインタビューの後編をお届けします!前編はコチラ
(取材日:2021年6月11日)

音声ガイドの活動を横浜に根付かせたい

ーーヨコハマらいぶシネマを立ち上げられた経緯についてお聞きしたいのですが、いつ頃から始められたのでしょうか?

鳥居 今年で13年目、ちょうど今月13年目に入ったところです。
元々はバリアフリー上映、音声ガイド付き上映というのは非常に特殊な上映方式で、そう簡単にはできるものではなかったんですね。私がヨコハマらいぶシネマを立ち上げる以前には、映画会社が年に何回か行う音声ガイド付き上映会や、東京にあるボランティア団体のシティライツさんが行っている会員限定の音声ガイド付き上映会のような場しかありませんでした。

そんな中で、たまたま横浜での音声ガイド付き上映を手伝われたジャック&ベティの梶原支配人から、「うちの映画館でもやってくれないか?」とシティライツの代表の平塚さん(現在はバリアフリー映画館CINEMA Chupki TABATA代表)に呼びかけがありました。私はシティライツに参加していたので、そのジャック&ベティでの上映会にも参加しました。それから横浜のバリアフリー映画祭を立ち上げる時に、2本の映画に音声ガイドを付けるというプロジェクトをスタートさせました。

その時に、横浜市内でもこういう活動を根付かせることができないだろうか。ということで、参加者を呼びかけたんですね。横浜市内で映画に興味のある方、大学で放送研究会をしてる学生さん、同属のボランティアをやってらっしゃる方、そういうメンバーが10名ほど集まって、音声ガイドの勉強会をしました。バリアフリー映画祭が終了した後も、定期的に続けていきたいということで「毎月一回、ジャック&ベティの映画で音声ガイドを付けてみませんか?」とご相談を受けたんです。それでスタートしたのが私たちのヨコハマらいぶシネマ。今からちょうど12年前ですね。

ミニシアターならではの作品をチョイス

ーー音声ガイドを付ける作品はどのように決められているのですか?

鳥居 ジャック&ベティでの音声ガイド付き上映ハマらいぶは、毎月第1日曜日と決めているので、その日に上映される作品から選びます。その中で、役員や会員のみなさんと「これ観たけどよかったよ。」「話題になってるこの映画を観てみたい。」「この映画知らなかったけど、みんなが知らないものを観てみるのもいいよね。」という意見を出し合って、相談しながら決めます。

もうひとつは、うちの特長なんですけど、映画のジャンルは広げていこうということで選んでいます。10年くらい前は映画会社では、いわゆる障害者をテーマにした作品に音声ガイドをつけましょう。ということだったですね。だけどね、視覚障害者の方に、盲導犬の映画があるんですよって言っても、「俺たちが盲導犬の映画観たってしょうがないよ。」っておっしゃるわけですよ。盲導犬のことを知らない人が観れば感動するだろうけど。「むしろ、世間で音声ガイドが付かないものにこそ、はまライブには付けて欲しい。」という風に言われたんです。例えば、血しぶきが飛び散るようなバイオレンス映画とか、エロティックな映画とか。園子温監督の『冷たい熱帯魚』は両方なんだけど。これは本当に迷いました。だけど、こういう映画こそ、映画のダイナミックなおもしろさ、テレビでは観られない映画のおもしろさなんですよね。みなさんに伺ったらば、ぜひ付けてくださいというので、付けました。観た後はみなさんショックで立ち上がれなかった(笑)。上映後映画の感想を交換するお茶会というのをするんですよ。みんなで『冷たい熱帯魚』の後、話し出すと、つい笑っちゃうんだよね。えげつなさ過ぎて。でも、却って気持ちよく、こういう映画があるんだなって。それからドキュメンタリーだとか、アニメーションの時もありますしね。普通の映画館ではかからないようなコアな監督を紹介したりしていますね。

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ーー毎月いろいろなジャンルの映画が楽しめるのはいいですね!

鳥居 決めてもすぐできるわけではなくて、映画配給会社さんの許可を得ないといけないんですね。勝手にガイドをつけるわけにはいかないので。支配人を通じて映画会社さんにお伺いを立てて、音声ガイド付き上映をやりたいって相談します。

これは、10年前のことを思うと、ものすごく状況は変わりました。10年くらい前はやはり音声ガイド付き上映をやりたいと配給会社さんに相談すると、「一体それはどういうことだ?」と言われました。それで説明をすると「そんなことができるわけがない。勝手にやられたら困る。台本をあらかじめ見せて欲しい。」と言われるわけです。台本を見せるためにはきっちり作らなければならなくて、そのためには時間が必要になります。しかも「うちはライブでやってます。」というのを理解してもらうのは難しかったんですけど。でも、1回、2回と成功して、「あの映画よかったです。これもお願いします。」と言うと配給会社さんも分かってきてくれて。なんといっても河瀨直美監督の『光』という映画が公開されて、これがものすごく私たちにとっては追い風になったわけです。音声ガイドを付けたいという話をする時に、「河瀨直美監督の『光』ってご覧になりましたか?」って言うと、「ああ。」って分かってもらえて。でも、「あれを生でやるんですか?」って言われて、「うちはそうなんです。」って(笑)。

ライブ音声ガイドができるまで

ーーなぜ、ヨコハマらいぶシネマさんでは、ライブ、生で音声ガイドを付けるのでしょうか?

鳥居 音声ガイドというのは、ライブガイド方式とあらかじめガイドが録音されたものをラジオで聞いてもらう録音形式と2種類あるわけですね。録音形式というのは、映画を観ながら時間にぴったり合わせてガイドの原稿を作り、ナレーターさんが録音し、映画のタイミングに合うように編集して、映画の上映と同時に再生するという方法で、長く使われてきました。この形式は、上映する上で便利は便利なんですけど、録音や編集のために時間的な制約を非常に受けます。当然、一定の技術も要求されますし、お金もかかります。

それに対して、ヨコハマらいぶシネマではライブガイド方式を取っています。私たちが考えているのは、今、劇場で上映されている映画を観てもらうことです。「今日公開の作品を今日観たいんだ。」「今、劇場でかかってる映画を、その場で説明してもらいたいんだ。」という願いがあったんですね。古い映画であれば、あらかじめガイドを付けたものを提供することはできますが、私たちが目指しているのは、ジャック&ベティという映画館で、今週こんな映画がかかりますよ。じゃあ、これらの映画を見てもらいましょう。みたいなフットワークの軽いものです。ただ、そうなるとどうしても録音では間に合わないですね。

ーー音声ガイドの台本はどのように作られているのでしょうか?

鳥居 1ヶ月前くらいに作品が決まっていれば御の字なんですけど、場合によっては2~3週間前ということもあります。それから作品を観せてもらうんですね。テスト用の素材を観せていただいたりとか、古い作品の場合は市販のDVDやネット配信で観たりとか。そいういうものを観ながらこういう風にガイドしようと原稿を作るわけです。メモのようなものを書いていって、何度も書き直し書き直しして、1回原稿を作って、実際に目の不自由な方に聞いていただく"モニター会"をします。今、ヨコハマらいぶシネマは会員が30名くらいで、過半数の方が目の不自由な方です。その中で映画を観慣れている会員に実際に聞いていただきます。そして「こんな風に変えて欲しい。」「ここはわかりにくい。」とか、「映画の音を聞いてれば分かるからこういうガイドは要らないよ。」というアドバイスを受けて練り直しをしていきます。このモニター会が大体1週間前くらい。ライブガイドの場合は、前日の夜に相談したりして最終的には上映当日の朝、直します。当日の朝リハーサルやってみて、さらにギリギリまで直す。そんなことをやっていますね。ライブですから原稿ができたらあとは一発勝負。しゃべるだけなんですね。

ーーヨコハマらいぶシネマでは鳥居さんがディスクライバー*をされてるのでしょうか?
*ディスクライバー:音声ガイドの脚本原稿の執筆者

鳥居 ハマらいぶの場合は"ガイド担当"ということで、ライブでナレーションする方が原稿も書きます。でも、私がガイド担当をする時には原稿は書かないです。特殊技能ではないのですが、原稿は一切書きません。その場で即興で生中継してしまいます。原稿を書いてる時間がまどろこしくて。元々シティライツのみなさんもそういう方が多かったんですよ。私はそういうところで習ったので、映像を観たらすぐに言う、っていうのが自分の中で身についてるものですからね。

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ガイド担当をする鳥居さん

他の方がガイド担当をされる場合は、自分で書いて自分で読んでいただいています。なぜならギリギリまで台本ができないから、読む人に事前に台本を渡すことができないでしょ。原稿を読む本人がこのタイミングで読もうとか、ここは力を入れてしっかり読もうとか考えながら書いてるんですよね。

録音する場合はディスクライバーとナレーションは分かれています。ディスクライバーが読みやすい台本を作成して1週間前にはナレーション担当にお渡しして、練習してもらっています。なので精度の高いものになります。

ライブならではの醍醐味

ーーライブならではの難しさや醍醐味はありますか?

鳥居 限られた時間の中で急いで作るわけですし、ライブは一発勝負ですから失敗することもあります。うまくいかない日もあるんですけれども、逆に、当日ギリギリまで練習をして、原稿を書き換えて。それで、一発勝負の2時間を集中すると、やっぱりライブならではの緊張感というのがあって。お客さんにも「多少ミスしてもいいよ。映画おもしろかったんだから。」と言っていただけたりします。マイクを持って映写室から今映ってる映像についてしゃべっているのを、ラジオを通じて劇場で直接聞いてくださっているので、気持ち的には目の不自由な方の隣にいて、今こうなんですよ、とガイドができる。これは、あらかじめ録音したガイドでは出ない雰囲気ですし、終わった後、疲れた、大変だった、うまくいかなかったなと思っていても、劇場の外で、今映画を観たばっかりの方が来てくださって、「よかったよ。」「感動したよ。」っておっしゃってくださると、失敗したという思いが吹っ飛んで、ああよかった、またやりたいなって気持ちにさせてくれる。そういったライブでしかできない体験、悦びがある。それがライブの醍醐味ですね。

おもしろかったのが、以前、あらかじめ観させていただいた映像と、当日上映のバージョンが違ってたことがあって。そういうことはたまにあるんですね。例えば、昔の映画ってフィルムだから、傷むと切れちゃうんですよね。美空ひばりさんの古い映画に音声ガイドを付けるので、DVDで事前に練習しておいたんですよ。ところが、上映してみたらば、途中5分ぐらいスパッと抜けて、あっという間にチャンバラシーンが始まるということが起きて。こういうのは録音では対応できないんですけど、私がもうその場で、しまった!場面飛んでるよ!って分かったので、「場面が飛んでしまってチャンバラが始まっています。」って説明をしました。それはもう生中継だと思ってもらえるといいのですが、そういったアクシデントに対応できるというのも、メリットと言えばメリットですね。

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音声ガイド台本制作の様子

YFFFでの音声ガイド付き上映

ーーYFFF2021ではVOY!-光と影の冒険-というロシアのブラインドサッカーの作品で音声ガイドを付けていただいてますが、映画を観ていかがでしたか?

鳥居 おもしろい映画ですねー。サッカー知らなくってもなんかこう、スポーツをやってる人たちには絶対におすすめだね。どこにでもあるような問題だよね。

福島(YFFF実行委員長) 珍しいですよね。大抵選手にフォーカスが当たっていくけど、この作品は監督に当たっていて、スポーツ界の政治的なところで押しやられていくという新しい視点でしたね。

鳥居 障害者スポーツって独特なところがあるから、監督と密接な関係になるのはすごく大切なことですが、それを強くしていくためにどうするか、というのを考えると、常にああいう問題にはぶつかりますよね。本当におもしろい映画でした。
毎回いい作品選んでくるからもうねー。お茶会も盛り上がっています。

『VOY!』は録音形式の音声ガイド付きなので、字幕を読むのが大変な方やお子さんにもいいと思います。私も字幕追うのが面倒くさいので。

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YFFFでは、この音声ガイド付きの『VOY!-光と影の冒険-』を様々な場所で上映して、ブラインドサッカー、障害者サッカーの魅力をさらに多くの方に知ってもらいたいと考えています。
ご興味ある方は、ぜひコチラまでご連絡ください

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VOY!-光と影の冒険-
2019年/ロシア/78分
監督:マキシム・アルブガエフ
出演:ニコライ・ベレゴヴォイ、アレクサンドル・エラストフ、セルゲイ・マンゾス
原題:VOY
ロシアにブラインドサッカーを持ち込み、選手たちの人間教育にも努めてきた代表チーム監督のニコライは突然その座を追われてしまう。後任のエラストフはブラインドサッカーは未経験だが、厳しいトレーニングで選手たちを鍛え上げようとする。ヨーロッパ選手権での優勝を目指す代表チームは、結果を出すことができるのだろうか。
<<過去のYFFF音声ガイド付上映作品>>
2012年 オフサイド・ガールズ
2013年 コッホ先生と僕らの革命
2014年 プライドinブルー 落合選手がお茶会に
2015年 ガンバレとかうるせぇ
2016年 ノンフィクションW 盲目のストライカー 世界へ
    〜ブラインドサッカー日本代表 闘いの軌跡〜
2017年 U31
2018年 アフリカ・ユナイテッド
2019年 蹴る

バリアフリーの輪を広げよう

ーー新メンバーの募集はされていますか?

鳥居 ヨコハマらいぶシネマはいつでもウェルカムです。メール1本いただければご案内します。今はコロナの関係でライブガイドはお休みしていますが、録音版を作って上映するという形で今年に入ってから始めまして。
事前に録音・編集した音声ガイドをラジオ送信する方式でこの半年やっています。音声ガイドがなかった『佐々木、イン・マイ・マイン』とか『哀愁しんでれら』とか。『愛のコリーダ』にも音声ガイドをつけて、視覚障害者の方にハードコアポルノをお届けして。何がおかしいって『愛のコリーダ』はボカシが入るじゃないですか、でも音声ガイドはボカさないんですよ。ボカシなしで観ていただきました。

今までは音声ガイドは特別な手段でしたが、レンタルのDVDにも付いてるしね。スマホがあれば今公開中の映画はガイド付きで聞くことはできるので、みなさんにも一度聞いていただいて、こういうやり方があるんだなって知ってもらえるといいと思います。これはまだ難しいけど、できれば外国語映画にももっと付けたいですね。

ヨコハマらいぶシネマ公式ウェブサイトはこちら

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東京ディズニーランドでは音声ガイドのあるアトラクションもあるそうです。スポーツの現場でも、プロレスに音声ガイドを付ける活動をされている方がいらしたり、日本サッカー協会では、聴覚や視覚などの感覚過敏の症状がある方向けの"センサリールーム"の常設を目指したりなど、日本でもバリアフリー化は日々進んでいるようです。

1作品の上映回数が少ない映画祭や特集上映で音声ガイドが付くというのは、実はとても珍しいことなのです。この機会に、ぜひYFFFでご体験ください!

また、鳥居さんは2020年にバリアフリー音声ガイド専門の制作会社株式会社音声ガイドットを設立され活躍中です。話題作の音声ガイドも多数手がけられているのでこちらにもご注目ください!

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