「なぜ?を大事に」ずっと考えています「電凸」「炎上」「フェイク」について
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

「なぜ?を大事に」ずっと考えています「電凸」「炎上」「フェイク」について

「なぜ?」の原点は沖縄勤務時代に

前回の記事は大変多くの方に読んでいただき、たくさんのご意見やご質問もいただきました。ありがとうございました。

いただいた中に「記事で炎上の対象とされている事例に偏りがあるのではないでしょうか」というご指摘もありました。

私としては特定の主義や主張で事例を選ばないこと、弁護士懲戒請求問題のときのように、批判するのではなく「なぜ?」という姿勢を大事にするように心がけています。

2019年に国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」の展示内容に多くの抗議が寄せられ、展示が中止になった問題を取材したときも、私たちのスタンスは同じでした。

画像1

(2019年9月放送 クローズアップ現代+「『表現の不自由展・その後』中止の波紋」より)

企画展を開催した側と、企画展を批判した側、それぞれの思想や信条を批判するのではなく、なぜ「電凸」=行政などに電話やメールで集中的に抗議しようと思ったのかを教えてください、と聞いて回ることに徹しました。

画像2

「無言電話がかかってきたり顔をさらされたり、『ネット炎上』の取材を続けていてこわくないですか?」というご質問もいただきましたが、取材を続けたい気持ちのほうが上回っているのだと思います。
無言電話は電話に出なければ済むことだと思いますし、実際に非通知の電話には出ないようにしています。もしかしたら特ダネの情報提供を逃しているかもしれませんが…。

そもそも私はネットに強い記者ではなく、ネットの話題に関心が高いわけでもありませんでした。20年弱の記者歴の前半は、大阪府警や東京都庁といったいわゆる「記者クラブ」での取材。その後はクラブに属さず自由に取材する「遊軍」を長く続けています。

ネットのデマや偏った意見などの問題に関心を持ち始めたのは5年前、沖縄局で仕事をしていたときでした。

沖縄の基地問題を巡って、ネットでは多くの間違いや不正確な情報がみられます。代表的なものはアメリカ軍の普天間基地について、
「もともと普天間基地ができた場所は田んぼで、アメリカ軍の仕事を目当てに住民が集まり、危険を承知で基地のまわりで生活するようになった」というものです。

画像3

事実はどうなのでしょうか。普天間基地がある宜野湾市の戦前の様子は、アメリカ軍が撮影した写真を見るとはっきり分かります。役場や集落は、今の基地の敷地の中にもともとあったのです。

実際に戦前の様子を知る人はインタビューに対し「アメリカ軍の上陸を受けて避難し、その後に故郷に戻ってきたら、すでにアメリカ軍がいたため戻ることができなかった」と話しました。

とはいえ、さきほどの文をもう一度見てみましょう。
「もともと普天間基地ができた場所は田んぼで、アメリカ軍の仕事を目当てに住民が集まり、危険を承知で基地のまわりで生活するようになった」

確かに普天間基地があった場所には「田んぼや畑」はありました。そして「軍の仕事を目当てに集まってきた人がいた」のも事実です。
つまりこの文だけをみると間違いではありませんが、「集落も何も無いところに基地ができて、そこに人が集まってきた」という文脈で用いられると間違いになります。

沖縄を巡る言説には、こうした一見して間違いではないものの誤解の余地が大きい、ミスリードにつながるというものも少なくありません。

「沖縄フェイク」ともいわれる、「間違い」「あやふや」な情報の数々が、ネットの中にとどまらないでリアルの世界に入ってきたケースが相次いだことが、わたしを「炎上取材」に引き込んでいきました。

「おじぃ」の手ははっきり震えていた

2017年1月にTOKYO MXで放送された「ニュース女子」という番組で、沖縄の基地問題を巡る間違った情報が、そのまま放送されたことがあります。

私が最も驚いたのは、「このトンネルの先で反対派が暴れていて危険だから現場に近寄れない」という、現場からのリポートでした。後日、この番組について検証したBPO(放送倫理・番組向上機構)の報告書によると、実際の抗議活動は、そこから約40キロも先で行われていました。
そのほかに「反対派が日当をもらっている」という、ネットでよく見られる真偽不明な情報も、事実が確認されないまま放送されていました。

別の例では、ある日沖縄の地元紙の一面で「土人発言」ということばが報道されました。基地への抗議活動をしていた住民に対して警備に派遣されていた大阪府警の機動隊員が発したことばでした。

とても親しかったウチナーンチュのおじぃがその記事をみたときの様子を、私は忘れることができません。これまでに見せたことがない怒りと悲しみで、新聞を持つ手がはっきりと震えていました。

この侮蔑的なことばは、当時ネットの掲示板などでは、沖縄県民などを意味してよく使われていました。

沖縄を巡る多くの間違いや不正確な情報、あるいは侮蔑的で人を傷つけるようなことばがここまで広がっているという驚きと、どうしてそんなことをネットに書き込んだり、実際に話したりするんだろうという、「なぜ?」という疑問。これが私が炎上問題の取材を続けている原点だと思っています。

「PCR検査拡大」への”電凸“はなぜ起きた?

弁護士の大量懲戒請求問題で一緒に取材したディレクターから、ある日、こんなことをいわれました。

「中村くん、大谷医師っているでしょ。実は『政権批判だ』という電凸が殺到して仕事ができなくなったらしいんだ」

去年、2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大が始まっていたころ、「PCR検査をもっと広げるべきかどうか」という議論があり、テレビ朝日の情報番組「モーニングショー」に出演されていた医師の大谷義夫さんは、「検査を拡大すべき」と主張されていた一人でした。

画像4

(2020年7月放送「テレビ番組で発言 医学的意見のはずが『標的』にされた医師」より)

ディレクターと一緒にお話を伺った大谷医師の印象は「医療一筋の人」でした。
PCR検査をもっと広げるべきだと話したことが、どうして「政権批判」になるのか。そしてなぜクリニックまで電話をかけたり押しかけたりしてまで抗議するのか、さっぱり分からないと話していました。

画像5

批判はどのように広がったのか。ツイッターの投稿を分析するサービスを使って、「大谷医師」というワードを含むツイッターの投稿件数の推移をみると、はっきりと数が上昇する「山」が2つありました。最初の「山」の投稿の内容をみると、投稿していたのは「安倍政権に批判的」な立場とみられる人たちが目立ちました。そのあとの2番目の山は、反対に「安倍政権より」な立場とみられる人たちが多くみられました。

前編にも登場した大阪大学の辻准教授に分析を依頼したところ、手がかりは最初の山の中にありました。

大谷医師に賛同するツイッターの多くに、政府の対応を批判するコメントがつけられていたのです。
最も拡散していたツイートでは、大谷医師の発言を引用したあとに「なぜこの声が安倍に届かない」と書かれていました。ほかにも「政府があまりにも無能すぎる」というコメントもありました。

辻准教授は「フレーミングが起きている」と指摘しました。

画像6

辻准教授によるとフレーミングとはもともと心理学の用語で「物事を表現する枠組み(フレーム)を変えることで、与える印象を変えること」を意味しています。ここでの「フレーム」は、ある意見を自分の都合に合わせて解釈することだということです。
大谷医師の発言は政府の対応に批判的な人たちによって、自分たちに近い意見のように解釈されて広められたのではないかと、辻准教授は分析しました。

「ソーシャルメディアでは、特定の発言だけを抜き出して、それに自分なりの位置づけを与えることがよくみられます。それにほかのユーザーも大きく動かされてしまう」(辻准教授)

政治的な意図はなくただ医師として意見を述べていた大谷医師が、ソーシャルメディアの言論空間のなかでいつしか政府に批判的な立場の象徴にされてしまい、分断の構図に巻き込まれた様子が浮かび上がってきました。

それはわかったけど・・・

前編の記事で紹介した「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」もそうですが、炎上や分断が生じる構図やメカニズムが明らかになったからといって、問題は何も解決されていません。

「犬笛」ということばを聞いたことはあるでしょうか。政治家などが、一部の支持者にはわかるようなことばを使って、敵対する勢力への攻撃などを呼びかける手法のことです。
アメリカ大統領選挙がまさにそうでしたが、ネット空間で生じた極端な意見を利用する手法が、日々生まれています。

こうしたメカニズムや手法があることを、報道や学校現場の教育などで多くの人に伝えて読み手の「リテラシー」を高めることや、ネットの情報を検証して、正確な情報を伝える「ファクトチェック」も行われており、それはそれで必要だと思います。しかし次々に生まれる「デマ」や「炎上」の数々にどれだけ効果があるのか…正直、疑問があります。

それにはメディア自身の信頼性を高めていくこと。そして主義主張をこえて、話を聞く取り組みを続けること。そして対立する人たちにも伝わることばで伝えていくこと。そして、そして・・・そんなことを考え続けています。

【ご意見・ご質問をお待ちしています】

画像7

中村雄一郎 鹿児島放送局ニュースデスク

画像8

2003年入局。記者として大阪、沖縄、東京で勤務し、現在は鹿児島局ニュースデスク。専門は沖縄戦や基地問題、憲法、災害、そしてネット世論。沖縄局時代には、遺骨収集ボランティアの人たちと一緒に洞窟(ガマ)へもぐり遺骨を探し歩いた。山梨県の蔵にこもって憲法改正をめぐる重要な資料を見つけたことも。趣味はマラソンと野球、でも育児が最優先です。


記者の思い、伝わりましたか!
NHKのニュースや番組をつくっている私たちが取材に込めた思いや取材手法などをお話します。一緒に「取材ノート」をつくっていきましょう。サイトはhttps://www.nhk.or.jp/d-navi/note/ 利用規約はhttps://nhk.jp/rules