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QGISを使って「災害データを地図で分析」してみよう 初心者向けの入門マニュアル

分析を身につけるには実際に「手を動かす」ことが一番の近道です。

分析ソフトと自治体のオープンデータを使った分析の進め方をとことん詳しく、マニュアル風にご説明します。やってみたいけど難しそう、わからない!という方の参考になればうれしいです。
(※あくまでもイメージをつかむためのものですので、詳しくはネットや参考書など他の情報もご覧ください)

今回のゴール

地震による津波で浸水が想定されている区域に、子どもが通う施設がどのくらいあるのか。公開データから分析、可視化する。

以前、私が分析に携わったこの記事では、津波によって浸水が想定されている区域に、高齢者施設がどのくらいあるかを調べました。

このときのデータは、県や自治体などから取材で提供を受けたものがベースになっていました。そのままオープンにすることはできないので、今回は高齢者と同じく避難に手助けが必要な、「子どもの施設」に津波のリスクがあるかどうかを分析します。

分析に必要な技術と環境

・パソコン
(windowsでもmacでもできますが、この記事ではwindowsで説明します)
・インターネットで検索ができる。
・ネットからソフトをダウンロードして、圧縮ファイルを解凍したり、インストールしたりできる。

ちなみに今回の分析にかかる費用は基本「無料」です。

記事の中で紹介しているソフトの画面などは、バージョンによって異なることがあります。またソフトのインストールなどは、自己の責任で実施をお願いいたします。

記事でわかりにくいところなどがありましたら、最後の問合せ欄からお知らせください。記事に加筆、修正させていただきます。

①分析ソフトをインストール

分析するためのソフト「QGIS」のダウンロードサイトはこちらです。

いくつかバージョンがあると思いますが、「長期リリース(最も安定)」と書かれたバージョンが推奨です。windows、macなどお使いのPCにあわせてインストールしてください。

1GBくらいあるのでダウンロードには結構時間かかります。その間にデータを入手しましょう。

②分析に使うデータを入手

まずは津波で浸水が想定される区域のデータを入手します。
これは国土交通省の「国土数値情報」というサイトにあります。

今回は「宮崎県」について分析しますので、「宮崎」の最新データの、右側の「下矢印」をクリックすると、ダウンロードできます。

「A40-20_45_GML.zip」というファイルがダウンロードされたと思います。
これを解凍すると、7つのファイルができます。

7つのファイルは、デスクトップに作業用の「bunseki」というフォルダを作って、そこに入れておいてください。


次に保育園・こども園等の施設のデータを入手しましょう。

宮崎市が開設している「宮崎市オープンデータカタログサイト」というサイトの、「保育所・こども園等の施設一覧」というページから、「ダウンロード」をクリックすると、「hoikusho.csv」というデータをダウンロードできます。

これもさきほどの「bunseki」フォルダに入れておいてください。bunsekiフォルダには、以下の8つのファイルが入っていると思います。

③QGISに地図を表示させよう

QGISのダウンロードとインストールは終わりましたか?
さっそくこのアイコンをダブルクリックして、QGISを起動させましょう。

これが起動した画面です。(バージョンによって異なります)

左上の「プロジェクト」から「新規」を選びます。

下の図のように画面中央に真っ白な空間が表示されましたね。ここが地図を表示させる場所です。

地図のデータは、国土地理院が公開しているものを使います。
こちらのページの中にある、

「標準地図」をクリックして、

画面上部に表示されている、このURLの部分をコピーしておきます。

https://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/std/{z}/{x}/{y}.png

ではこのデータをQGISに読み込ませましょう!

さきほどのQGISの画面の左側にある「ブラウザ」という欄に表示されている
「XYZ TILES」を右クリックして、「新規接続」を選択してください。

するとこのような画面が出てきます。

「名前」には「標準地図」と入力し、
「URL」には、先ほどコピーしたhttps://cyberjapandata.gsi.go.jp/xyz/std/{z}/{x}/{y}.png
をペーストします。そして「OK」をクリックしてください。

左側の「ブラウザ」の欄の「XYZ Tiles」の下に「標準地図」が追加されていますね。これをダブルクリックしてみましょう。

すると・・・!

さきほどまで真っ白だったスペースに地図が表示されましたね!
地図上でマウスのホイールを回したり地図をドラッグしたりすると、地図の表示をズーム、移動できます。

ここまで無事に進みましたか?
この地図にさまざまなデータを載せていきますよ。

④津波のリスクエリアを地図に載せましょう

②でつくったbunsekiフォルダにある、「A40-20_45.shp」というファイルをドラッグして、QGISの地図上にドロップしてください。

そのときこんな画面が現れたら、「OK」をクリックしてください。

これで浸水想定域の読み込みはできました。
え、何も変化はないみたい?
日本地図を、ズームしていってください。マウスのホイールを回転させると、ズームできます。

日本の九州のあたりをズームしていって、

宮崎県の宮崎市のあたりをズームしていくと・・・

津波の浸水想定区域が表示されました!
色は個人の環境によって異なります。
でもこのままでは見にくいですね。色を変えましょう。

画面の左下にある「レイヤ」の欄から、先ほど読み込んだ「A40-20_45」をダブルクリックしてください。

「A40-20_45」をダブルクリックします

右側に色などを変更できる画面が出てきましたね。
左の欄で「シンボロジ」を選択しておいて、右の欄の上にある「塗りつぶし」の「シンプル塗りつぶし」をクリックしてください。

次に「塗りつぶし色」をクリックして、左の欄から、青っぽい色のところをクリックして、「OK」をクリックしてください。

次に「塗りつぶしスタイル」は「パターン4」を選択してください。

そして「OK」を押すと・・・

だいぶ見やすくなりましたね。

⑤子どもの施設のデータを載せましょう

次に、子どもの施設の位置を読み込ませます。
②でダウンロードした「hoikusho.csv」を開いてみると、

施設ごとに緯度と経度の情報が付いていますね。確認できたら、いったんファイルを閉じて下さい。

緯度経度がついたデータをQGISに読み込ませるには、上部のバーから「レイヤ」→「レイヤを追加」→「CSVテキストレイヤを追加」をクリックしてください

すると下のような画面が出てきます。右上の「・・・」マークをクリックして、

先にダウンロードした「hoikusho.csv」のファイルの場所を選んで、ダブルクリックしてください。このような画面になると思います。

ファイル形式は「CSV」を選択して、
上の画面にある「ジオメトリ定義」をクリックしてください。

「X属性」をプルダウンして「経度」を、「Y属性」は「緯度」を選択。
ジオメトリのCRSは、「デフォルトCRS~」を選択してください。

最後に「追加」をクリックします。

地図に色のついた点がプロットされました!これが保育施設の場所です。(色は個々の環境によって異なります。点が下図のように表示されないときは、マウスのホイールで地図を拡大、縮小したりすると表示されることがあります)

ちょっと見にくいですよね。
左の欄の「レイヤー」に表示されている「hoikusho」をダブルクリックしてください。

下の欄に、マークの見本が並んでいますので、白い丸の「dot white」を選択して「OK」をクリックしてください。


だいぶ見やすくなりましたね。
いくつかの子どもの施設が浸水想定区域の中にあることがわかります。
さて、最後の手順です。

⑥施設ごとに浸水の深さを算出しましょう

施設がプロットしてある場所では、どのくらいの浸水が想定されているかを調べます。

まずは津波浸水想定にどんなデータが入っているかを確認しましょう。左の欄の「レイヤ」の「A40-20_45」を右クリックして、「属性テーブルを開く」を選択してください。

津波浸水想定区域のデータには、浸水の深さの情報があることがわかります。

この浸水の深さのデータは、「A40_003」という列にあります。
このデータを、子どもの施設のデータにくっつけるのです。

QGISの画面の上部、ツールバーにある「ツールボックス」というアイコンをクリックしてください。

画面の右側にずらっとでてきた項目の中の「ベクタ一般」から、「空間結合(集計つき)」を見つけて、ダブルクリックしてください。

以下のような画面が出てきます。難しそう~

子どもの施設のデータに浸水の深さをくっつけ(結合)ます。
「入力レイヤ」の欄をプルダウンして、「hoikusho」を選択。
「結合するレイヤ」の欄は、「A40-20_45」を選択しておきます。

その下の「ジオメトリの空間関係」は、施設が浸水想定区域内にある、という関係ですので「含まれる」にチェック。「交差する」はチェックを外してください。

その下の「集計する属性」の「・・・」をクリックして、浸水の深さを示す先ほどの「A40-003」を選択して、「OK」をクリックしてください。

その下の「計算する集計関数」は、「最大値」を選択して、OKをクリックしてください。

ここまでの画面です。右下の「実行」をクリックしてください。

実行すると、このように赤いメッセージが表示される場合があります。

この場合はいったん「閉じる」をクリックしてください。

そして先ほど歯車マークをクリックして表示される、画面右側のツールボックスの一覧から、「ベクタジオメトリ」「ジオメトリの修復」をダブルクリックしてください。

「入力レイヤ」では「A40-20_45」を選択して、「実行」をクリックしてください。

処理が終わったら「閉じる」をクリックしてください。

「レイヤ」の欄に、「出力レイヤ」というものが新たに追加されましたね。
これが津波浸水想定区域の、修復済みのデータとなります。
その下の「A40-20_45」というレイヤのチェックは外しておいてください。

この例では浸水域が赤茶色になっているので、前にご説明した手順で、青色に修正しましょう。

そのうえで、上の「ベクタ一般から、空間結合(集計つき)を見つけて、ダブルクリック」という手順から、もう一度行ってください。その際、「結合するレイヤ」には、「出力レイヤ」を選択してください。

実行すると「結合レイヤの空間インデックスが存在しません」と表示されることがありますが、これは特に問題ありません。

⑦浸水の深さを目立つよう表示する


さて、ここまでの手順でレイヤの一覧はこのようになっていると思います(個々の環境によって微妙に異なります)

一覧にある「●出力レイヤ」は、こどもの施設に浸水の深さのデータが付いたものになります。

データを確認してみましょう。「●出力レイヤ」を右クリックして「属性テーブルを開く」をクリックしてください。

これまでは無かった「A40_003」のデータが追加されていますね。
子どもの施設のデータに、その場所の浸水の深さのデータが結合されたというわけです。

施設によっては想定される浸水の深さが違うので、地図上でもわかりやすいように色分けしていきましょう。

「●出力レイヤ」を右クリックして、「シンボロジ」を選択します。

一番上が「単一定義」となっているのを、「カテゴリ値による定義」に変更します。

施設を一律同じマークにしていた設定を、「何らかのカテゴリで分類して表示しますよ」という意味です。

次は、どのカテゴリで分類するかを設定しましょう。
「値」をプルダウンして、「A40_003_max」(浸水深のデータ)を選択します。

「分類」をクリックしてみましょう。

浸水の深さに応じて施設の●(シンボル)の色が変わりましたね!

シンボルをダブルクリックすると色が変えられますので、深いカテゴリほど色を濃くしてみましょう。

浅い方から、黄色→赤→紫、としました。

浸水深がないシンボルは、区域外の施設なので白にします。

これで「OK」をクリック。
すると左下のレイヤが、浸水深ごとに分類されました。

地図の方も、浸水が深い施設、浅い施設がどこにあるのか、視覚的にすぐに分かるようになりました。

ここからさらに細かい確認作業も必要ですが、分析の基礎としては、以上になります。

施設の近くには津波避難タワーがあるでしょうか?
保育所だけで避難が可能でしょうか?
避難の手伝いをしてくれるような人は地域にどのくらいいるでしょうか?

そんなふうに、ここからさらにデータを重ねたり、現地に足を運んだりして、よりよい避難のあり方を探っていきましょう。

今回は施設数が200あまりと少なかったので、ハザードマップを使って目視で確認することも十分に可能ですが、県全体や全国について分析したいときは、こうしたGISを使わないと困難です。

一度ではなんのことやら・・・かもしれません。私がそうでしたから。
日を改めて上記の②~⑦の手順を、そのままもう一度やってみてください。
なんとなく手順がわかってきたら、こんどは別の都道府県や、子どもの施設以外のデータなどで試してみてください。
そうすると、自治体によってデータが揃っているところといないところなどの差も見えてくると思います。

ネットを検索すると、QGISのさらに詳しい使い方が紹介されていますし、最近は初心者向けのわかりやすい参考書も多く出ています。
ぜひ有効に活用して、一緒に分析の世界を広げていきましょう。

齋藤恵二郎 社会部記者

2010年入局
岩手県の沿岸支局での勤務をきっかけに、震災取材を継続
GIS×報道の可能性を日々、探っています。

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