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土曜ドラマ「探偵ロマンス」撮影チーフが語る“安達もじり監督”との舞台裏

全国数十万の安達もじり監督ファンの皆様こんにちは。

1月21日から始まった土曜ドラマ「探偵ロマンス」で撮影チーフを担当している大和谷やまとやです。

大ヒットした「カムカムエヴリバディ」のスタッフ・出演者が再集結すると聞いた際には、興奮された方も多かったのではないでしょうか?

残念ながら私はカムカムファミリーでは無いのですが、カムカムはじめ、これまでの安達作品には大変興味をかれていましたので、今回、安達監督と初めてタッグを組むことが決まった際には、私も皆さんと同じくとても興奮しました。

※実はNHKには「監督」という担務名は無く、安達もじり監督の正確な呼び方は「安達ディレクター」です。
しかしドラマの現場においてはスタッフも俳優陣も、担当演出のことを「監督」と呼ぶのが一般的となっていますので、今回はあえて「安達監督」と書かせていただきます。

と、本題に入る前に、まずは私がどのような人間なのかを知っていただいてから、この先を読み進めていただいた方が良いと思いましたので、ここで簡単な自己紹介をさせてください。

大和谷 豪(やまとや ごう)
高校までは野球、大学ではラグビー部に所属。
大学卒業後、一度は大手通信会社に就職し営業マンとして活動していたが、華やかな「音楽番組のキャメラマン」への、興味と憧れが捨てきれず転職。
だが入局直後の研修で就いた、ドラマ制作の「超体育会系なノリ」と、野球やラグビーにも通ずる「チームワーク」に心奪われてしまい、以来ドラマ制作一筋。
大河ドラマ「風林火山」「龍馬伝」、土曜ドラマ「クライマーズハイ」「64」など撮影を担当していた佐々木達之介キャメラマンの、「広角レンズ」を巧みに活用した独特の世界観創りにほれ込み弟子入り。その技術を体得してきた。
探偵ロマンスでも撮影チーフを担当。今までの主な担当作品は、大河ドラマ「八重の桜」「おんな城主 直虎」、連続テレビ小説「まれ」など
筆者写真

安達監督と初めての現場

では本題に入りましょう。

私と安達監督は初対面というわけでなく、だ私が駆け出しだった頃(15~20年程前)、何度か同じ現場で顔を合わせた事がありました。

当時から安達監督は年齢不詳で、今日まで、その貫禄たっぷりな姿から「私より相当先輩なんだろうなぁ」などと勝手に思っていたのですが、実は私と同い年だったということが発覚。

入局年次は安達監督の方が早いので先輩には変わりありませんが…

まあなんと言いますか、

とても裏切られたと言いますか、今年一番の驚きからこのドラマの制作がスタートしました(笑)。

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左・安達監督 右・筆者

しかし撮影が進むと、あらためて安達監督の「年齢詐称疑惑」が浮上します。

公の文章で身内を褒めるのはあまり良くないのかもしれませんが、安達監督は常に冷静沈着で、誰に対しても優しく、本当に物腰の低い姿勢で演者やスタッフに接してくれます。

「芝居の捉え方」、「眼力や着眼点」も鋭く、その態度や立ち振る舞いは、正に熟練監督の雰囲気そのもので、あの山田洋二監督とかぶる瞬間すらありました(笑)。

(ちなみに私は2020年8月24日放送「戦争童画集~75年目のショートストーリー~」という番組で数週間ほど山田監督とお仕事させていただきました)

私はこれまで数多くのドラマ監督達と仕事をしてきましたが、これほど高い演出力を持ち合わせているのにもかかわらず、これほど声を張り上げない(荒げない)監督も初めてでした。

もちろん「優秀な監督=声が大きい」ということでは決してありませんが、やはり皆、おもいが強くなれば強くなるほど熱量が膨らみ、時に声のボリュームが大きくなるということはよくあるのですが(どう喝するとかではなく!!)、

今回、安達監督と3か月近く現場を共にして 、そのようなシーンには一度も出会うことはありませんでした。

ちなみに安達監督が、良いカットが撮れてちょっとテンションが上がっているときは、インカムで『とても良きかな…です』と、優しく古文調に褒めてくれます(笑)。

ちなみに「良いカット」とはどんなカットなのか…?

これは言葉で表すのは非常に難しいのですが、脚本のおもいと監督のおもいが芝居を通して100%(又はそれ以上)表現され、且つその芝居が最高の状態(アングル、光、影、気候…など)で、キャメラで『刈り撮られた』時に生まれるカットのことを示すと私は考えています。

そして、その沢山のおもいが視聴者の皆さまに、喜び、笑い、悲しみ、感動…といった形で伝わった時にそのカットは「完成」します。

では本作品の中で、監督がどのカットで「良きかな…」をささやいたのか? そんなことを想像しながらご視聴いただければ幸いです。

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アクションシーンをどう演出し、撮影する?

「カムカムエヴリバディ」はじめ、これまでの安達作品をご覧になった方は何となく感じられていると思いますが、その温厚な性格から生まれる、優しさあふれる演出が彼の作品の特徴です。

しかし今回の「探偵ロマンス」では、人間模様を描くと同時に「アクション・エンターテインメント作品」として、これまでの作品とは少し毛色の違う演出も求められました。

安達監督の優しさが、ある種のバイオレンスをどのように包み込み、表現するのか?

楽しみであると同時に、撮影チーフとしていつも以上に、監督の頭の中をより細かくのぞき見る作業が求められました。

更に今回は、「牙狼シリーズ」や「ザ・ファブル」のアクションシーンを演出された、横山誠監督をお招きし、超本格的なバトルシーンの撮影にも挑むことになりました。

連続ドラマでは複数人の監督が、それぞれの担当回を決めて演出することはよくあるのですが、1話の中で2人の監督が混在することはなかなかありません。

担当キャメラマンとして色違いの演出プランを、如何いかにシームレスに繋ぎ、一つの作品として完成させていくかが、今回私に課せられたテーマでもありました。

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撮影の様子を見守る横山監督(一番右)と筆者(左背中)

そんな横山監督の演出ですが、芝居の大きな流れを細かくパート分けし、そのパートをアクション毎に、さまざまなアングルで撮影していきます。

具体的には、「走る」「しゃがむ」「立つ」「蹴る」「殴る」「撃つ」という動作の一つ一つを、それぞれ的確なアングルで捉え、モンタージュしていくのですが、これを実際に撮影するには相当な準備が必要となります。

まずは事前に横山監督率いるアクション(スタント)チームの皆さんが、撮影現場を模したスタジオで芝居を行い、その様子を動画で撮影して編集まで行い、絵コンテならぬ「VTRコンテ」を作成してくれます。

VTRコンテ
VTRコンテのほんの一部

我々はそれを事前に確認し、更にそれをカットごとにスクリーンショットして紙にまとめた、「アクションシート」を現場で確認しながら撮影を行うのです。

劇中写真
劇中写真

ちなみに大河ドラマは複数台のキャメラを、被写体を囲むように並べ、芝居を一連で撮る」ことが多いので、1カットあたりの尺が十数秒程度と長くなります。

それを編集で短く切り貼りしてリズムを出すのですが、横山監督の手法だと、1カットあたりの尺はおよそ0.5秒~2秒程度となり、1シーンあたりのカット数はおよそ100カット~180カットにも及びます。

このような手法でアクションシーンの撮影を行うのは初めてだったので、とても新鮮で非常に勉強になりました。

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アクションシーンの撮影をする筆者

広角レンズと望遠レンズで表現する世界観

また、アクションシーンは「勢い」と「迫力」が勝負となるので、被写体に接近して撮影することが出来る「広角レンズ」が多用されることとなります。

しかし安達監督がこれまで担当した作品は広角とは逆の「望遠レンズ」が多用されています。

広角レンズは「強調」や「迫力」といった効果があり、それに対して望遠レンズは「整然」「落ち着き」といった効果を生み出します(超ザックリとした表現ですが)。

本作品においても、クランクイン前のミーティングで、安達監督から「望遠レンズを活用し、被写体から一歩引いた(距離をとった)映像で構成していきたい」との要望を受けていましたし、私自身は前述したとおり「広角レンズ」の扱いが得意なのですが、さまざまな映像コンテンツがあふれているこの時代に、己の表現域を更に広げたいと考えていましたので、今回は望遠レンズをメインに、「ボケ味」を活用した映像表現が出来るような機材を選定し、撮影プランを構築していきました。

劇中写真
「ボケ味」を生かしたカット

近年のドラマや映画は、「1カットの尺は4秒以下」という短いカットを積みかさねるのが主流となっていますが、安達監督のイメージを具現化するためには「持続力のある力強い1枚画」が必要であると感じましたので、抽象的な表現ではありますが、「芝居を流れで捉え、現場の空気感をそのままキャメラに収める」ということを目標としました。

更にこのドラマは、主人公の「太郎」の成長を描くわけでもなく、ミステリー要素はあるものの、最後の最後まで謎解きをするわけでもありません。

江戸川乱歩の小説を読み進めるような、彼が「活字と行間」で描いた世界観とその魅力を、如何いかに映像で表現するかという、非常に難しい課題と戦うことになりました。

そこで役立ったのが、夜ドラ「あなたのブツが、ここに」での経験でした。
私はテクニカル・ディレクター(技術総責任者及び、映像の責任者)として参加していたのですが、「あなブツ」でも、安達監督の思想と同様、視聴者の皆様に「落ち着いた一枚画でしっかりとお芝居を感じてもらう」ということをテーマに映像のトーン(色味、ボケ具合、構図…など)を作り、それに伴う撮影機材の選定を行っていましたので、この時の経験を、この「探偵ロマンス」でもいろいろと活用させてもらいました。

そんなこともあって、安達監督とはお互いチーフ同士としては初めての現場でありましたが、比較的スムーズに撮影に入って行くことが出来ました。

しかし、みなさんお気づきでしょうか。アクションシーンとそれ以外のシーンは、レンズや映像構成が真逆になっているのです。

この違いがどのように作品に影響するのか?これについては、流石に私も安達監督も「編集してみないと分からん…」状態でした(笑)。

しかし、私はこのギャップが生み出す新たなリズムが「探偵ロマンス」の魅力の一つだと思っています。

この後、実際に作品をご覧になり、視聴者の皆様がどのように感じられるか?その反応が楽しみで仕方がありません。是非そのあたりにも注目してご視聴いただければ幸いです。

最後になりますが…

役者部の皆さん、スタッフの皆さん、ロケにご協力いただいた多くの関係者の皆さま、本当にありがとうございました!!主演の濱田岳さんはじめ、本当に素晴らしい役者陣に囲まれ、毎日すばらしい演技に酔いしれ、正にロマンスな日々を過ごさせていただきました。いつか、今度は「探偵ロマンスチーム」として、『探偵ロマンス2』の現場にて再集結しましょう!!

               「探偵ロマンス」撮影チーフ 大和谷 豪

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