生理は、タブーではなくプライバシー。ないことにしないで、みんなで考える社会にしたい【#生理の話ってしにくい】
「前岡さん、生理について記事を書いてみない?」
名古屋局2年目、報道カメラマンの前岡です。
初任地であるここ名古屋で、毎日さまざまな取材に励んでいます。
9月中旬、たびたび仕事の相談をしていたカメラマンの先輩から、冒頭のお誘いがありました。
生理の貧困や性暴力など、女性の権利・尊厳に関する話題が頻繁に取り上げられている昨今。
自分も当事者として何か関わることができないかと思っていたさなかのお誘いに、即答で「やります!」と返信しました。
その後送られてきたテーマが、今回の「#生理の話ってしにくい」。
…正直、ピンときませんでした。
なぜなら、私にとって生理の話をすることは、あいさつと同じぐらい生活になじんだ「当たり前のこと」だったからです。
この記事では、「生理の話が当たり前」だったことで生きづらさを解消できた私の経験、そしてその過程で見えてきた“ある問題意識”を共有したいと思います。
「生理の話ってしにくい」がゆえに、「不調を抱えているけれど、誰かに相談する勇気がない」。「苦しんでいる人にどう接すればいいのかわからない」。
そんな方々にとって、この記事に登場する当事者の姿・思いが、何かのヒントや一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
私たちにとっての「当たり前」
「生理の話があいさつと同じ」とはどういうことなのか、ピンとこない方もいると思います。
例えば、これは私と会社の同期のLINEです。
これは、たまたまお互いの生理の時期が重なっていて、「生理の期間って本当に憂うつで何もできない」という気持ちを愚痴っているやりとりの一部です。
私のほうは翌朝起きたら血が止まっていて、結局不正出血だったことに今度は落ち込んでいます。生々しさにぎょっとする方もいるかもしれませんが、こんなやりとりが私の日常です。
生理とそれにまつわるさまざまな症状は、生活とは切っても切り離せないもの。
「きのう飲み過ぎて二日酔いだよ」とか「夜更かししたから眠いなあ」と同列に「生理だからきょうは調子が悪い」があります。
だから、生理の話はしやすい/しにくいというよりも、「しなければ自分の体について語ることができない必要不可欠の要素」といった方がピンとくるのです。
試しに、私のLINEアカウントで「生理」ということばがやりとりされた回数を検索してみると、こんな結果になりました。
会話の相手は全員同世代(20代)の女性ですが、中には300回を超えるケースもあり、これには自分でも少し驚きました。
しかし、生理の話をするということは、そのぐらい自分自身の健康と向き合ううえで欠かせないことなのです。
私が抱えていた不調
私はいわゆる、PMS(月経前症候群)と言われる不調を抱えていました。
特に重かったのが「睡眠障害」と「無気力感」、そして「情緒不安定」です。具体的に生活への影響に置き換えてみると…
睡眠障害:早朝の取材を控えて早い時間にベッドに入っても、どうきや原因不明の焦燥感、ほてりで明け方まで寝つくことができず、睡眠不足のまま取材へ向かう
無気力感:洗濯しないとあした仕事へ着ていくシャツがないのに、洗濯機までたどりつけず、夜中まで廊下でへたり込んで動けない
情緒不安定:なんでもない先輩のひと言に深く傷ついて、会社のトイレでしばらく泣いてしまう
こんなことが、珍しくはありませんでした。
月の決まった時期、こうしてどうしようもない日がやってくると「ああ、もうすぐ生理が来るんだな」とぼんやり悟るのが、いつの間にかすっかりお決まりのルーティンに。
こんな生活にひどくうんざりしていたと同時に、実はかなり戸惑ってもいました。実は生理前の諸症状がここまで悪化したのは、去年の春、社会人になってからだったからです。
話すことで紛らわせる生活
そんなとき決まって頼りにしていたのが、大学時代の友人や会社の同期たち。不安なことを率直に打ち明け、その時々の気を紛らわせていました。
例えば、こんな会話(というよりも一方的な泣き言)です。
これは、去年8月頃のチャット。私が前述の同期の女性に送ったものです。
「生理予定日までもう少し」という猛暑のある日、早朝から屋外での取材が連続し、昼過ぎに会社へ戻った頃にはトイレまでの行き来もしんどいほど気力も体力も底を尽きていました。
そんな私を心配したデスクが「定時前だけど、もうきょうはあがっていいよ」と声をかけてくれたのを「見限られたんだ」とあらぬ方向へ解釈し、半泣きで会社のエレベーターを下りながら同期に送ったLINEです。
しばらくして、同期の女性からは「泣きそう?」「めっちゃわかる」と返信がありました。
今振り返ればこのことばがデスクの良心だったことも、自分の解釈のゆがみが生理由来のものだったこともわかるのですが、当時はそのふたつともをうまく処理することができず、混乱してしまっていました。
そんな不安をお互いに吐き出し、共感し合ったり慰め合ったりすることで、少しでも気持ちを落ち着けていたのです。
「ピル外来に行って」の一言で
もちろん、自分なりにこのしんどさをどうにかしたいと、婦人科に通ったり、友人から勧められた市販の薬をいくつか試してみたりはしていました。
しかし、処方してもらった薬がほとんど効かなかったり、仕事上、食事の回数やタイミングがどうしても不規則になりがちだったりすることから、「1日3回、食前に」のただし書きがある薬は続かずじまいで、どれもこれも中途半端に終わってしまっていました。
たくさんのお金と時間を使ったけれど、続けられない。思ったような効果が出ない。
1年以上もそんなことを繰り返すうちに、いつの間にか「対処しようとしてよけいに疲れてしまうなら、耐え続けたほうが楽なのかも知れない」と諦め半分になってしまっていたのです。
そうしてこれといった解決策を見つけることができないまま、毎月やってくる変化の波にもまれ続けていたところ、いつも不調を相談していた親しい先輩の1人から、こう強い勧めを受けます。
これがそのときのやりとりです。
彼女も、もともとはPMSに苦しんでいた1人です。
ちょうどこの提案をされる数か月前に、勤務先の産業医に相談しながらピルの服用を始めて症状が改善し、快適な生活を送れるようになったという話をしてくれていました。
私自身、彼女の話を聞いて「低用量ピル」という選択肢があることは分かっていたものの、当時かかっていた婦人科の先生がピル処方にとても消極的だったことと、さんざんあらゆる方法を試して効果が出なかったことで、いっそう腰が重くなっていたのです。
しかし、病院まで探し出して具体的な提案をしてくれた彼女を前に「これで動かないのはやばい」と思った私は、ピル外来のある婦人科から自分に合いそうな病院を選び、約1年半のPMSとの戦いの末に「低用量ピル」を処方してもらうに至りました。
4週間分で1シートにまとまった錠剤を、1日1錠、決まった時間に飲み進めていきます。
4週目の7粒は「偽薬(プラセボ)」といって何の成分も入っていない薬。きちんと飲み進めればこの「偽薬期間」の3、4日目あたりに生理が始まるので、スケジュール管理もしやすくなります。
飲み始めに副作用で吐き気などの不調が出る人もいるそうですが、私は多少の不正出血のみで無事に飲み進めることができ、その後、PMSの症状は嘘のように落ち着きました。
偽薬期間(生理前数日)にさしかかり、「あ、今っていつもならPMSで苦しんでいた時期だ」と気付いたとき、生理前なのにきちんと寝つける、意味もなく泣きたくならない、傷つかない、「いつも通りの生活」が送れていることに、ことばにできないほどの安ど感を覚えました。
解消された「生きづらさ」。でも…
こうして悩みを打ち明けたことで「低用量ピル」という解決策に出会い、生理との向き合い方に一段落がついた私。
しかし、PMSが生理にまつわる症状のすべてではなく、低用量ピルだって万能薬ではありません。身の回りで生理にまつわる不安や課題を抱えている女性たちは、まだたくさんいます。
つい先日、たびたび悩み相談などをする仲だった知人のAさんが「実は私も…」と生理の悩みを打ち明けてくれたことがありました。
はた目からはそんな不調を抱えているようにはまったくもって見えなかった彼女。
我慢に我慢を重ねて装っていた「精一杯の普通」が、私にとって「当たり前のAさん像」だったことに複雑な思いを抱いたと同時に、毎月その痛みと向き合いながら生活することがどんなにしんどかっただろうと思わざるを得ませんでした。
そして同時に、彼女のような人の苦痛を少しでも楽に解消できるような仕組みがなぜもっと充実しないのかと、強い疑問も湧き上がってきました。
なぜなら、Aさんが自身の不調と一緒に打ち明けてくれたのが、「生理はつらいけれど、治療にかかるコストを考えるといつも“我慢する”ほうに流れてしまう」という悩みだったからです。
実際に、こんなニュースもあります。
以前の私やAさんのような人はきっと日本にはまだたくさんいるのに、そんな人たちが有効な解決策のひとつから「構造的に遠ざけられている」のではないか、ということも、正直時々感じてしまいます。
いま、わたしがしたい「生理の話」
生理についてことばを交わす中で、私は自分の生きづらさに一つの区切りをつけることができました。
話をする人が居なければ、きっと「低用量ピル」が選択肢になることも、もしかしたら「自分が生理にまつわる不調をかかえている」と自覚することもできなかったのではないか?とも思います。
記事冒頭で「私にとって生理の話は当たり前」と書きましたが、それはこんなふうに自分の声を受け止め、真剣に考えてくれる人がいたからです。
だからこそ今の私の思いは、たくさんの人にもっと生理を知ってほしい。そして誰かのつらさを「受け止める側」の素地を、もっともっと広げたい!という2つ。
いま自分の隣にいる誰かの不調をタブー視せず、見守ったり、解決に向けて協働したりできる場。当事者にとっては安心して自分の話ができる場を、みんなにとっての当たり前にしたいのです。
そしてそんな当たり前を、いつかはAさんが値段の心配をせずに治療を選択し、私が「仕事帰りにピル買っていく」ことができる社会につなげていきたいのです。
生理は、タブーではなくプライバシー。ないことにするのではなく、大切に扱われるべきこと。
社会全体でそんな認識をつくることが、私の夢です。
だからまずは「自分から話して、生理について理解してもらう」、そして「誰かにとっていつでも寄りかかって良い場所でいられるよう努力する」ことで、半径数メートルから少しずつでも変えていきたいと思います。
この記事がその一歩になるよう、これからも勉強を続けながら、できることを見つけていきます。
報道カメラマン・前岡 和
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