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“できない”言い訳はしない 主演・伊藤万理華と障害のある俳優たちと共に作りあげた土曜ドラマ「パーセント」の舞台裏

土曜ドラマ「パーセント」をご覧いただいている皆さま、ありがとうございます。
本作を企画しました、プロデューサーの南野彩子です。

第3回が放送されましたね。
初めてのドラマ撮影にうれしくも手いっぱいになってしまう新人プロデューサーの未来みくや、涙をこらえるハル…胸を痛めながらご覧になった方もいるのではないでしょうか。
「一緒にドラマを作る仲間に、こういう思いをさせないぞ」という自戒を込めながら、悩みながら、スタッフ一同思いを込めて作りました。

さて、ドラマについてお話しする前に簡単に自己紹介を…。
今年で入局7年目、ドラマの仕事は始めて3年くらいになります。学生時代からドラマが大好きで、撮影の様子を見てみたいという理由だけでテレビ局の近くにある高校を受験したり、隙あらばエキストラに応募したりと、ミーハーな学生生活を送ってきました。

NHK入局後は、報道や福祉番組、ドキュメンタリーなどを転々とし、最近ようやくドラマの仕事に慣れてきたかな…という今日このごろです。といっても、まだまだできないこと・わからないことが多く、日々悩みながら働いています。

今回はそんな現場での苦悩や挑戦、主演・伊藤万理華さんとの熱いエピソードや、ハル役・和合由依さんとの運命的な出会いなど、ドラマ「パーセント」の制作の舞台裏をたっぷりお届けしたいと思います。
(未来とハルのチャーミングなオフショットもあるので、ぜひそちらもご覧ください!)

和合さん、南野プロデューサー、伊藤さん
左から和合由依さん、南野(執筆者)、伊藤万理華さん

「バリバラ」から学んだ“無自覚な差別”

入局3年目、滋賀の大津局から大阪局へ異動することになりました。
「朝ドラを作っている局へ異動できる!」
「カーネーション」をはじめ、「まんぷく」「おちょやん」と私が大好きな朝ドラを制作していた局で、ついにドラマが作れる…!と胸を躍らせていました。
しかし蓋を開けてみたら、配属されたのは「バリバラ」。正直、希望と違う結果にかなり落ち込みました(「バリバラ」とは、生きづらさを抱えるすべてのマイノリティーにとっての“バリア”をなくす、みんなのためのバリアフリー・バラエティです)。
ですが、実際はそのおかげで、番組作りにおいて大切なことを学べたと感じています。

例えば、今回のドラマで言うと、ドラマ内でハルが指摘する「『障害にめげず』とか『障害を乗り越えて』とか書いてるけど、障害ある人がなんかで壁感じるときって、社会の方に問題がある。だからその人が乗り越えることじゃない。」という部分。

和合由依さん

こちらも実は「バリバラ」で教えてもらったことが生かされています。
それは、なぜ「感動ポルノ」と呼ばれるような表現が生まれてしまうのかということ。
障害にめげない、障害を乗り越えて”頑張っている”人々に感動する物語。それは誰の目線で描かれているのか、「バリバラ」を作るまでは考えたこともありませんでした。
無意識にでも「かわいそう」と見下してしまうマジョリティの立場からの視点があるのではないか、ステレオタイプな「障害者」のイメージを求めていないか、そんなことに1つ1つ気づいていくと、障害のある人が描かれるドラマや映画の見方がだんだんと変わっていきました。
自分自身の無知、差別的な視点、先入観を日々つきつけられ、悩みながら反省しながら、取材させていただいた方々と向き合いました。

中でも印象深かったのが、「バリバラブストーリー」という企画です。全盲のカップルがコロナ禍で結婚式をあげる様子に密着させていただきました。
正直、最初は「障害がある人同士で結婚ってできるのだろうか」と思ってしまう気持ちがありました。自分がそうした方を知らない、だから「できない」のではないかと思っていたのです。

しかし、いざお二人にお会いすると、本当に羨ましくなるくらい幸せな関係を築いていて、すぐに自分の考えを反省しました。
お二人はふだん、部屋の電気を使わずに生活しているのですが、「この家では“見える”南野さんがマイノリティですね~」なんて笑いながら私のために電気をつけてくれ、おいしい手料理までごちそうになりました。今はお子さんも生まれて、お二人で子育てをされています。

私が抱いていたネガティブな先入観は、お二人と出会ったことで変わりました。結婚や子育て、仕事など、生きていく中で自身が「やりたい」と思ったことを、本人、そして周囲が「できない」と否定せず、「どうやったらできるのか」を一緒に考えること。その大切さに気づくきっかけの1つに、「番組」というものがあるのかもしれない。
ディレクターとして本当に学ぶことの多い時間でした。

念願のドラマ班へ、でも…

それから1年後、ドラマ班へ異動となりました。
最初の仕事はエキストラさんを集めること。

ある日、集まった履歴書の中に、車いすユーザーの俳優から応募がありました。「バリバラ」で「障害があるから~できない」という先入観を持たずに考える大切さを学んだばかりだったのに、いざ自分が現場の担当になると「ロケ地はエレベーターが使えずに段差が多い場所だけど、移動は大丈夫だろうか…」と不安になってしまいました。

また、このとき集めなければいけないエキストラは30人以上。スケジュールもタイト…。経験の浅い私では現場の対応がうまくできず、この方を傷つけてしまうのではないか…。
たくさん「選ばない」言い訳が出てきてしまいました。
結局、車いすに乗っていることを理由に、「できない」と考えてしまったのです。

同じ年、同期のディレクターが「バリバラ」で「俳優になれるのは心身共に健康な人だけ?」という企画を作っていました。
私はこの番組を見てがく然としました。
紹介されたのは「俳優になりたいと思っている障害のある方はたくさんいるが、そもそもオーディションすら受けさせてもらえない」という声。私もその原因を作ってしまった張本人じゃないかという事実がグサッと胸に突き刺さりました。

「できない」言い訳を並べるんじゃなくて、「どうやったらできるか」を制作者側が考えないと。俳優だけが頑張っても状況は改善されない。
俳優と誠実に向き合うために、自分が変わらなきゃ。

同時に番組内では、イギリスBBCの取り組みが紹介されていました。
「番組出演者の8%に障害のある人を起用する」という目標を掲げて、それを2020年にすでに達成していると言うのです。
なるほど、数値目標(%)を取り入れて皆がそれに向かって環境を改善していこうとすれば、ドラマに障害のある人が出演することだって「できない」ことじゃないのかもしれない。
例えばNHKみたいなテレビ局がそんな目標の中でドラマを作ったら…そんなことを思い書いた企画書が「パーセント」でした。

作家・大池さんと対面「わからないけど知りたい」

その後、企画が通ったことを知らされました。
この時点では、「障害のある俳優を迎えるテレビ局の話」というコンセプト以外は何も定まっておらず、一緒に物語を考えてくださる作家さんを探すことに。そこでお会いしたのが、大池容子さんです。
大池さんは「うさぎストライプ」という劇団の演出・脚本家です。
大池さんの舞台は、さまざまな価値観を持った登場人物たちが次々と出会って会話を展開していき、人の「出会い」と「別れ」のおもしろさが詰まった作品だなぁという印象を持っていました。
切ない別れの場面にも、くすっと笑ってしまうような演出があり、登場人物たちがすごくいとおしく思えてくるのです。

劇中写真:モニターを見るスタッフたち
舞台は私が働いているのと同じ”テレビ局”。ドラマでは「Pテレ」と呼ばれています。

「パーセント」の舞台はテレビ局。
これはどの会社でも同様だと思いますが、一緒に働く人たちは皆それぞれ性別や年齢、置かれたポジション、それまでの経験が異なるため、一人ひとりの考えも違ってきます。
そんな人たちが出会い、正解のない中で議論しながら、一緒にものを作る。
今回、主人公だけではなく、周りの人たちも含めて一人ひとりのストーリーが見えたら良いなと思って、大池さんに脚本をお願いしました。

そして迎えた最初の打ち合わせ。参加者は大池さんと第3・4回の監督をした押田さん、そして私の3人です。まず、「悩みながらも奮闘するドラマの新人プロデューサー」という主人公を作るための第一歩として、私が自分自身で抱える悩みを伝えることから始まりました。大池さんたちに、私がどういう環境で育ち、どういう価値観を持って生きて、今何にモヤモヤしているのかということを包み隠さず話しました。

その1つが就活です。
ドラマの仕事をしたいと思っていたものの、民放の面接を受ければ不採用の日々。マスコミとは違う業種もたくさん受け、大学での研究分野を生かせるような企業もいくつか受けました。
しかしその採用面接やOB訪問で、なぜか「いまは女子を採用しなきゃいけない時代だから、確実に内定をもらえると思うよ」と度々言われたのです。
衝撃でした。今思うと「内定が出ない…」と泣きそうな就活生を、安心させたいという優しいお言葉だったのかもしれません。でもその当時は、ものすごくショックを受けました。

私の研究分野はややマニアックで、研究室の同期で女性は私だけ。先輩にも女性が少なく、「女性差別をしない企業」のためには希少な人材なのだろうとは思いましたが、露骨に「女だから」と採用されるのはなんだかモヤモヤする…。
あんなに欲しかった「内定」が、全然うれしくなかったのです。

ちなみに最近朝ドラ「虎に翼」にハマっているのですが、「女性だから」と差別をされてきた時代の物語を見ていると、「女性だから」と優遇されることに不満を感じる自分って贅沢ぜいたくなのだろうか…と思ったりするときもあります。
でも私の価値って「女性であること」だけなんだろうかと思うと、途端にむなしくなってしまうのです。

話を「パーセント」に戻します。
こうしたことにモヤモヤを抱える私は、「障害のある俳優」と一緒にドラマを作りたいという思いが、あのときの面接官の言葉と同じになっていないか…?という不安がありました。

「障害があるから」選ぶんだっけ。
「障害があるから」選ばれたと、もし俳優に思わせてしまったら…。

「あなただから」「私だから」ここにいるんだ、と思える関係を築きたい。
それってどうしたらいいんだろう。BBCのマネをして数字の目標を立てるだけでは意味がないんじゃないか…。

大池さんと押田さんは真摯しんしに、私の悩みや過去の経験を聞いてくれました。
お二人とも共通して、「南野さんと同じ経験はしていないので、あなたの悩みや気持ちがよくわかった、共感しますとは言えません。でもどうしてその気持ちになったのか、知りたいし考えたい」と言ってくださいました。

正直で誠実で、「わかるよ~」と言われるよりもずっとうれしいものだと感じました。相手の気持ち、抱えるモヤモヤはその人にしかわからない。
でも「わからない」とシャットアウトするのではなく、知ろうとすること、一緒に考えること。
コミュニケーションって、そういう気持ちや対話が大事なんじゃないか…。今思うとこの打ち合わせが、物語の軸になっていたと思います。

劇中写真:脚本打ち合わせ
実際もこんな感じで打ち合わせをしていきます

「あなたの覚悟はそんなものだったのですか」

その後、大池さんから「パーセント」のプロットが届き、ここで初めて「未来」という主人公が生まれました。
そして、彼女がれ込む俳優「ハル」というキャラクターも描かれました。「一見とっつきにくい」「お芝居が好き」など、今のハルに通ずる性格が固まっていきます。
しかしここで、彼女を「どういう障害として設定するか」を決めることが、とても難しいことに気づきます。
誰かをモデルにした物語ではないですし、「障害のある俳優と一緒にドラマを作る」ことを考えたときに、俳優に会う前から何かの障害に限定することがいいとは思えませんでした。
そこで、オーディションを開いて、1人でも多くの俳優に会おうと考えました。…ですが今度は、このオーディションの文言を考えるところで立ち止まります。「障害や持病のある俳優」に会うためのオーディションは、そもそも俳優たちに対して誠実なのだろうか。
開催理由を書いた方がいいのかと思って、「多様性のために」とか「こんな時代だから」とか言葉を並べていくと、なんだかそういうきれい事を言いたくて人を利用しているような感覚になりました。

劇中写真:未来と後ろには「多様性月間」のポスター
第3回 インタビューで「どうして障害のある当事者を起用することにしたのか」と聞かれ、
答えに悩む未来

「障害があるから」という理由で人を選ぼうとしている時点で何か間違っているのではないか。
そもそもなぜ、障害者と健常者って線を引いているんだっけ…。最初の悩みに戻っていきます。
もう何が誠実で、何が正解かさっぱりわかりません。ドラマを作ること自体に自信がなくなってきました。

そんな悩みを「パーセント」を採択してくれた部長に吐露すると、「この企画を出したあなたの覚悟は、そんなものだったのですか」と問われました。またいろんな言い訳を並べて、歩みを止めようとしている自分に気づき、ハッとしました。

ハルを探さなきゃ。俳優たちと会わなきゃ。

“5秒”で全員とりこ

オーディションの募集要項には素直に
「本オーディションでお会いしたいのは、俳優として活動をされている障害や病気を有する方です。このオーディションをきっかけに、魅力ある俳優の皆さんが、障害や病気の有無にかかわらずドラマに出演できる機会を増やしていきたいと考えています。」
と思っていることをそのまま書きました。
そして、全国から100名以上の方にご応募いただきました。

和合由依さん

その中で、一段とフレッシュな輝きを放っていたのがハル役の和合由依さんです。
実は東京パラリンピックの開会式で「片翼の小さな飛行機」の主役を演じた女性です。

オーディション開始5秒、自己紹介からすぐに引き込まれ、「なんて太陽みたいにキラキラした子なんだ…!!」とまぶしかったのを覚えています。特に印象的だったのは演技が終わったあとのこと。「カット!」と声をかけると、不安そうな顔で「今の演技できていましたか?大丈夫でしたか?」と聞く方もいましたが、和合さんは「もう1回やりたい!」と楽しそうに笑っていたのです。

そのときのポジティブでお芝居を心から楽しんでいる空気感がすごくて、彼女が車いすに乗っていることやドラマでのお芝居の経験がないことよりも、まず「この子と一緒にドラマを作りたい!」と心が震えました。
ああ、こういう出会いをドラマにしたらいいのかも…主人公の未来が感じる気持ちってこれかも!どんどんワクワクしている自分がいました。こうしてハルちゃんが決まりました。

劇中写真
第1回 未来がハルをドラマに誘うシーン まさに私もこんな気持ちでした

オーディションでは、100名を超える皆さん一人ひとりと対面でお会いしました。
オーディションを受けるのが初めてという方が9割を占めるなか、皆さん堂々とされ、魅力的なお芝居を見せてくださり、ただただ圧倒されました。
どうしてこんなすてきな俳優たちを私は知らなかったんだ…その理由の1つが、知ろうとしてこなかったことにあると痛感しました。

障害があることでオーディションを断られ続けた方、健常者として俳優をやってきたけど中途障害でテレビにはもう出られないと思っていた方、初めての芝居ができることにわくわくしている方、一人ひとりが本当に魅力的な俳優でした。
こうして、皆さんとの出会いで大池さんのインスピレーションがどんどん膨らみ、劇団「S」を始めとする、すてきなキャラクターたちが生まれました。
「この人とも、この人ともご一緒したい…!」と気づけば10名以上の方にご参加いただくことになりました。

出演俳優の皆さん

“愛”あふれる演技!伊藤万理華さんにオファー

そしてこのドラマに欠かせないのが主人公・吉澤未来を演じた伊藤万理華さん。
彼女のことを知ったのは民放のドラマがきっかけでした。演じていた役は、チェーン店のご飯を食べることが大好きで、ポッドキャスト配信でそれを語るというもの。伊藤さんはすごくおいしそうにご飯を食べるし、しゃべるお芝居にもとっても愛があふれていて、好きなものを好きだと伝えるまっすぐな気持ちが画面の外にまであふれていました。
主人公・未来は失敗も多く不器用な人物ですが、ハルやドラマに対する思いの強さで道を切り開いてきます。伊藤さんに演じていただくことで、そうした思いの強さが視聴者の方にも届くんじゃないかと感じました。
そんな思いをお伝えしたところ、ご出演いただけることになりました。

劇中写真:未来

撮影が始まる1週間前、伊藤さんと2人だけでお話させていただく時間があり、私がどういう思いで企画を出したのか、ここまでの経緯などをお伝えしました。
同じ年齢ということもあってか、私自身の悩みや、未来というキャラクターに関して深くうなずきながら話を聞いてくれました。
また、ご自身のものづくりへの向き合い方で悩むことなども教えてくださり、この作品と誠実に向き合おうとしてくれていることが伝わってきました。

翌日、出演者同士の顔合わせがあり、伊藤さんは、
「対“あなた”を大事にしたい、一対一のコミュニケーションを丁寧に皆さんと取りたいです。一人ひとりとの対話を大事にしていきたいです」と挨拶してくれました。(まさに「パーセント」で描きたいことそのもの!)
「なんて頼もしい主演なんだ」と感動していたのですが、終わったあとにこっそり、実はとても緊張していて不安だったことを教えてくれました。

「障害のある方と接する機会がこれまであまりなかったので、
自分が相手を傷つけてしまわないか不安がありました。
ここに来るまで『車いす 目線』とかスマホで検索したりして、
知識をつけようと思って。でも、そうじゃないですよね。
ハルちゃんを前にして、そうじゃないってすごくわかりました。」

伊藤さんに未来を演じていただけてよかったと心から思いました。
手探りになるかもしれないけど、これから一緒にたくさん対話を重ねながらドラマを作っていこうと決意を新たにしました。

ドラマや漫画で描かれる「クレーンゲーム」のシーンって…

クランクインは、ゲームセンターでした。

劇中写真:クレーンゲームを操る未来

実はクレーンゲームをこよなく愛する私。
ゲームセンターでのロケはもうワクワクして仕方ありませんでした。といっても、ただ自分の趣味を描きたかったわけではありません。
大池さんとの脚本打ち合わせの際、雑談でこんなことを話しました。

「私はモヤモヤするとクレーンゲームをしに行くんです。でもクレーンゲームって、ドラマとか少女漫画だと、かっこいい男の子が景品を取ってくれるもので、女の子は『取って』とお願いする立場じゃないですか。だから好きな人にはクレーンゲームが得意なこと言えないんですよね~」
すると、大池さんが「『取って』とお願いする立場だと思い込んでるの、おもしろいですね」といきなりメモを取り始めました。

私は無自覚にも、いろんな映画やドラマの影響を受けて、「女性はこうあるべき」という価値観を築いていたことに気づきました。「障害のある人はドラマに出られないんじゃないか」と思い込んでいたことも含め、今まで自分が「見てきたモノ」にどれだけ影響を受けたのか、そして作る側の立場になったときに、これから自分が「届けたいモノ」は何なのか。
それと向き合うべく大池さんと話した結果、クレーンゲームが物語の重要なキーとなっていきます。

劇中写真
未来と同僚・蘆田

例えば、第1回で未来と同僚の蘆田あしだがゲームセンターで話すシーン。
未来は、「世の中にはいろいろな人がいるのに、今までテレビは『視聴者が望む姿はこれだ』と決めつけて分かりやすい型にはめてきた」と話します。
一方で、蘆田から、「こういうの(ゲームセンター)彼氏に付き合ってもらえば?」と指摘された際、未来は、「女でクレーンゲームガチ勢とか恥ずかしいんだもん、あれが本来ゲーセンでの女子の正しいあり方だから」と答えます(未来はこのとき、横にいるカップルの女性が彼氏に「あれ、ほしい!」とお願いしている姿を見ています)。
テレビが型にはめている、と言いながら、同時に未来も「女子はこうあるべき」という型にはまっている皮肉さが現れたシーンになっています。
物語が進むにつれて、こうした未来にどういう変化があるのか。ぜひ、最後まで見届けていただきたいなと思います。

伊藤万理華×和合由依 ドラマとリンクする2人の関係

未来とハル、ドラマの中でも印象的なのが、第3回の2人でぬいぐるみを取るゲームセンターのシーンです。実際に2人でクレーンゲームを操作しているので、ぬいぐるみが取れたときの反応は本物です。
ここでは、未来が自身をさらけ出すこともそうですが、ハルにとっても未来や自分自身と向き合い前に進む、大事なシーンとなっています。

「珠ちゃんみたいになりたい、って思ったんは
別人になれるんやって思ったから。
舞台の上やったら、障害がある人やって見られへんかもって思ったから。
でもそれって、自分のことを受け入れてへんってことなんかもって。
相手のことも自分のことも受け入れる。
……そっから始めてみる。もっかい。」

作家の大池さんが「それまで気まずかった2人があのシーンで初めて友達になれる」と言っていた通り、本当の意味でハルが心を許した瞬間になっています。

そして、それは役を超えても同じように感じました。
このシーンを撮影したのは明け方。撮影後に伊藤さんと和合さんが楽しそうに朝日を一緒に見ていました。
それまで2人の間に流れていた空気感が、このシーンをきっかけにちょっと変わったなっていうのを現場で感じ、私もとてもうれしくなりました。

朝日を見ているオフショット
朝日を見ながら笑い合う オフショット

そんな未来とハルについて、第4回でぜひ注目していただきたいのが2人きりで話すシーンです。
ハルが未来にある言葉をかけたとき、窓からちょうど光が差しこんだんです。照明さんが仕込んでくれたのかと思うくらいタイミングも完璧で、やっぱりロケはこういう奇跡みたいな瞬間があるから好きだなぁと思いながら、2人の顔を見てちょっと泣いてしまいました。
ハルがどんな言葉をかけて、そこから未来はどうなったのか…ぜひお楽しみに!

車いすに乗っている人は立てない、そう思いませんでした?

今回撮影に参加してくださった方々は車いすに乗っている方、視覚障害がある方、聴覚障害がある方、記憶障害がある方…と障害の特性はバラバラです。
誰一人として芝居がしづらい環境にならないよう、全員にとってのバリアフリーな現場を目指しました。

とは言え、ドラマのスタッフたちはベテランから若いスタッフ、男女比も半々くらいと多様な経歴の人が集まっていました。中には「障害のある方と仕事で接するのは初めて」というスタッフも少なくありません。
そこで、スタッフ顔合わせの際に北見役の森田かずよさんに来てもらい、これから一緒に制作していくために我々がどんな心持ちで臨むといいか教えていただきました。

劇中写真:北見と未来
左:北見役の森田かずよさん

森田さんは話し始めてすぐ、車いすから立ち上がりました。
「車いすに乗っていると歩けない、立てないと思われるかもしれませんが、私の場合は少しの距離であれば立ったり歩いたりはできます。一口に『障害』といっても、人それぞれ必要なサポートは違います。一人ひとりと実際に会話をして、その人そのものを見つめてほしい」
と話してくれました。

現場では、それを体現したようなことも。とあるシーンの撮影後、制作チーフの木村さんがとてもうれしそうに教えてくれたことがあります。
「スロープ前に靴が置かれなくなったの気づいた?」と。

それは室内に入るため玄関に設置されたスロープを指していました。最初は、スロープ前で靴を脱ぐスタッフがいたため、入り口が塞がれてしまうことがあったのです。そのときは別のスタッフが靴を端へと片付けて車いすが通れるようにしていました。
ですが、撮影が進むにつれ、スロープの前に靴が置かれなくなったのです。
誰かが注意したわけでもなく、スタッフの誰もが「なぜここにスロープがあるのか、そこを誰が通るのか」を考えるようになったからだと思います。
「障害者」という漠然としたイメージではなくて、「ハルちゃん」「北見さん」「斎藤さん」とみんなの顔を思い浮かべることができたとき、自然とバリアフリーになっていくんだ。
「パーセント」は、そうしたスタッフ一人ひとりの気づきによって作られていきました。

メイキング写真
【伊藤万理華さん撮影】 真ん中で小さくピースしているのが私(南野)です

伊藤さんからラブレターの返事が…!

実は撮影前に、伊藤さんにオファー理由や、企画の経緯など不器用ながら思いをこめた手紙をお渡ししていました。すると3か月後のクランクアップの日にお返事が返ってきたのです。返事をいただけるとは思わず、ただただびっくり…!
伊藤さんからの手紙には、

「『パーセント』をやり始めてから世界がすごいキラキラしてきた、見え方が変わった。
毎日撮影に行く前に吸う空気が本当においしかった。
とても前向きに人に優しくなれる、
その愛情を持って世界をみられるようになった。」

と便せん3枚に渡りたくさん書いてあり、とてもうれしかったです。

劇中写真:未来

また、伊藤さんは未来を演じるうえで、私に「プロデューサーって何をしているときが一番楽しいですか?」と聞いてくれたことがありました。
私は、「脚本の上では文字だけだった登場人物たちに役者が息を吹き込む瞬間、まさにそこに立ち会えること」と答えました。

企画を書くときはたった1人の想像力で、「あーでもない、こうでもない」と考えますが、作家・監督・スタッフ、そして俳優が集まっていき、どんどん世界が作られていく。
その中で、登場人物が「生きている」という瞬間を前にすると、いつも泣きそうになってしまいます。未来とハルに出会えた。2人が目の前で生きている。それがうれしくて、その登場人物たちがドラマを見ていただく方の心の中でも生き続けるといいなぁと思いながら、日々現場におりました。

「このドラマ、あなた見たい?」

ところで、第2回で編成部長の長谷部が未来に言い放つこのセリフ。台本で最初に見たとき、ドキッとしました。
今回私が常に自分に問いかけていたことです。

劇中写真:長谷部
編成部長・長谷部の言葉はとても心に刺さります

私は「パーセント」を見たいと思っているのか。視聴者の方々にドラマを楽しんでもらうためには、まず自分自身がそう思えるドラマにしないと…。
「なぜこのテーマでやるのか」と社会的意義みたいなことを言おうと思えばいっぱい出てきますが、結局視聴者が見たいのはおもしろいドラマの1点だと思っています。
さらに、ドラマを見て元気になったり、ちょっとしんどさを抱えている方が自分は一人じゃないと思えたり、私自身そういうドラマに助けてもらってきたので、本作も誰かにとってそんな「お守り」のようなドラマになるといいなと思います。

ドラマが好きだからこそ、自分に作る資格があるのだろうか、作品が誰かを傷つけてしまわないかと、常にいろんな不安も感じていましたが、自分の見たいものを信じてみる。
「パーセント」の脚本や撮影、編集でも、「私はこれが見たいです、こういうものは見たくないです」という思いを常に持って、現場に臨みました。

生きていると、「なんだかなぁ」とモヤモヤすることがいっぱいあります。自分と他人の違いとか、それを分ける社会のシステムとか、壁が大きくて悩むこともあるし、どうしたらいいかわからないと立ち止まることもあります。
私が「見たい」物語は、そういうときに、それでも自分自身を持っていられるよう、ふんばらせてくれるものです。
「わからない。でも。あきらめない。」
そんな風にもがく未来とハルの物語を皆さまに届けられたらうれしいです。

ドラマビジュアル

最後に1つ。
私は、デザイナーさんが作ってくれたこのビジュアルがすごく好きです。「%」の記号が、みんな自分自身の形と色を保って並んでいるところが、「パーセント」で描きたかった世界を表現してくれているように思います。無理に混ざり合うのではなく、違いを大切にしながら隣で生きていく。
「人と人はわかりあえないかもしれない、でも一緒にいることはできる」
全4回の放送を通じて、ぜひ皆さんにも感じていただけたらうれしいです。

第4回は、6月1日(土)夜10時放送です。ぜひご覧ください!

和合さんと伊藤さん
執筆者へのメッセージはこちら


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