見出し画像

世界中の“進撃ファン”の熱を届けたい! 進撃の巨人×100カメの舞台裏

11月4日深夜、ついに完結を迎えたアニメ『進撃の巨人』。
いかがでしたか? いちファンである私は涙なしでは見られませんでした……。

巨人が支配する世界で自由を求め、あらがい続ける人類の闘いを描いたこの物語。
諫山 創いさやま はじめ氏の同名漫画を2013年にアニメ化し、以来シリーズを重ねてきました。

完結編に先駆けて生放送した「アニメ『進撃の巨人』×『100カメ』完結直前カウントダウンSP」では、梶裕貴さん(エレン役)、石川由依さん(ミカサ役)、井上麻里奈さん(アルミン役)が出演。
今回の放送の目玉は、声優の皆さんに、番組やインターネット配信を見ている人たちから寄せられた質問やメッセージに答えていただき、ファンの皆さんと一緒に完結編に向けて盛り上げていくというものでした!

それらのメッセージをとある“システム”で受け付け、ピックアップし、わかりやすく放送に出すことが、技術担当である私の仕事でした。

「ワクワクとドキドキで楽しみな反面、いよいよと思うと胸が苦しくなります。」
「心臓をささげよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「Thank you for bringing Shingeki no Kyojin to life with your amazing voices!」

など、世界中から寄せられたメッセージの数々を見ると、この番組を心待ちにする方や、一方で完結してほしくないという複雑な気持ちで視聴する方々がいるのだと感じました。

実は、この“システム”を使って英語でメッセージを募集し、放送や配信で紹介することは、NHKでは初の試み。
世界中のファンの熱量を届け、皆さんと一緒に放送を盛り上げるために、私たち技術担当はどんなことをしていたのか? 
緊張の連続だった生放送の裏側をご紹介します。

まるで立体起動装置の開発(!?)私たちの仕事

こんにちは、柴草です。

作業する筆者

私は、今回実施したような“メッセージを番組で紹介するためのシステム”や“リモコンを使った視聴者参加型の番組”など、「番組と視聴者の皆さんをつなぐ技術」を担当しています。
進撃の巨人で例えると立体機動装置を開発しているような裏方の仕事です。

兵団から「立体起動装置の性能を良くして」「調子が悪いから修理して」という要望があればそれに応えるように、演出陣(番組のディレクター)から要望を受けて開発・運用しています。

皆さんの一番身近なところでいうと、紅白歌合戦でのリモコンを使った投票が分かりやすいかもしれません。

2022年は郷ひろみさんの「ジャンケンポンGO!!」という歌に合わせて、「視聴者の皆さんと郷ひろみさんがじゃんけんをする演出をしたい」という要望を受けました。
私たちは「データ放送」という技術を使い、リモコンの色ボタンで青ボタンが“グー”、赤ボタンが“チョキ”などと、視聴者の皆さんが出す手を選択できるように検討し、テレビでじゃんけんができるような仕組みを実現しました。

紅白歌合戦の画面表示

このように演出陣が企画した演出を実現するために、最大限のものを開発し、“番組と視聴者の皆さんをつなぐ”ことが私たちの仕事です。

そして、視聴者の皆さんにもっと番組に参加していただけるように、インターネット上でメッセージを募集し、それを選別して紹介するシステムも開発しました。
こちらは、主にラジオのお便りやスポーツ中継の応援メッセージなどに使われています。

そもそも、なぜ私が番組と視聴者の皆さんをつなぐような仕事をしたいと思ったのか。
私は子どものときから「天才てれびくん」が好きで、よく見ていました。
いつもなら出演者であるてれび戦士がゲームに参加しているのを楽しむのですが、ある日、視聴者である私もてれび戦士と一緒にゲームに参加することができたのです。

今では当たり前かもしれませんが、小学生の私からしたら新鮮で感動したのを覚えています。
他にもアンケートなどで自分の選んだものが番組に反映され、一緒に番組を作り上げている感覚を味わえるのがとても好きでした。
私も将来働くときに、そういった仕組みを実現したいと思い、この仕事を希望しました。

世界が注目 完結編に向けた生放送

日々システムの構築と検証を繰り返す中、大きな企画が立ち上がりました。
アニメ「進撃の巨人」完結編の直前に放送される「100カメ」の生放送、そして放送前後のライブ配信です。

進撃の巨人は海外でも人気が高く、アニメ公式Xアカウントの投稿にはさまざまな言語で返信やリポストがあり、盛り上がっています。
そこで、そんな声も番組に反映できるよう、英語でもメッセージを受け付け、番組内で紹介することになりました。

私たちの開発したシステムを使っての英語のメッセージ募集は初めてだったので、日本語とは異なる工夫が必要でした。
最も重要なのは、表示する文字数やメッセージのスクロールのタイミングです。

英語は日本語に比べて文字数が多く、スペースが多いため、日本語のメッセージに比べて同じ文字数で表現できる情報量が少なくなってしまいます。
※例:進撃の巨人(5文字) → Attack on Titan(半角15文字)

そこで、検証を重ねた結果、英語のメッセージについては2ページを自動的にスクロール表示できるように変更しました。
日本語は、2ページにまたがると見にくい印象がありますが、英語の場合は映画の字幕のように、見づらさが少ないことが分かったのです。

英語メッセージのスクロール表示

英語のメッセージ紹介も問題なく実現できることが確認できたので、この後は出来上がったシステムの検証を行います。実際にメッセージを送信し、システムを通して問題なく表示されるか、検証を繰り返します。事前に多種多様なメッセージを用意しておき、文章が変なところで改行されないか、英語のメッセージが3行にわたった時でも問題なくスクロールされるかなど、想定通りにメッセージが表示されるかどうか念入りに確認しました。
うまくいかない時は、何が原因なのかを調査し、成功率が100%になるよう対策を講じます。

また、システムは機械なので壊れることもあるため、検証中は問題がなくても、放送本番で安定して動く保証がありません。
そのため、実際に稼働する本番系とトラブル発生時に稼働する予備系を準備しました。わざとトラブルを起こし、予備系のみでメッセージを収集し、きちんと表示できるかといった確認作業も行いました。
あらゆるトラブルを想定しておくことで、本番で何が起きても落ち着いて対処できるようにするためです。
このように、時間をかけてさまざまな角度から何度も検証を行うのは大変な作業ですが、放送本番にメッセージを取りこぼすことがないよう最善を尽くしています。

検証と準備を重ねたとはいえ、初めての試み。
実際に正確にメッセージが表示され、視聴者の皆さんと一緒に番組を盛り上げることができるのか……放送当日まで不安が続きました。

迎えた放送当日

私たちが開発したシステムは、番組ホームページとXに投稿されたメッセージを自動的に収集し、リスト化します(NHKでは、SNSアカウントを持っていない人のために専用のホームページを用意することで、より多くの方に参加していただけるように工夫をしています)。

システム準備中
システムの準備をする様子 

また、表示するのにふさわしくないメッセージを自動的に除く機能も備えています。

リスト化されたメッセージの中から、どういうタイミングでどのメッセージを紹介するのか、演出陣と相談しながら進めます。

着々と準備が進み、本番が近づくにつれてメッセージの投稿数がどんどん増えていき緊張感が増す中、迎えた本番。
声優陣が、視聴者の皆さんの質問に1つ1つじっくりと回答していく中で、アフレコでのエピソードや思いがどんどんよみがえってくる様子が伝わってきます。

視聴者からのメッセージに答える様子

アルミン役の井上麻里奈さんは、アルミンが泣き叫ぶシーンで感情を表現するため自身も床にしゃがみこみ、アルミンと同じ姿勢でセリフを言ったというエピソードを語りました。

声優の皆さんのコメントを受け、さらに増える視聴者の皆さんからのメッセージ。
放送時間が進むにつれ、どんどん盛り上がりを増していきます。
熱のこもった、愛のあふれるメッセージの数々を見ながら、私は、視聴者の皆さんと一緒に番組を作り上げているような感覚になりました。

入念に準備をしていた英語のメッセージに関しても、
「キャラクターからそれぞれ何を学びましたか?」という具体的な質問が届き、声優の皆さんがそれぞれ演じた10年間を思い起こし答える場面がありました。

英語のメッセージに答える様子

声優の皆さんが海外のファンの方々に伝わるように、丁寧に言葉を選んで回答してくださっているのが印象的でした。
海外からのリアクションを肌身で感じている様子が伝わってきて、一生懸命準備した結果が実ったのがうれしかったです。

届いたメッセージが画面上きちんと表示されるか、またシステムがトラブルを起こさずにメッセージのピックアップがきちんとできるかどうか懸念していましたが、こうして無事に放送を終えることができました。

今後に向けた私たちの挑戦

私はふだん、システムのメンテナンスや開発を担当することが多く、番組に立ち会うのは久しぶりだったので、視聴者の皆さんの生の声に触れ合うことができてうれしかったですし、無事トラブルなく終えることができて、とても充実感がありました。
放送を終えてほっとするとともに、視聴者の皆さんからは終わるのが悲しいというコメントが多く、個人的にも完結を迎えるのがさみしい気持ちになりました。

システムの開発、運用やさまざまな演出を取り入れたライブ配信など、私たちの仕事はITの知識とそれを活用するスキルが求められ、日々それらを駆使した新たな挑戦をしています。

そんな中、NHKでは今年度から「コンテンツテクノロジーセンター」というチームが立ち上がり、組織の垣根を越えて技術的なチャレンジを進めています。

今回の「アニメ進撃の巨人×100カメ」ライブ配信では、演出陣と私たち技術担当が企画段階から知恵を出し合い、共に試行錯誤しながら作り上げました。
企画段階から技術担当が参加することで、「完結編を目前に、出演者と視聴者が相互に盛り上がる」というねらいに合わせた技術を提案し、また、番組の完成度を一層高められるシステムの構築に十分な時間を確保するという好循環を目指しました。

今後も企画提案段階からITの力を駆使した演出提案を積極的に行い、番組とITスキルが融合した新たな“コンテンツ”を視聴者の皆さんに届けられるよう、頑張ります!

柴草良太
2015年入局。岐阜局、名古屋局などを経て現在はメディア技術局に所属。主に“番組と視聴者を繋ぐシステム”の開発・保守を担当。

執筆者へのメッセージはこちら

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!