新しいボランティア保険が誕生したらしいので比較してみました
ボランティア保険って知っていますか。
社会福祉協議会(社協)が窓口となっている保険で、ボランティア活動中の事故やケガを補償するものです。
危険が多い被災地。破傷風、ガラスを踏んだ、こけた落ちた挟まれた、などなどいろいろなケガや事故の事例があります。
だからこそ、被災地の災害ボランティアセンター(災害VC)では、ボランティア保険の加入が必須です。
そんな中、ボランティア活動を補償する新しい保険がつくられたようです。
その名も、しえんのおまもり
なぜ新しい保険がつくられたのか?
これは、災害VCの活動範囲とボランティア保険の補償範囲が関係しています。
災害VCで対応できない活動には、ボランティア保険が適応できない可能性があるのです。
(委託や開設・運営の主体はいろいろなケースがありますが)
一般的に行政の委託を受けて社協が開設する災害VCは、公としての役割が強いのです。
困っている人に平等に支援を届けること
参加するボランティアを広く受け入れること
などが求められます。
寄せられたすべてのニーズに答えなければいけないから、困りごとが10あるうちの5までしか対応できない
職業も技術も体力もさまざまなボランティアが参加するから、危険でない依頼しか受けられない
など、災害VCでは対応できないニーズが生まれます。
過去の事例では
土砂の撤去は、家屋の中だけで庭は含まない
脚立を使うような高いところの作業はできない、などもありました。
どこまで対応するのか、は被災地によってさまざまです。
一方、民間支援団体やNPOなどは、それぞれの特性を生かした活動をしています。
例えば、被災地の緊急支援を本職としているNPOや、消防士などがメンバーで構成されたチーム、過去の被災地で何度も重機を使った支援活動をしている団体など。
災害VCの活動よりも、危険度の高い活動をしている場合もあります。
その特性を生かして、災害VCが対応できないニーズをNPOが担当する、という連携がされた事例はいくつもあります。
ニーズの依頼をする住民から見ると、どれも同じボランティアさん。
でも実は、災害VCのボランティアとそうでないボランティアが存在するのです。
一方は保険で守られて、もう一方は対象外の可能性が高い、そんな状況が続いていました。
そんな現地の状況を改善できればと、つくられた新しい保険。
従来のボランティア保険では、カバーできない可能性があったチェーンソーを使う作業や、高所作業。
これらが条件を満たせば(*1)補償されると明記されました。
*1:スケットというSNSを通じたボランティア活動であるという前提があります
交通費や現地滞在費などの実費に加えて、事故やケガのリスクを背負いながらボランティア活動をしていた人たちの負担が、少しは軽くなるかもしれません。
ただ、車両の事故などについては、今までのものと同様に、適応外のようです。
重機を含む車両の事故については、あたらしい保険でもカバーしきれないので注意が必要です。
2つの保険を比較してみた
社協のボランティア保険としえんのおまもりを比較した表です。
しえんのおまもりは、コロナ感染症についての補償はオプションです。
活動中の天災の補償がオプションになっているのは、どちらも同じ。
車両が原因の事故が含まれないのも、どちらにも共通しています。
(活動中に車両事故に巻き込まれた場合は補償内)
従来型のメリット
・保険料が比較的安い
・コロナウイルスによる補償も含まれている
・今までの運用実績がある
・社協と連携が取れていたら、災害VC外の活動も補償される可能性がある
・社協と連携が取れていたら、被災地ボランティア以外の活動(地域のこども支援など)でも補償対象
従来型のデメリット
・加入手続きのために、社協窓口まで出向く必要があり、サラリーマンは加入するまでが大変
・チェーンソーや高所作業が補償対象にならない可能性が高い
しえんのおまもりのメリット
・スケットを通じた活動であれば、チェーンソーや高所作業でも補償対象になる
・加入手続きがオンラインでできる
しえんのおまもりのデメリット
・保険料が比較的高い
・コロナウイルスによる補償がオプション制
・今年からの運用で実績が少ない
・スケットを通じた活動が対象になる
一番の違いは、補償対象になる活動の違いだと思います。
しえんのおまもりは、プロボノ活動をするような団体や、被災地での経験が多いNPOなどが向いているのかもしれません。
個人や数人のグループで被災地の災害VCに参加する場合は、従来型への加入で十分そうです。
ここで一つ補足を
そもそも、従来のボランティア保険は、社協が窓口ですが、保険適用の判断をするのは保険会社。
社協さんに保険会社につないでもらえるのか、保険会社が補償してくれるのか、はまた別のお話です。
1つ目の窓口の社協さんで認めてもらい、2つ目の窓口の保険会社で補償が妥当だと認めてもらう必要があります。
1つ目の窓口で「ボランティアらしくない高度な技術が必要な活動」と判断され、保険適応に至らないケースという活動がありました。そうしたものの代表が、チェーンソーや高所作業でした。
新しいしえんのおまもりは、この1つ目の窓口を広げたものです。
もちろん、普段から社協との連携がうまく取れていたら、災害VC外の活動でも従来型の保険が適応される場合もあります。
もちろん、1つ目の窓口をクリアしても、活動の危険性や安全管理面などで2つ目の窓口で却下されることもありえます。
それぞれの特徴を踏まえた上で、自分の関わる活動に適しているのはどっちの保険なのか、しっかり考えて加入しましょう。
ただ、どちらの保険に加入しているにしても
被災地での活動には、さまざまな機関との連携が必要です。
災害VCを運営する社協や、行政、NPO団体などと、協力して協働することが、被災された方の復旧を支える大きな力になるはずです。
もう一つ、そもそも事故やケガがないように活動するのが大前提です。
被災地の支援活動でのケガがよくない一番の理由は、依頼をした住民の方が罪悪感を感じるからです。
被災地の復旧の歩みを止めないように、住民の方に気持ちよく「ありがとう」とだけ言ってもらえるように
日頃から活動の安全面を確認し、声をかけ合うことが大前提です。
まとめてみたように、新しい保険がつくられたことで、補償対象が広がりました。
被災地では、屋根に登ったり、チェーンソーを使ったり、高度な技術を必要とする危険な作業がたくさん発生します。
今までは、どうにか活動経費を捻出しながら、さらにケガや事故のリスクを背負いながら活動していました。
その状況から、リスクを背負う必要が減ったという点は、大きな進歩です。
ただ、どこまでボランティアで対応したら良いのか、するべきなのかは別の課題です。
雨の振り方が変わってきたと、肌で感じるようになってきました。
巨大地震発生の発生確率は年々上昇しています。
台風も強い勢力のまま上陸するように。
自然災害発生のリスクは気候変動とともに増えています。
毎年、大きな災害が発生しています。各地でたくさんの支援を必要とすることが多いのが現状です。
そもそも、被災地の復旧活動をボランティアに依存する構造自体を、大きく見直してもらいたいと思っています。