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「変革のレシピ」を広げる-佐竹敦子さん(映画『マイクロプラスチック・ストーリー』監督)

「2050年には海にあるプラスチックの重さが魚ぜんぶの重さを超える」-プラスチック汚染問題に、ニューヨークの小学5年生が立ち上がり、かれらの視点で原因が何か問い、解決に向かって自分たちの学校から地域へとアクションを広げていく。その2年間を追った長編ドキュメンタリー『マイクロプラスチック・ストーリー~ぼくらが作る2050年』の共同監督である佐竹敦子さんにお話しを伺った。

DEAR News207号(2022年6月/定価500円)に掲載した記事です。DEAR会員には掲載誌を1部無料でお届けしています。

きっかけは息子の忘れ物

ある日、アレルギーを持っている息子さんがお弁当を忘れたために小学校に届けに行った佐竹さんは、カフェテリアの汚さに驚いた。ナゲットやこぼれた牛乳が散乱し、大きなゴミ箱にはリサイクルもされずに大量のゴミが捨てられている。佐竹さんは早速、校長に話をして、毎日カフェテリアに通い、ゴミの分別や掃除を始めた。そのうちに、「May I help you?」とひとりの児童が声をかけてくれ、手伝ってくれるように。

その子の楽しそうな様子に「なんであの子だけなの?わたしもやりたい」と生徒たちが続々と加わった。日本式に当番を作り、ゴミの分別や掃除をすることで、ゴミ袋の量は一日40袋から4袋に。佐竹さんは、職業柄いつものようにその過程をビデオに収めた。

このビデオがきっかけとなって、のちに映画の共同監督となるデビーリー・コーヘンさんと出会う。二人は、非営利団体カフェテリア・カルチャーを創設し、学校で教員らと連携した環境教育プログラムを始めた。中でも子どもたちが関心をもったのが、プラスチックゴミにより海洋生物が苦しめられているということだった。二人はマイクロプラスチックの独自プログラムを立ち上げ、子どもたちと一緒に活動を始めた。それが「マイクロプラスチック・ストーリー」の始まりだった。

「マイクロプラスチック・ストーリー~ぼくらが作る2050年~」
(原題:Microplastic Madness)
プラスチックごみによる環境汚染問題を学んだ、ニューヨーク・ブルックリンの小学5年生たちを追ったドキュメンタリー。ブルックリンの小学5年生たちがプラスチック汚染問題を学び、彼らならではの視点で問題の根幹を問いただし、解決に向かってアクションを広げて行くまでの2年間を追う。世界の映画祭で8つの賞を受賞。佐竹敦子&デビーリー・コーヘン監督/2019年製作/76分/アメリカ。

「民主主義とは誰でも参加できるということ」

舞台となった学校はニューヨーク市の中でも交通の便が悪く、孤立した「村」のようなところにある。過去に大型台風の被害に遭い、気候変動の影響を受けている地域だ。住民の半数は低所得層で、家庭事情が複雑な子どもが多い。一方で、「子どもたちを守りたい」という結束力や「何とかしたい」という気持ちを持った大人たちも多い。このような地域で子どもたちは学びを深め、リサーチやデータ収集をもとに、周囲の大人たちを巻き込み、家庭・地域・行政へと活動を広げていった。

映画では、小学生たちを「子ども扱い」せず、一緒に歩んでいく大人たちの姿も印象的だ。子どもたちと民主主義について考えるやりとりも描かれている。

佐竹さんは、子どもたちに次のように語りかけるそうだ。「ニューヨーク州はごみを他州に引き取ってもらっているんだけど、もしも、この学校の庭にごみを埋めるといわれたらどうする?それは嫌?じゃあ、1万ドル払うって言われたら?校長先生や誰かが勝手に決めていいの?市長ならいいの?市長の上司は誰?大統領?いいえ、私たち市民でしょう。だから私たちはかれらの働きをしっかりチェックしなければならない。市庁舎も市議会議員も私たちのためにあるのだから」

日本語吹替版への想い

2021年には日本語吹替版を制作。吹替はプロの声優ではなく、全国から公募することにこだわった。同じ志を持った子どもたちが吹替ればニューヨークの子どもたちのエネルギーを再現できると考えたからだ。

応募してくれた子どもたちは、声優だけでなく、プラスチック削減に向けた具体的なアクションに取り組むコミュニティをつくり、「アンバサダー」として活動を始めている。

学校給食のプラスチック削減の取り組み、議員や市長への提言、イベントの座談会に登壇など、自発的にどんどん活動している。月に一回交流会を行い、各自の活動を語り合い、励ましあっている。「アンバサダーの子どもたちと長く付き合っていき、育てていきたいと思っています」と佐竹さんは熱を込めて語る。

多くの人を巻き込むことが大切

日本語版吹替えには、プラ削減を積極的に推進している京都府亀岡市の市長や校長なども大人声優として参加した。「オーディエンス(観客)ではなく、仲間として巻き込んでいくことが大切。こうしたプロセスが、所属や立場を越える橋渡しとなっています。日本の学校の先生たちは、もっと外部の団体とつながることが必要。そうすればより充実した教育内容になる。そのためには、予算取りや仕事の分担の見直しが大切です」

また、佐竹さんは自主上映会後の座談会にも積極的に参加している。これま
で日本でも120回以上実施し、中国、ロシア、カタール、ヨルダン、インド、グアテマラなど世界各地で視聴者と対話してきた。プラスチック汚染問題は世界共通の課題だ。何とかしたいという熱心な参加者が多い。「上映は『種まき』で、座談会は『水やり』だと思っています。仲間を作り、お互いに水やりをすることが大事です」

「答えを与えない」ということ

活動で子どもたちと接する中で大切にしていることを尋ねると、「『答え』を与えないということ」ときっぱり。

「学んだこと、気づいたことを自分のものにしていくには自分たちで考えることが必要です。自分たちの中から出たものでなければ自分たちのものにはなりません。自分たちでデータを集め、話し合い、声を上げ、社会変革に向けてアクションを起こしていくのです。『教える』のではなく、一緒に同じ方向を見て進んでいくという立ち位置です。今までの学びがつながって自分ごとになる『気づき』の瞬間を見逃さないで、背中を押してあげることが重要だと考えています。映画に出てくる子どもたちはマイノリティでもあり、これからの人生はチャレンジだらけ。この体験を自分のものにして成功体験にして欲しいと思いました。こちらにも活動のプランはありましたが、子どもたちに合わせて柔軟に変化させていきました」

「変革のレシピ」を広げていきたい

佐竹さんはインタビューの最後にこう続けた。

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