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関根がうちにきた日

うさぎを飼っていると話すと、大抵「名前は?」と聞かれる。

「関根。」

そう答えると、おおよそ二通りの反応がある。

ひとつは、「え、苗字?」

もうひとつは、「ラビット関根かよ。」

後者のような勘のいい人に出会うと嬉しくなる。嬉しくなって飲みすぎてカラオケに行きたいとゴネてしまう。


ラビット関根とは、関根勤の昔の芸名である。

てっきり顔がうさぎに似ているからだろうと思っていたら、デビューしたのが卯年だからという理由らしい。

一年早かったらタイガー関根、一年遅かったらドラゴン関根になっていたのだろうか。タイガーやドラゴンの方が千葉真一のモノマネをしていそうな雰囲気ではある。


ペットを飼いたいという野望を抱き続けた幼少期の話はこちら↓


今回は関根を飼い始めたときのことを書こうと思う。

まだ名も無き小さなうさぎだった関根と出会ったのは、私が就職して一人暮らしを始めた最初の冬のことであった。うさぎを飼う決意を固め、市内のペットショップをいくつか見て回っているところだった。

今は亡きペットランド札幌エスタ店。ゲージがいくつも並ぶ中で、一匹の茶色いうさぎを見つけた。そのうさぎは産まれて数カ月とのことで、本当に小さく、掌にすっぽりと包み込まれてしまうサイズだった。すすきの穂のような明るい茶色の毛がほわほわと体を覆っていた。小さな耳がピンと立っていて、目は真っ黒に澄んでいた。

白い赤目のうさぎや耳が垂れたうさぎなど、色んなうさぎを見て回ったが、私はその茶色くて小さなうさぎに妙に惹かれて、この子にしようと決めた。うさぎは7千円で、ゲージは1万円だった。

一人暮らしのワンルームにうさぎを迎え入れる準備を整え、後日改めて店に引き取りに行った。

うさぎを迎えに来たことを伝えると、店員さんは小さなうさぎを抱いて戻ってきて、「ママ来たよ~」と語りかけた。

ママ。

その発想はなかったので内心笑ってしまった。

ママ。

私がウケていることなど知る由もない店員さんは、長方形の紙箱にうさぎを入れ、その紙箱をペットランドのロゴ入りのビニール袋に入れて私に手渡した。まるでケーキである。

受け取ったビニール袋を提げて歩き始めても、うさぎは全く動く気配がなかった。中を確認するわけにもいかず、出来るだけそっと歩いた。

しばらく歩いて、この中に入っているのは本当にケーキなのでは? との疑惑が高まってきた頃。

ごそ。ごそごそ。

振動が、ビニール袋を持つ手に伝わってきた。

いる。ケーキ動いてる。

猛烈な実感と共に喜びと興奮、そして不安が高まり、寒い思いをさせてはいけないと、慌ててタクシーに乗り込んだ。ママ、急ぐ。

これからこいつ一緒に暮らすのか。まだ想像できない。

そんなことを思いながら、タクシーの中、膝の上のごそごそに神経を集中させ、その振動を味わっていた。あの時の感じを今でも膝が覚えている。

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こんなに小さかった関根。

今では、

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巨大ホールケーキか?

あの頃の小ささが懐かしいけれど、今のずっしりとした抱き心地も愛おしい。





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