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【7月33日】 副流煙を浴びせてしまった

某日

夫がiPhoneをアスファルトに落下させて、角が白く傷になった。「大事に使っていたのに」と落胆していたが、なぜかスマホケースは装着していなかった。「体調には気をつけていたのに」と言いながら全裸で寝て風邪ひいた、みたいな話ではある。

夫が、マニキュアで塗りつぶしたらどうか、と閃く。私は爪に色をつけておくのが好きでネイルカラーは多数所持しているが、黒いiPhoneの傷を誤魔化せそうな濃ゆい色は持っていない。「いや、無理じゃん?」と言いながら、一応ネイルカラーを保管しているボックスを夫に渡したところ、「これだ!」とひとつ選び出した。そんなちょうどいい色なんてあったか? と疑いながら見てみると、それは先日、母親から冷凍便で食材と共に送られてきた「ミッドナイトブルー」という名の濃ゆいネイルカラーであった。あまりに濃ゆくて使いこなせなかった母が私に送りつけてきたが、あまりに濃ゆくて私も使えず持ち腐れていたミッドナイトブルー。iPhoneの傷に塗ってみると、見事に馴染んだ。ミッドナイトブルーが肉や魚と共に北海道から海を越えてやってきたのは、この使命を果たすためだったらしい。


某日

牡蠣のことを思う日々が続いていた。さっさと食べに行けばいいのに、牡蠣が好きすぎるがゆえに、気軽に食べるものではなく、ご褒美に食べるもの、と勝手に自分で枷をはめているところがあって、いつも無駄に勿体ぶってしまう。

しかし、今日という今日はちょっともう我慢できなかった。目覚めた瞬間からずっと視界に牡蠣がチラついていた。ええいとやるべきことを放っぽり出してバスに乗り込んだ。オイスターバーで小さい牡蠣をひとつ口に入れると、なぜ早く食べにこなかったのか、と馬鹿馬鹿しくなるほど美味しかった。
「永遠に生きるつもりか?」
漫画『バンビ〜ノ!』の名台詞が浮かんだ。永遠に生きられない私は、一度きりの人生であと何個牡蠣を食べられるのだろう。今日食べたい牡蠣は、今日食べるべきだ。牡蠣を食べたい自分に誠実に生きよう。


某日

商店街を歩いていたら、店先で流しているラジオが一瞬耳に入ってきた。

「お店で赤パンツを取り扱うようになったきっかけって何だったんですか?」

続きが気になる。しかし、引き返して聞くほどではない。日本のどこかに、何かしらのきっかけから赤パンツを取り扱っている店がある。その事実だけが私の中に残った。


某日

立ち飲み屋で飲んでいたら、隣の若者が「すみません、煙草大丈夫ですか?」と声をかけてきた。喫煙可の店なのだから、もちろん吸ってもらって構わない。それでもわざわざ一声かけてくれたマナーの良い若者の気持ちに応えたくなり、「どうぞどうぞ」した後の会話で、「私、なんならアイコス吸ってる人はちょっと往生際が悪いとすら思ってますよ」などと紙煙草へのフォローのつもりで発言したところ、背後に思いっきりアイコスを吸っている人がいた。あまりにも迂闊である。ひどい副流煙を浴びせてしまった。



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