「個人の保護」と「個人情報の保護」 ~防災と個人情報保護に関する問題、防災週間によせて(1) ~
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「個人の保護」と「個人情報の保護」 ~防災と個人情報保護に関する問題、防災週間によせて(1) ~

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)

こんにちは。NFI理事の加藤です。
8月30日から9月5日は国によって防災週間と定められています。昭和57年5月11日 閣議了解では「政府、地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ、広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波等の災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資するため、「防災の日」及び「防災週間」を設ける。」とされています。ちなみに、防災の日は9月1日と定められています。この防災週間によせて、防災と個人情報保護に関する問題について考えてみたいと思います。

NFIでは、2021年3月11日に「災害時情報共有に向けたNFIからの5つの提言(案)」を公開しました。この提言の作成にあたっては、NFIの災害対策WGのメンバーによる議論が活かされています。そもそも、NFIの災害対策WGを設置するしたきっかけは、高知県立大学の神原咲子先生や弁護士の岡本正先生と一緒に高知県における南海トラフ地震への備えを検討しはじめたことにあります。ちょうど同時期に、個人情報保護法2000個問題について調査をしていたこともあって、2000個問題の弊害が防災においては如実に表れるのではないかという個人的な予想もあって高知県における検討に参加させてもらいました。

高知県の調査からわかった課題:重なり合わない3つの名簿

実際に、高知県で調査をはじめて見ると、やはり2000個問題の実例とも言える問題点が沢山明らかになりました。特に顕著であったのが名簿の問題です。実際に災害が起こった場合に、被害把握や支援のために名簿の作成と充実が欠かせません。ところ、時間軸と共にバラバラの名簿が作成され、しかもそれらが相互に紐付けられていないという問題が明らかになりました。

まず、日頃の備えとして「避難行動要支援者名簿」が災害対策基本法に基づき、大地震などの災害が起こったときに、自力で避難することが難しく、支援を必要とする方々(避難行動要支援者)を、あらかじめ登録しておく名簿として作成されます。この避難行動要支援者名簿については、自治体毎に要支援者の定義が異なる事や登録にあたって手上げ方式を採用している自治体があることなどのバラツキがあることが岡本正先生によって指摘されていました。ところが問題はこれだけに留まらなかったのです。

避難行動要支援者名簿は、あくまで、避難行動に支援が必要な方を掲載した名簿です。ですので、被災した人の全てが把握できるわけではないのです。そうすると、被災した人を網羅的に把握できるような名簿が別途必要になります。自治体では「被災者台帳」と呼ばれるものが作成されることになっています。政府も「被災者台帳の作成等に関する実務指針」を公開しており、「被災者台帳は、被災者ごとに個人情報を記載・記録するものであるため、その作成等にマイナ ンバーを利用すれば、被災者が当該市町村の住民である場合はもちろんのこと、他の市町村の住民である場合でも、その個人情報が同一人の情報であることの確認を容易かつ確実に行うことができる。」としています。ところが、実際に被災者台帳の利用で想定されているものを確認すると、主に「罹災証明」の発行に使われることがわかりました。罹災証明はどのような被害があったかを認定し証明するものですが、これはあくまで建物に対して行われます。所有者または居住者に対して、あなたが所有している、または住んでいる建物はこういう被害に遭いましたよということを、全壊、半壊などの基準で証明してくれます。総務省消防庁においても被災者台帳の作成は罹災証明書の発行の一部として捉えられています。しかしこれはあくまで建物の被害であって、世帯単位の把握でしかありません。また、被害の認定が行われて初めて発行されるものですので、発行までに期間を要します。

このように、「避難行動要支援者名簿」や「被災者台帳」では、被災者の被害状況をあるいは必要な支援の個別の状況を把握することは困難です。実は、これらの2つの名簿以外に、災害発生時に作成されるものがあります。それが「避難所名簿」です。ところがこの避難所名簿も万能ではありません。避難所名簿は避難所に避難してきた方をまとめた名簿ですので、避難所に避難してきていない方は把握できません。在宅避難や避難所以外への自主避難(親戚や友人宅等)はこの避難所名簿では把握できないのです。また、避難所から避難所へ、あるいは避難所から在宅避難、自主避難への異動も起こります。こういった異動も把握することは困難です。さらに、実際の被災地での状況をヒアリングするともっと驚くべきことが分かりました。この驚くべきことについては次回、ご説明をしたいと思います。

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災害に関連した3つの名簿とそれぞれの課題

なぜこのようなことが出来ないのでしょうか。自治体にヒアリングをしたところ、揃ってあげられたのが個人情報保護の問題でした。個人情報保護の問題から、それぞれの名簿の元々の目的を超えて利用することは出来ないということでした。避難行動要支援者の把握、罹災状況の把握、避難者の把握、それぞれの目的が異なるため、異なる名簿を紐付けることは出来ないということでした。また網羅的な把握については、住民基本台帳等を利用すれば可能ではないかと質問をしたところ、これも明確に住民基本台帳の利用目的にあたるかどうかが分からないため難しいとのことでした。

個人の保護は個人情報保護に優先される

果たして、このままでよいのでしょうか。私はよくないと考えています。避難行動要支援者の把握も、罹災状況の把握も、避難者の把握も、全ては被災者を保護するため、つまり個人を保護するために必要なことです。大きな目的は共通しています。ところがそれぞれの小さな目的から目線を上げることが出来ず、個人情報の保護に執着するあまり、個人の保護が疎かになってしまうという状況が生じています。防災週間を機に、今一度、必要な個人の保護について目線を上げて考え直してもよいのではないでしょうか。

ただし、こういった個人情報の活用の断面になりますと、何故か無制限な個人情報の活用が出来るというような意見が混じってきます。名簿の作成は平時から必要なわけですが、平時から名簿があるなら地域振興、マーケティング、研究開発等に使えるのではないかとか、とかく経済的な問題を引き合いに出しがちです。これでは、個人の保護を個人情報の保護に後退させたいという意見が出てくることも理解出来ます。

混じり気なしの個人の保護に基づいて、個人情報保護が見直されることに期待します。

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)
新型コロナ感染症の蔓延をはじめ、激動する現代社会には、さまざまな問題が発生しています。 このNOTEでは、現代社会が直面している課題について、NFIのメンバーが、専門家の目でそれらのトピックについて書いた辛口のコメントを掲載いたします。