アジアの食 ── Singapore 15
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アジアの食 ── Singapore 15

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)

 私は、2011年1月から3月までシンガポールに滞在して、アジア、とくに東南アジアの社会と行政について観察し情報収集を行った。その作業はまだ途上であったが、3月11日の東日本大震災のために、その後の観察は断念せざるを得なかった。今、当時書き綴ったコラムを読み返して、今でも、多くの方に伝える価値があると思い、このNOTEに掲載することにした。その第15弾。

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 多民族社会で、東南アジアの拠点であるシンガポールは、さまざまな料理が食べられることでも有名である。ガイドブックをちょっと開いてみても、中華料理、インド料理、マレー料理、インドネシア料理、タイ料理等々いろいろあり、中華、インド料理はさらにその地方毎のレストランがある。

 西洋料理や、もちろん日本料理店もたくさんある。日本料理に関していえば、高級料理から大衆向きのものまで多数あり、その数は数え切れない。ある通りでは、日本料理屋が並んでいるし、繁華街のビルには、ある階が日本の街にみられる飲み屋街と見間違えるほどのところもある。

 日本料理は、健康によいし、味もこちらの人の好みに合うのか、人気がある。寿司、刺身、天ぷら、焼き魚等々、日本人以外のこちらの人もよく食べている。その料理を作っているのは、日本人の板前さんやシェフもいるが、日本で、あるいはこちらで修行をしたアジアの国の人も多い。店に入ると、彼らが少し日本語とは異なるイントネーションで、「いらっしゃい!」と声をかけてくれる。

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 ところで、料理は、その調理法や出される料理そのものだけではなく、出される品の順序とか、一緒に食べるものとの組み合わせといった一種のもてなし方の作法も大切である。それらが一体となって、その国の料理の味が表現され、それを楽しむのが食事である。

 シンガポールの日本料理店では、出される料理の味や種類は、日本の料理店とほとんど変わらないか、あるいは、天ぷらと刺身、焼き魚が一つの同時に入った定食があるなど、日本以上に品数が豊富なところもある。

 ただし、料理を出す作法の点では、まだ改善の余地がある。たとえば、暑いところなので、店に入ってビールと枝豆などのおつまみ、それから刺身や天ぷらなどのメイン・ディッシュ、そしてお茶漬けなどご飯を注文すると、最初にビールが出てくるのはよいが、次に来るのがご飯、そしてしばらくしてお刺身、かなり時間が経ち、他の料理を食べ終わった頃、おつまみが出てくるということも珍しくない。

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 シンガポールで安く美味しいものが食べられるのが、多様な食べ物屋が並ぶフードコートである。東南アジアの国では、多くの人々は外の屋台で食事をとる。都市部では、多数の屋台が道路に並び、食欲をそそる美味しそうな匂いが漂っている。しかし、当然のことながら、それらの屋台には冷蔵庫はなく、 
また食器を洗う水も充分ではないので、衛生状態はよくない。

 シンガポールでもかつてはこのような屋台が多数あったが、政府は、衛生上の理由から、これらの屋台を規制し、それに変わる食事の場として、各地にフードコートを作ったのであろう。各種の料理店が並び、好きなものを選んで食べられるが、料理をしている人は、皆使い捨てのゴム手袋を使い、非常に衛生的である。他のアジア諸国からシンガポールに戻ったとき、安心できるのがこの食事である。

 ただし、日本と比べて万全かというと、必ずしもそうではない。安くて比較的美味しいものが食べられる日本料理のレストランで目撃したことだが、腕のよい現地人の板前さんが、料理の途中で、店の奥に行った。奥には私も利用したトイレしかない。そのトイレには手洗いはあるが、タオルやドライヤーなど手を拭くものはない。板前さんは、しばらくして奥のトイレから戻ってきたが、そのまま手も洗わず、注文書をみて寿司を握り始めた。以後、私がその店に行かなくなったことはいうまでもない。

※ この文は、3月始めに執筆したものである。その後起こった東日本大震災による福島原発事故からの放射能流出によって、シンガポールでは日本料理を回避する傾向がみられるとか。早く風評被害がなくなることを祈っている。

(2011年04月09日)

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)
新型コロナ感染症の蔓延をはじめ、激動する現代社会には、さまざまな問題が発生しています。 このNOTEでは、現代社会が直面している課題について、NFIのメンバーが、専門家の目でそれらのトピックについて書いた辛口のコメントを掲載いたします。