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【散文詩】ときさびた噴水塔


満月が荘厳な

孤独の表情で差し覗く噴水塔

いくつもの時間に荒び果てた

石と 水と 月光だけが白く

静止の境を生きている


・・・どこからか演説の声。

” Edel sei der Mensch! ”

人類よ孤高たれ!と、

鮮烈に時代を導いた、彼等はとうに此処から去った。


――1冊100円の名著を持って、私は許されない壇上に進む――


遥かを見渡せば月光に目が眩む

あの月面[うえ]では家畜共が、今も黙々と輝く糸を紡ぎ出していて

この地上[した]へまでそれを、たらたら垂らしているのだとか

飽きる事にすら厭きながら


多くのカンダタたちが我先にと群がり縋りついている

一刻でも早く

此の場面から離脱せんと欲して


人間がそこかしこで獣に変わっていく

歪に凍った憂き世の玄冬

飛び込めばそのまま

消えてしまえそうな夜の空は

永久に 頑なに 私たちを拒んでいる


((・・・・・・渦巻き唸るは内なる××××・・・・・・))


「でもさ、まあ、凡て愚かで莫迦莫迦しくとも、

ここまで進退窮まって、その末の画とするにしちゃ、

悪い演出でもないんじゃない?」

などと

ケタケタ皮肉に羽搏いて

季節外れの蝙蝠が

頭上を掠め飛んで行く


ホームへ雪崩れ込む地下鉄の轟。


そうして私は飢えと渇きと

内的衝動の促すままに

時荒びた噴水塔を後にした



(忘年壱月)




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