ラスティ・ドールズ #2

【承前】

「あの子の眼をもらう」
自動人形AM911S”エリス”は、右の義眼をすがめて呟いた。
その視線の数キロ先には、のろのろと歩く自動人形の姿がある。
「いけるのか?互換性とか、何かあんだろ」
傍らでそう尋ねるのは、扁平な機体にマニピュレータを備えた自律工作機械”ジョニィ”。カメラアイをしきりに動かし、同じ対象を観察している。
「あの型なら大丈夫だと思う。それに――」

ぱちっ。

右眼の奥で爆ぜるような音。またか。エリスは顔を顰めた。
「見ての通り、贅沢言ってられない」
「それもそうか」

エリスは義眼のスペアを求めていた。
左眼は既に失われ、右眼も無視できない損耗をきたしている。傷んだ回路が発するサージの頻度は増す一方だ。旅を続けるためにも視覚を失うわけにはいかない。しかし、自動人形の義眼に見合う廃棄品は容易く見つかるものではない。
この”出会い”はまたとない好機だ。

エリスは四肢の調子を確かめる。白い外装は日光と砂で黄ばみ、傷だらけだが、関節はまだ滑らかに動いた。
「もう襲うのか?」
「まさか。逃げられたらどうするの」
エリスは遠くの自動人形をもう一度見た。彼女の目的はおそらく”盗掘”だ。行き先は予想がつく。
「待ち伏せする。急ぐよ」
エリスは左眼窩に巻き付けた襤褸布を縛りなおすと、遠方の”遺跡”に向かって駆けていった。少し遅れて、ジョニィが履帯を唸らせながら続いた。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?