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音楽家にとって大切なお金の教育(下) | NSU教育学部 Vol.7

今回は、シリーズNSU教育学部第7弾『お金の教育』の続きです。

前回記事はこちら(→NSU教育学部 Vol.7『お金の教育』(上))

日本の奨学金の多くは借金のようなもの


ちなみに、アメリカの大学の奨学金は基本的に「返済不要」です。

アメリカは日本と違い、寄付の文化があります。ざっくり言うと全米の(世界中の?)お金持ちが大学に寄付していて、それが奨学金に充てられるため、返済義務がないんです。

※キリスト教では「お金はあの世に持っていけない、生きているうちに良い事に使わないと死後幸せになれない」というような考え方があり、だから寄付が集まりやすいと聞いた事があります。

僕が通っていた大学はラスベガスで、町がカジノ収益で潤っていたため、寄付金が多く、奨学金の高さを理由に入学してくる学生もいました。

ありがたい事に、僕も奨学金をいただいていたのですが、返済不要な代わりに、アメフト応援用のマーチングバンドか、大学を練習場にしている社会人バンド(吹奏楽)に参加するという「義務」がありました。

「寄付の中からあなたにお金をあげるけど、何もしないで貰えると思っちゃダメだよ、社会(地域)に貢献するから貰えるんだよ」という事を身をもって学ぶわけです。

言い変えれば、「ギブアンドテイク」のシステムを学ぶという事(与えるから貰える)。

※アメフトはアメリカの国技で、大学チームも地元をあげて応援します。だから地域貢献になるという考え方です。

それに対して、学費が免除になるレベルの優秀な生徒以外(給付型奨学金以外)、日本の大学の貸与型奨学金の多くは、ある意味借金のようなものです(返済時に利子が付く場合もあります)

いま音大だけではなく、卒業しても派遣社員やアルバイトで正社員になれず、奨学金や教育ローンの返済が出来なくなる事態が社会問題となっています。

音大を卒業したほとんどの人は、新卒の年から就職した人と同程度の給料を得るのは難しいと思います。同窓会や結婚式で友人と再会したら、一般大を卒業して就職した同級生たちと収入で大きな差が付いてしまったというような話はよく聞きますよね。

こんな状況で奨学金やローンを本人が自力で払うのはほぼ不可能だと言っても過言ではありません。

※教育ローンは金融機関が親の返済能力を判断して貸しますが、貸与型奨学金はそれがない事で返済地獄に陥っている場合があります。

このブログのタイトルに「サバイバル」という言葉を使っていますが、音楽家にとってこれは大げさではなく、現実なんです。

これから音大を目指す人やその親御さんは、教育ローンと同様、借金をしている = 卒業したら働いて返済をしないといけない、という現実をしっかりみる必要があるのではないでしょうか。

税金への理解も必要

毎年この時期になるとテレビコマーシャルでも見かけますが、フリーランスは「確定申告」という作業をします。

若い音楽家の皆さん、やっていますか?(そもそも「確定申告」を知っていますか?)
知らない人はとりあえずググって調べてみてください。

税金の説明は本職の税理士さんでないと難しいのですが、あえて音楽家の立場でシンプルに説明すると、

企業の正社員のような形で就職していない場合、つまりフリーランス(個人事業主)は自分がその年いくら稼いだのか税務署に申告して、それによって納税額が変わってくるという話です。その申告が「確定申告」で、所得によって課税されたり還付(返金)されたりします。

※企業に就職している場合、「年末調整」という形で、会社がやってくれています。

コンビニやスーパーで食品を買った時、レストランで食事をした時、映画館で映画を観た時などに8%の消費税が取られているのはさすがにご存知かと思いますが(今年の10月から10%になる予定です)、それ以外にも市民税や県民税(区民税や都民税)のほか、国や地方自治体に納めないといけない税金はたくさんあります。

では、なぜ税金が必要なんでしょうか?

税金がないと、皆さんが利用する高速道路が整備されなかったり、健康保険で医療サービスを受けられなかったり、国公立大学の運営が出来なかったり、おじいちゃんおばあちゃんの年金が払えない(自分がその歳になった時に受け取れない)からです。

納税は国民の義務なんです。

アメリカでは学生のころからお金の勉強をし「ギブアンドテイク」を学ぶという話をしました。

税金はまさに「ギブアンドテイク」です。
(この場合は「払うから貰える」です)

確定申告の話に戻りますが、とあるそこそこ有名な先輩ミュージシャンが、SNSで「確定申告、無事終わって全額還付されました!」と喜びのコメントを書いていました。

プラスに解釈すれば「うまく節税出来ました」かもしれませんが、裏を返せば「自分の収入が低くて課税されず、全額返金されました」とネットでアピールしているんです。

もっと言えば、国民の義務を果たしていないという事、「ギブ」していないのに「テイク」しているアピールだという事ですよね。

「こんな状況で自分の好きな事をやっている(音楽を生業にしている)プロですと名乗るのは恥ずかしい、自分はそうならないように、音楽だけでなく、ビジネス、つまりお金の勉強をしよう」

と思いました。

もしもこんな人が政治に文句を言っていたらおかしいと思いませんか?

「与党と野党でつまらない足の引っ張り合いしたり、不正な献金とかカネの問題ばっかり追及してないで、もっと教育とか保育所の待機児童問題とか、国の未来を考えてよ、文化にお金を使ってよ!」

という文句は、国民の義務を果たしているからこそ言える話なんです。

皆さんもぜひ「納税出来る音楽家」を目指してください。

ただ、若いうちから納税出来るレベルになるのは容易ではありません。
まずはきちんと「確定申告」をして、払い過ぎている税金を取り戻してください。
もしかしたら自分の演奏の報酬から税金が引かれていて、それを取り戻せる事を知らない人もいるでしょうね。
場合によってはその還付金で楽器が一本買えるんですよ!

音大卒業後にほとんどの人がフリーランスになるのに、こんな大切な事を教えない日本の教育機関は本当に困ったものです。

お金を稼ぐ事が人生の目的になってはいけない


ここまで口を酸っぱくお金、お金と書いてきましたが、真逆の事を言います。

お金が一番になってはいけません!

お金は「ギブ」の結果「テイク」出来るもの、あくまで「対価」(二番目)なんです。お金持ちでも心が寂しい人もいれば、そうでなくても幸せに生きている人もいますよね。

ちなみにiPhoneでおなじみのAppleの創始者のスティーブ・ジョブズ氏は「世の中の役に立つものを作りたいという人生の目的があって、結果成功し、億万長者になった」そうです。

「鶏が先か卵が先か」みたいな話ですが、決して「お金持ちになるために人の役に立つものを作ったんじゃない」という話ですね。

『A or B/あなたが選択すべき人生の分かれ道』Vol.6 諦めない勇気 or 諦める勇気

ここにも書いた「人生の目的」があり、その手段で世の中に貢献した結果、対価としてお金が入ってくるという考え方です。

ただ漠然と「稼ぎたい」と考えている人よりも、「目的を持って人の役に立とうと努力し、なおかつお金ともシビアに向き合った人が、結果成功している」と僕は考えています。

※僕がこうしてネクストステージ・プロジェクトのようなNPO法人や震災の復興支援、発展途上国の貧困支援といった活動しているのも、アメリカでの経験なども含め、受けた恩(テイク)を返そう(ギブしよう)と思っているから、ただそれだけです。

次回へ続く

著者 藤井裕樹(ふじいひろき)プロフィール

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NPO法人ネクストステージ・プランニング音楽ディレクター
株式会社マウントフジミュージック代表取締役
Trombonist, Composer, Arranger, Teacher, Writer, Producer, Consultant

LIFE WITH MUSIC「音楽と共にある生活を」

1979年大阪府生まれ。都立小平南高等学校在学中、第4回日本トロンボーンコンペティションにおいて第3位入賞。アメリカネバダ州立大学ラスベガス校特待生(2005年在籍)。 19歳でプロとしてのキャリアをスタート。国内外の多くのジャズアーティストとの共演の他、東京ディズニーリゾートでのパフォーマンスや、大塚愛、関ジャニ∞、矢沢永吉などのJポップ、ロックアーティストのツアー・ライブサポートや、CDレコーディング、CM音楽のレコーディングなどに参加。作編曲家としては、東京ディズニーリゾートや東京スカイツリーのイベントなどを手がけ、講師としては、2008年から2015年まで(財)ヤマハ音楽振興会認定講師を務める。2016年3月11日、自身では初のリーダーアルバム「Lullaby of Angels」をリリース(東日本大震災チャリティーCDとして)。 2017年1月、NPO法人ネクストステージ・プランニングの音楽ディレクター(プロデューサー)に就任。若い音楽家が自立するためのノウハウを書いたブログ「音楽家のサバイバル術」の執筆も行うほか、これまでの経験を生かし、楽器可物件の不動産会社や音楽事務所、ライブハウス、個人の音楽家などのコンサルティングも行っている。

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前回記事:NSU教育学部 Vol.7『お金の教育』(上)
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