見出し画像

黒丸白丸の何だか救いがない会話(ひとりブレスト対話式)

8050問題の字面が目に慣れて久しい


黒丸「7040問題が8050問題に移行して久しい昨今、9060問題と名称がまた移行するのも時間の問題だな」
白丸「いきなり随分な導入だね。ひきこもりや福祉に関心がある人しか意味がわからないよ」
黒丸「いいんだ。頭の中の整理のために会話形式でブレストしてるだけだから」
白丸「舞台裏を明かすのが早い」
黒丸「さらに首相は『異次元の少子化対策』とか口にして大手新聞社の投稿欄でSF小説読書中、などと大喜利のネタになる始末。第3次ベビーブームを牽引するはずだった氷河期世代は既に妊娠出産可能な年齢ではないし、子どもを産める女性の総数は年々減る一方だ」
白丸「…ソウダネ」

初婚と子どもとM字カーブ


黒丸「未婚出産を歓迎されない日本では子どもは結婚してから産むもの、という風潮が強いが、そもそも結婚のハードルが高い。男性側の年収が上がるのを待っていたり、女性がキャリアを優先させるとどうしても初婚年齢は上がる。婚姻が遅れればその分、出産可能な期間も短くなる。
いくら不妊治療を助成したって、そもそも赤ん坊を産める年齢は上限があるんだ。婚姻時の年齢が20代はじめならあと20年はチャンスがあるが、30代はじめでは10年弱。この10年の差はでかい。
新婚夫婦は子どもを3人持って欲しい、と言った政治家がいたが、新婦の年齢が30過ぎならそれは言うほど簡単じゃない」
白丸「計画通りに子どもを妊娠することが可能だったとしても、そうとう厳しいだろうね。年の差2~3歳で子どもを3人産むことになる。
妊娠中に幼児の面倒を見るのは大変だし、将来の子どもたちの学費を考えると、夫婦共働きは必須。およそ10年の間に何回も産休育休が取れる職場がそうあるとは限らないし、職場で母親の昇進の道が途絶えたり、辞めなきゃいけなくなるかもしれない。
そうなると幼子抱えての再就職は難しいから諦めちゃうかも。でも子どもが大きくなってからの再就職も…」
黒丸「学歴経歴に見合わない雇用形態になるかもしれない。いわゆるM字カーブの問題だ」
白丸「M字カーブってそうだっけ?」
黒丸「参考資料が脳内にしかないから深く追究するな」
白丸「で、今の話題が導入部の9060問題とどうつながるの?」

貧困専業主婦


黒丸「その前に貧困専業主婦の問題にも言及したい。仕事がある30代女性に3人も産んでもらわなくても、専業主婦の若い女性にたくさん子どもを産んでもらえばいいだろう、という主張がある」
白丸「ハァ」
黒丸「しかし、高所得家庭ならともかく、貧困家庭のそういう女性は多くが低学歴で、人間関係も地域内にこもりがちだ。外向的な性格ならいいが、内向的な性質だと密室育児になる危険性が高い。
学歴があれば本なりネット検索なりで知識にアクセスしやすいから、育児が行き詰まったとき外部に助けを求められる可能性が高いが、低学歴で知り合いも地域の偏った層にしかいないとなれば、追い詰められて悲惨な状況にもなりうる」
白丸「偏見が強くない?」
黒丸「客観的資料がないとそんなもんさ」
白丸「で、貧困専業主婦の問題ってそれ?」
黒丸「他にもある。母親の世界が狭いから、しつけや教育方針が偏ったものになりやすい。父親は家族のために働きまくるから家に父親の存在感がなくなる。子どもの数が多ければ、塾や習い事に回す金の余裕はないから、家庭と学校だけが子どもの居場所になり、子どもの世界も狭くなる。
子どもは広い世界を知る機会がなく、『人生はしょせんこんなもの』と感じてしまい、唯一のモデルケースである親と同じような人生を選択してしまう。
つまり進学意欲が湧かず、低学歴のまま低収入の仕事を選ばざるを得なくなる。給与を上げるためにスキルアップするという発想も意欲もわかない。そして貧困層の家庭が再生産される」
白丸「気分が暗~くなってきたよ」
黒丸「そうか。もっと暗くしてやろう。最初の9060問題だが、この親子の子どもの方がこれから社会的に自立できると思うか?」
白丸「難しいでしょう。ひきこもりから脱出できたとしても、もう正社員になれる年じゃないし、非正規雇用でも、それができる対人コミュニケーション能力があるかどうか。福祉行政と自力でつながれるかも怪しい」
黒丸「そうなんだ。90代の親にそれを求めるのも酷だしな。かといって放っておいて親子ともども心中や餓死されるわけにはいかない。親に入院や介護の必要性があればそれを支援しなければいけないし、親亡きあとの子どもの生活保護受給や施設への入所も考えなければいけない。となると、福祉行政の側から親子に支援の手を差し伸べる必要があるんだが、世間体やプライドの問題で問題そのものの存在を否定されることもある。
ところでコロナ禍のニュースなどで話題になった通り、日本のエッセンシャル・ワーカーの給与は低い」
白丸「いきなり何? まあ日本に限らないみたいだけど、そうたね」

みなさん頭が下がります


黒丸「公立校の教諭や保育士、市役所職員など、行政職員の給与も、激務の割に低い。公的機関なのにブラック企業だ。ふさわしい人間がいないわけじゃない。教諭や保育士は資格を持っている人間は多くいるのに、激務と低収入でなり手がいない。
給与をあげれば人手不足は解消されるはず、と、どれだけ多くの現場の人間が主張しているか知れないが、なぜか一向に改善されない」
白丸「また別角度から別の絶望を挟んできたね」
黒丸「それにも関わらず、なり手が絶滅しないのは、熱い意欲や志がある人間がまだ一定数、日本にいるからだ。
未来ある若者が夢や希望や信念を持ち、激務で低収入でクレームばかり来ることがわかりきっている教師や保育士や行政職員として社会に出てくれる。この世は絶望ばかりではない」
白丸「そう思うと頭が下がるね」
黒丸「そしてこれからの福祉行政の担い手もそうした人々から出てくることになる。
人生に挫折し性格がねじくれ対人関係に難のある、それゆえに普通なら引退する年齢になってなお実家に引きこもっている社会性のないオッサンを家の外に出すために、崇高な理想を持つ若者が――」
白丸「ストップ、ストップ! 表現に悪意が過ぎる!」
黒丸「そうだった、すまない。思わず将来の自分が見えて、自己を攻撃してしまった」
白丸「いきなり自分を”ひきこもり”と自己開示しないで」
黒丸「あくまで脳内人格の脳内設定だから自由にさせてくれ」
白丸「ひとりブレスト用の架空人格に突然背景を設定するのやめて…」

ケアワークっていちばん優先される仕事ですよね


黒丸「まぁそういうわけで、近い将来福祉関係者の若者の多くが9060問題含め中高年のひきこもりにかかわらざるを得なくなると俺は踏んでいる。低賃金のままコレでは、若者のやりがい搾取ではないか?」
白丸「否定はしないけど、それがどうしたの?」
黒丸「それと同時に若者自身のひきこもりも増えると俺は踏んでいる」
白丸「今の不登校児童・生徒の数を見るとそうかもね。集団に合わせられない子どもは即排除される感じだけど、合わせなくちゃいけない項目の数が尋常じゃない感じ」
黒丸「そして国が進める少子化対策だ。どうも”男は外で働き女は家を守る”家庭像が日本の古くからある家庭の正しい姿と思い込んでいる、アップグレード機能が壊れた政治家が主導しているらしい。そんな価値観、わずか20年ばかりの高度成長期の間に作られたものなのに。シアワセな子ども時代の価値観が永遠に通用すると思っているオメデタイ頭で考えた政策が、現実に通用すると思うか?」
白丸「もはやただの罵倒に聞こえる」
黒丸「子どもは放っておきゃ勝手にデカくなるし、家事は会社の仕事と比べりゃ大した手間じゃないし、学校の勉強は先生が話してるのを聞くだけでいいし、年寄はヒマな嫁さんが面倒見りゃいいと思ってるんだよ。シアワセな子ども時代にそういう景色を見てきたからな。子どもからは見えないところで子育てや家事や介護で苦労して、泣いていた大人たちの実際なんて知らないまま大人になって、そのまま政治家をやってるんだ」
白丸「まるで別の人格が乗り移ったかのような暴言と根強い偏見」
黒丸「だから育児や家事や介護や教育に金を払う価値がないと思ってるんだよな。そういうのは”誰でもできる仕事”だから、簡単な仕事になんで高い金を払う必要があるんだって思ってる。
でも実際は、それがなきゃ誰の生活も回らない最優先最重要の仕事なんだよ。”誰でもできる仕事”じゃなくて、”いざとなったら誰もがしなきゃいけなくなる仕事”なんだ。
命、健康な体を守る。身体や衣服、住環境を清潔に保つ。子どもやそれができない人間に、人との接し方を身につけさせる。すなわちこれケアワークだ。人間の生活のど真ん中を担う仕事だ」
白丸「急カーブで正論を言い始めた…。で、何が言いたいの?」

僕の考えた最低の未来

黒丸「俺が思うに、日本は将来ケアワークに忙殺される」
白丸「うん?」
黒丸「高齢社会の到来、希望が持てない少子化対策、上がらないエッセンシャル・ワーカーの給与、教育・福祉行政における若者のやりがい搾取、増加し続けるひきこもりとそれに伴う労働力の減少、人口を維持するために専業主婦に出産を奨励しても、低学歴低収入低意欲の若者が増えるだけ」
白丸「暗ぁい」
黒丸「こうした現状から予想されるのは、誰もが自分の仕事と、自分と家族の分のケアワークを担うだけでいっぱいいっぱいになる未来だ。理想を持ったやる気ある若者はケアワーカーがいない家庭を支援する仕事と、自分の家庭のケアワークだけで精一杯になるだろう。現役世代は仕事と親の介護と子育てでいっぱいいっぱい。貧困層の専業主婦は家事と子だくさんの育児で精いっぱい。ひきこもりに他人の家庭のケアワークができるわけがなく、自分のケアすら親がかりかもしれない。エッセンシャル・ワーカーの給与が上がらないままなら、意欲のあるものは生活のためにキャリアアップして転職していくだろう。その空いた席を埋めるのは、スキルアップの発想がなく意欲も薄い貧困層出身の若者だ。彼らに質の高いケアが期待できるとは思えず、親の介護や育児をアウトソーシングしたいと考えるものがいたとしても、自分がやった方が安心安全だ、と諦めてケアワークを自分で抱え込んでしまうかもしれない。そうなればケアワークの商業的需要は増えず、エッセンシャル・ワーカーの給与は低いまま抑えられる…」
白丸「悪循環!」
黒丸「これが『僕の考えた最低な未来』だ」

僕の出した有効な結論


白丸「解決策はないの?」
黒丸「……これから実践しようと思っていることはある」
白丸「なになに?」
黒丸「宇宙人になる」
白丸「は?」
黒丸「宇宙のかなたからやってきて『数十年前から問題が指摘されていたにもかかわらず誰もが当事者意識を持たず放置していたせいで自業自得のディストピア風景が展開される日本』を観察しに来た宇宙人になる」
白丸「相棒がいきなり地球人を辞めた」
黒丸「ダイジョウブ俺筆者ノ脳内ノ架空人格、設定変更自由自在」
白丸「口調がいきなりオールドファッションな宇宙人に!」
黒丸「オマエ俺ノ仲間、同ジナレル」
白丸「そうは言っても……そうだね”ひとりブレスト”はもう終わってるもんね!」

黒丸・白丸「ワレワレハ宇宙人ダ……」

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?