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捨てずに生かそう。地域資源を見直す、これからのものづくり/ ニュートラゼミ 第一回ゲスト 津田和俊さん

 「物のライフサイクルを考えるということは、昔で言うと、わら細工の草履とか家でこしらえて、使って、すり減ったら修理して。役目を終えたらまた土に戻したりだとか。例えばそういう文化を見直すことでもあるのかなと思っています。」

「酵母は虫や鳥が体につけて移動していくと言われているので、実は植物の花や果実などいろんなところにいます。パンを焼くときに、プロの選手としてのドライイーストと比べると少し時間がかかったのですが、小豆島の花からとった酵母でもゆっくりですが確かにパンが膨らみました。」

と、わかりやすい実例を用いながら、丁寧にわかりやすく自身のプロジェクトについて教えてくださったのは、バイオテクノロジーを用いて“いのち”が循環するものづくりやワークショップを行っている津田和俊さん。

10月より、”自分たちが関わったことのない未知の分野から学び考える機会を作りたいなあ” と、たんぽぽの家ではスタッフ向けの「ニュートラゼミ」という勉強会が始まりました。記念すべき第1回のゲストに来てくださったのが津田さんです。興味深い取り組みをシェアしてくださったそのレポートをお送りします。

ゲストスピーカー:津田和俊さんについて

京都工芸繊維大学 デザイン・建築学系 講師。山口情報芸術センター[YCAM] 専門委員。2010年からファブラボのネットワークに参加、2013年に大阪のファブラボ北加賀屋を共同設立。共著に『FABに何が可能か 「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』(フィルムアート社)、『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『サーキュラーデザイン 持続可能な社会をつくる製品・サービス・ビジネス』(学芸出版社)など。

MAKE almost anything(ほぼ何でも自分たちで作る方法) からGROW almost anything (ほぼ何でも自分たちで育てる方法)へ

津田さんの現在の研究領域のひとつは「バイオ」です。ですが元々は特にバイオを研究領域にしていたわけではなかったそうです。

ファブラボ(レーザーカッターや3Dプリンタといったデジタル・ファブリケーション機器など多様な工作機器を使い、D I Yのものづくりの可能性を楽しみながら実験するコミュニティ・スペース)での拠点作りなどの活動をしていました。

きっかけのひとつは、2014年にインドネシアのファブラボのアーティスト・バイオハッカーが来日し、一緒に作品制作を行ったこと。

そこで“ファブラボ” と同じように、普通の市民がバイオテクノロジーを扱うためにアクセスできる身近な“バイオラボ”(コミュニティ・バイオラボやDIYバイオラボとも言われる)が世界中に広がっていることを実感したそうです。

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世界中のファブラボ・コミュニティのメンバーがバイオを学ぶオンライン・クラスの一コマ。一番右上が津田さん。ファブラボの合言葉”how to MAKE almost anything”(ほぼ何でも作る方法)に、バイオラボ版の”how to GROW almost anything(ほぼ何でも育てる方法) が加わりました。

400円以下で生き物のDNAが調べられる時代?

以前から「バイオ」を扱うのは、研究所などに所属する専門家がほとんどです。

それがグッと非専門家にも身近になってきたのには、技術が進んで、その周辺機材が安価にもなり、手短に調達できるようになった背景がある、と津田さんはいいます。

例えば、植物など生き物のDNAを読むためのコストは、2000年頃に比べるとこの20年で約100万分の1まで下がっているとみられています。100万分の1というと、当時約100億円かかったと仮定した場合、それが現在は1万円程度になったというくらいのインパクトです。例えば、短い塩基配列(最長約1000塩基)であれば400円以下で読んでくれる解析サービスもあり、自分たちも使っています。

また読んだDNA情報は、デジタルデータとして扱えます。物質としてのDNAを解析委託サービスの会社に送れば、2〜3日ほどでデジタルデータとしてDNA解析結果がメールで届きます。Google 検索のように、DNAの情報をコピペして、DNAのデータベースから検索して、その生物種を調べることもできます。

分たちで植物の図鑑を作るワークショップ

身近になったDNA解析の状況を活かして、山口情報芸術センターで津田さんたちは子どもから大人まで自分たちで植物の図鑑を作る体験ができる「森のDNA図鑑」というワークショップを行っています。

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どんな植物か調べたいと思ったとき、葉っぱや花の形状などを手がかりに専門家が作った図鑑を参考にして調べることはよくあるでしょう。「でもDNAを自分たちで調べることができるなら、自分たちで自分たちの地域の図鑑をつくることができるのではと考えたのが、このワークショップです」(津田さん)

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森に出かけて植物の葉っぱなどを採集。観察した後、細断してDNAを抽出します (撮影:田邊アツシ、写真提供:山口情報芸術センター)

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ワークショップ用に制作したDNA抽出キット用チューブスタンド。左端に用意したチューブに細断した葉っぱを入れて、イラストで説明されている「試薬を混ぜる」などの各工程を、すごろくのようにひとつずつ順に右に右に進めていき、右端までいくと抽出されたDNAを得ることができる!(撮影:田邊アツシ、写真提供:山口情報芸術センター)

物のライフサイクルに生産者と消費者がどう関わっていけるか

物のライフサイクルに作り手と使い手がどう関わっていけるか。
その興味が、津田さんがファブラボに関わっている動機でもあるそうです。

「買って、使って、捨てる、という関わりだけではなく、物のライフサイクルの上流の(はじまりの)“つくる”ところから関わる。あるいは“育てる”ところから関わったり、使った後に捨てるのではなくて、それを他の物に生かしていったり、あるいは分解して自然に還していったり」

それは、ある製品のはじめからおわりまでのライフサイクル(一生)を通じて、どのような環境負荷が生じているかを考慮する“ライフサイクル思考”と呼ばれる考え方の実践でもあります。

「物にも人と同じように一生があると思うのですが、その一生に人がどう関わっていけるかだと思っています。実験しながら一から作っていくことで、関わりしろを広げていく。そして、それを自分だけでなく、より多くの人々と共有していきたいです。」

知らなかった!その1:なんでもリサイクルすればいいというわけでもない?

ところで、てっきり”原料へのリサイクル=地球に優しい行動”だと思っていたのですが、必ずしも何でもリサイクルすることが環境に優しいわけではないようです。

リサイクルをするのにもエネルギーや物質が必要になります。そのため、まずは使う量を減らすこと(リデュース)や、そのまま使うこと(リユース)を優先しておこない、その上で必要に応じて原料へのリサイクルをおこなうことが重要です。

例えば、Good Job!センターでも使用している一般的な3Dプリンターでは、原料として細長い糸状の“フィラメント”と呼ばれるプラスチックを用いています。

プラスチックは光や熱など様々な要因で劣化していくので、原料にリサイクルしようとしたときに成形性などの品質が保てなくなるということがあります。

「そのためリサイクルプラスチック材料の質を高める工夫が必要になります。例えば、新しいプラスチック材料と混ぜたり、廃棄ガラスをリサイクルした材料を混ぜたり、といった取り組みがありますが、その混ぜた材料で作ったものがまた廃棄されたときのことを考えることも大事かと思います。」(津田さん)

リサイクルするときには、そのリサイクル材料を使って何を作るのが良いか、その価値や寿命、さらにその次のライフサイクルも考えて作ることも大切な視点と言います。

知らなかった!その2:動物性より植物性の方がエコなイメージ。でも実はそうとも限らない?


ところで、動物性より植物性の方がより地球に優しくエコロジーなイメージがどうしてもあるのですが、その辺はどうなんでしょうか?

「動物性に比べて植物性や菌類由来のものの方が、水やエネルギー消費量、土地利用などの環境負荷は低い場合が多いのは確かだと思います。アニマルライツ(動物の権利)やアニマルウェルフェアといった考え方も広がってきています。でも、動物じゃなくて植物だからいいとか、植物じゃなくって菌類だからいいとか、そういう風に言い切れない側面もあるかと思います。」(津田さん)

命をいただくということは、研究倫理にもつながります。例えば一匹のトンボ(昆虫)であっても無闇に命を奪えないというのは、津田さんがバイオの研究に取り組む中で感じてきたことだそうです。

SCOBYやキノコの菌糸体から作る衣服の生地

そんな津田さんは今、京都工芸繊維大学で、SCOBYと言われる(日本では“紅茶キノコ”、海外では”Kombucha/ コンブチャ”の原料でおなじみ)微生物の発酵飲料の副産物から、衣服の生地になるような素材を試作しています。

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大きな容器に緑茶や砂糖、お酢を入れて、そこにSCOBY(酢酸菌や乳酸菌、酵母などの微生物が共生培養されたもの)を投入。他の菌が入らないように(かつ密閉はしないように)にラップして、20〜30℃の環境に置いておきます。

図9

そうすると2週間から1ヶ月くらい経つと、溶液の表面にバクテリアセルロースと呼ばれる膜状の素材ができます。その浮いている膜をすくいとって、よく洗って天日で乾燥させて、衣服の生地などへの応用を検討しています。

また、普段は有機物を分解してくれる役割であるキノコの菌糸体の部分を素材として活用するヴィーガンレザーの素材の試作もされています。

図7

現在、こうしたヴィーガンレザーの市場が注目され、生産規模を拡大する動きがある一方で、大量生産への懸念を表明する声もあります。また、インドネシアでは、農業残渣をうまく活用した分散型生産が模索されています。

そうした状況の中、例えば、国内でキノコ栽培をされている農家の方々と意見交換したり、自分たちでもDIYで実験してみたりして、ありうる未来を描いてみているそうです。

普段の生活ではあまり想像しない未知の分野のワクワクするお話でした。

*****津田さんのより詳しいお話を知りたい方は、こちらのインタビュー記事もぜひご覧ください*****

KPR PRESS Vol.160 (発行・企画:京都リサーチパーク)
特集:土のにおいとテクノロジー[土との距離]




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