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行政とアーティストの連携により、ストリートカルチャーを守っていくーロンドンにみるバスキング制度

「もしも渋谷にオフィスビルがなかったら?」──そんな問いを起点にポスト・パンデミックの都市像を探索するプロジェクトに、『Night Design Lab』を運営するNEWSKOOLは取り組んでいます。

その一環として、世界各地の都市デザインやエンターテインメントの未来の兆しを収集中。第5回で紹介するのは、ロンドンにて導入されている「バスキング制度」です。

アーティストが表現できる環境を整えるバスキング制度

ロンドンの地下鉄には音を出してのパフォーマンスが許される演奏スポットが多数設けられています。演奏スポットは予約制になっており、事前にウェブサイトを通じてアポイントメントを取ることで利用できます。実際にロンドンの地下鉄でパフォーマンスをするためにはライセンスの取得が必要です。市の主催するオーディションに申し込み、試験に合格することではじめて演奏スポットの予約が可能になります。

バスキングの制度化の背景にはロンドンのボリス・ジョンソン(Boris Johnson)前市長の活躍があります。バスキング制度が制定される前のロンドンでは、ストリートパフォーマンスが盛んに行われていたものの、騒音の問題や演奏者同士のトラブルが絶えなかったため、各自治体や私有地の管理者により、次々に路上パフォーマンスが禁止されていました。

ボリス前市長はこの現状を打破するため、警察や市職員、ストリートパフォーマー団体との間で路上パフォーマンスのガイドラインの制定とバスキングの制度化をしました。この取り組みにより、ロンドンのストリートパフォーマーの保護ができるようになりました。


このバスキング制度のように、人々が自由に表現できる環境を都市のなかに整備し、プラットフォーム化することは、クリエティビティ溢れる人々が集積する都市をつくることにつながっていくはず。

2000年代のリチャード・フロリダのクリエイティブクラスの議論のようにクリエティビティ溢れる人々は都市にとっての重要な資本となります。アーティストやクリエイター、起業家などのプレイヤーといったクリエイティブクラスは新しいアイデア、技術、コンテンツを創造でき、また、クリエイティブクラスはよそ者を排除せず、多様な文化や価値感を受け入れる寛容性に富んだ都市を好みます。都市にクリエイティブクラスを集積させることにより寛容性と経済成長を両立した創造性の高い都市を目指すことができるわけです。

社会に接続された公共的な空間のなかで、個々人が創造性を発揮できるスペースを持つことは、その都市の個性やアイデンティティを育むことにつながるはずです。現にロンドンでは地下鉄での演奏パフォーマンスがその都市のローカルな魅力として確立しています。

日本における路上パフォーマンス保護の取り組み

日本においても、バスキング制度のように、アーティストに対して路上パフォーマンスのライセンスを発行する仕組みは存在します。その中でも代表的なのが、東京都の運営する「ヘブンアーティスト事業」です。ヘブンアーティスト事業とは、オーディションで合格したアーティストに対してライセンスが発行され、指定場所でのパフォーマンスが許可される制度です。主な活動場所は、上野恩賜公園、代々木公園、東京国際フォーラム、東京ドーム、井の頭恩賜公園、お台場海浜公園、パルテノン多摩など、公共空間から都内の主要施設まで多岐に渡ります。

ヘブンアーティスト事業には現状500人ほどのアーティストが参加しているものの、事業自体の認知度が低いことや、年に一度で合格率2割ほどのオーディションを突破しなれけばいけないことを背景に、アーティストへの浸透率は低い現状があります。行政とアーティストが連携して、路上パフォーマンスに関する制度や規制の認知度を向上させていくことがストリートカルチャーを守り、都市をよりユニークにしていくことにつながるはずです。


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