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「ファッションを悪者にしないために今できること」~生活者の力で服の一生をより長く

こんにちは。newRニューアールのおだぎりあいみです。
3月6日。爽やかな日曜日に、NPOグリーンズとmorning after cutting my hair,Inc.が共同運営するラーニングコミュニティ「Sustainability College」通称「サスカレ」による「What's Sustainability? by サスカレ」が開催されました。

こちらは、BONUS TRACK主催「サステナビリティ」に触れるきっかけとなるイベント「お店のサステナブル展」の関連企画であり、地球の未来に興味を持っている方や、仕事や学業で「サステナビリティ」という言葉に向き合っている方など、さまざまな思いを胸に足を運んでくださった方々と共に過ごした充実の1日でした🏕

本稿では、当日会場で行われたトークイベント「ファッションを悪者にしないために今できること」で繰り広げられた内容を皆様にお届けします!

登壇者
田中美咲さん オール・インクルーシブファッション「SOLIT!」代表
寺井正幸さん ごみ問題を学ぶコミュニティ「ごみの学校」運営代表
中川かおりさん 似合う研究家「newR」代表

写真左から、寺井さん、かおりさん、美咲さん

サステナブルファッションって、サステナブルな素材の服を新しく買うこと?

かおり 先日、Fashion for Good Experience(世界初のサステナブルなファッションとイノベーションに特化した体感型ミュージアム)を多くの方に知って体感してもらおうというオンラインツアーに参加しました。ファッション業界の過去から未来がわかるということで、私も美咲さんも期待して参加したんですが、「あれ?最先端でもそうなの?」と感じた部分があって。

美咲 そうですね。「過去」の話では、ファッション業界でどんな課題があって、人権の話だったり多様な生産者の思いがあって変化してきたかを知ることができたのに、最終的なアウトプットは、「環境に優しい素材があります」になってた。もちろん素材も大事だけど、素材だけじゃないー!ってなりましたね。サステナブルファッションの世界最先端施設だと期待していただけに、ちょっと期待しすぎたなと(笑)。

かおり サステナブルファッションの定義が、「サステナブルな素材の服を新しく買う」になってる気がします。本当にそれでいいのかな?

美咲 環境に配慮されている=オーガニックコットンでいいという時代から、再生ポリができたりしてアップデートされているのはわかるんですが、ファッション業界はサプライチェーン全体で考えるべきだなと思いますね。

寺井 廃棄の観点からすると、素材が増えることって「いやなこと」なんですよ。分類やリサイクルの出口を増やさなければいけないので。新しい素材でなくても、今あるものを活かして作り方を変えるとか設計を変えることで十分対応できることもあるので、そこから議論を始められないかなと思っています。

サステナブルファッション習慣のすすめ|エシカル消費特設サイト[消費者庁]

かおり (会場に向かって)みなさん、ファッション産業が世界第2位の環境汚染産業だなんて知ってましたか?石油産業の次だなんて意外じゃないですか?
そして服の一生(上図)の中で、ダントツで環境負荷が高いのは、原料調達から縫製まで。服を新しく作り続ける、それ自体の環境負荷が高いんです

服を使い捨てることが産んだ景色

砂漠を汚染する「ファストファッション」 廃棄した古着から有害物質 チリ 写真18枚 国際ニュース:AFPBB News

寺井 この写真は、チリの砂漠が服のごみで埋め尽くされている写真です。チリでは、何万トンという服が捨てられていくのは当たり前の光景になっている。もちろんチリで発生したごみではなくて、先進国から送られてくる服たちです。

美咲 その地域の方ではなく、私たちのように加担している者のせいで、そこに住む人の心身に負荷がかかってしまう状況を私たちが作っている…。

環境省サステナブルファッション

かおり ごみと言えば、環境省のデータによると服を手放す手段で一番多いのは、圧倒的に家庭から出すごみなんですね。大抵の方がごみに出す選択肢しかない。でも、ごみ処理にもめっちゃお金かかりますよね?

寺井 めっちゃかかります。服って自然には無くならないんですよ。燃やさないといけない。でも服は燃えにくい。効率よく燃えないんですよね。
何より、たとえばオーガニックコットンとか大事に育てられた原料を1回で使い捨てることは、廃棄の観点からするとかなりもったいないなと思います。廃棄物って、手元から離せたらOKというか。世界全体で見た時にも「服の循環」ということに関して、やっぱりうまく仕組み化ができていません。こんなの絶対にわかってたはずだけど、手を入れられていないんです。

服の使い捨て文化は変わるのか

かおり でも実際多くの方は「ごみに出す」しか選択肢がない。ごみの学校プラスチック編でマシンガンズの滝沢さんも、「ここ2、3年で服のごみが特に増えた、低価格な服はワンシーズンで使い捨ての発想なのかも」とおっしゃっていましたね。
服の回収やリペアに携わっている方々から聞くのは、ここ10年で服の質が極端に下がっていると。ずっと触っているから変化がわかるそうです。ファストファッション台頭の10年とちょうどシンクロしてくるのかな。

寺井 そうですね。この10年で、「使い捨てる服」という新しい服のあり方が誕生したと思います。翌年は着ない、そのシーズンだけ着る服。僕も似合ってなかったけど1回だけサルエルパンツ履きました(笑)。反省しているんですけど。

美咲 背景にあるのはファッション業界全体で「儲かること」がKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)になっていることだと思います。一年の間で何シーズン出すことができるか。飽きさせず消費させ続けるにはどうしたらいいかという仕組みを戦略で考えるので、消耗していきます。
生活者も、欲しくもないのに、みんなが着ているから流行にあわせなくてはならないと自分を思い込ませる。でも、そのうち自分が何者かもわからなくなってくるし、苦しいなと思います。

かおり 実は流行って私たち生活者にはさほど重要じゃないんですよね。これまでのものづくりの主語はファッション業界でしたが、これからのものづくりの主語は生活者にシフトしていくと私は思います私たち生活者が着たい服を作ってもらえたら、使い捨てにせず長く着られて、次の人に渡すことまで考えられるようになります。

寺井 変化を起こそうとするときにアパレル企業の方々って受け入れられるものなんでしょうか?

美咲 現状では難しいと思います。どんなにいい企画でも、売れそうにないから選択肢から外されてしまって。

株式会社shoichiと大阪文化服装学院が協働した「Rethink Fashion Program」

美咲 私たち3人は昨年、服飾系の学生に向けてファッションの未来を考える講義を行いました。そこで学生さんから、「学校で服の作り方は教えてもらえるけど、広め方だったり地球環境にいい方法は教えてもらえない」という感想があって。さらに、いざ、アパレル企業に入ったら、「儲かり方は教わるけど、本当にやりたかったことと違う」と感じて離れていってしまうと知りました。「服が好き」で志を持って服飾の学校に行って、作り方を学んで、思いを持ってアパレル企業に就職した人がどんどん抜けていくという構造は本当にもったいないなと思います。

大企業の中でやりたいことができないから、プロボノでSOLITに協力してくれている人も多いです。なので、我々のようなスタートアップが先にスモールスタートさせておいて、大きな流れが来たら、乗りたくなるようにしてあげるというのが、私たちができることなんじゃないかな。

寺井 僕も学生さんから「サステナブルな素材で服を作りたいんだけど、リサイクル素材を触ったことがなく、どんなものかわからないので作りようがない」と言われて気がついたんです。意識を持っている若い世代に実際のリサイクル素材を見て触ってもらう機会を作ることが大事だなと。それは僕たちごみの業界ができることです。

企業任せにせず、生活者が服の買い方、あり方を選択

かおり アパレル企業任せでなく、同時に私たち生活者が今までとは違う感覚を持つことも大事ですね。例えば新品じゃなくてもいい、リユースでもいいという考え方に変わることによって、企業側のビジネスモデルもちょっとずつ変わっていくんじゃないかなと思います。

寺井 確かに、アパレル企業の方々は、生活者が何を求めているかで作り方を変えますよね。
ちなみにデータで見ると、国内でリユースに出すのは3割程度で、7割は焼却されるか海外に持って行くことになっています。日本人は中古品を買わないと言われていて、特に男性のリユース品の利用頻度が低いので、もっと「リユース品もいいね!」が広まるといいですよね。うちの親父を見習っていただいて(笑)。

かおり めっちゃサーキュラーな(服を循環させる)寺井さんのお父さん。寺井さんの服がお気に入りなんですよね!

寺井 僕の中学の体操服がお気に入りです。環境にいいとかじゃなくて「お前の着た服でいいや。着れるし。」という感じなんですが、僕の好きなデザインと親父の好きなデザインがほぼ一緒だから、よく着回しているんだと思います。

かおり 「好きなデザインが一緒」そこ大事ですね!好きの価値観が近い人同士が繋がると、ものすごく効率的に、しかもワクワクした気持ちで、リユースやシェアできるはずなんです。
今は企画の戦略上も売り場でも、わかりやすい性別や、年代とか可処分所得とか数値化できる分類になっていますが、これから変わっていくと思います。

寺井 「自分が服を手放すときどういう道筋を歩んでいくのだろうか、買うときに服の一生を考えて選ぶということ」がもっと広まればいいですよね。例えば、中古品としての価値が落ちにくいものとか、親父が着てくれるようなものとか(笑)。自分が着て終わりじゃなくて、その次にどう繋がる服だろうかと考えるだけでも違うなと。

美咲 SOLITを立ち上げるとき、どんなセクシャリティの人でも障害がある方でもどんな体型の方でも着られるようにという構想があったんですけど、お手本にしたのが、着物です。1枚の布の重なりの度合いによって、その人の体型にあわせて調整できる。そういう商品がもっとあったらいいな。

寺井 リユースもしやすいですよね。着物は、娘にも着てもらおうと、最初から2次流通を考えて買うし。

かおり 自分だけで終わらせない服の象徴ですよね。何世代でも着られることはもちろん、直線断ちをしているので端材が出ず、作るときから優しい。この3人で話すと必ず出てくる着物最強説(笑)!

「今着ている服をもう一年長く着る」インパクト

かおり 私たちが今できることっていくつかあると思うんですね。中でも私が提唱しているのは、すごく簡単で、とてもインパクトがあること。
それは、「今着ている服をもう一年だけ長く着る」ということなんです。

出典: グリーンピース・ジャパン ゼロから学ぶファッションと環境問題環境省サステナブルファッション| 東京二十三区清掃一部事務組合ごみれぽ23

みんながもう一年長く着ると、温室効果ガスを24%減らすことができ、ごみは4万トンも削減できます。東京都のごみ処理費用をもとに計算してみたんですが、4万トンのごみを処理するには23億円もかかります。

寺井 ごみは基本的に燃やしているだけなので相当環境負荷も高くて、CO2もその分排出しています。環境負荷だけじゃなく、費用まで減らせるのは相当いいですよね。

かおり 「今着ている服をもう一年長く着る」小さいことのように思われるかもしれませんが、みんなでやると大きな量的効果があるんですよ。
これを実践するには「自分の好きな服を選ぶ」ことが重要になります。ワクワクしないと続けられない

会場からの質問🔍

質問🔍「服の手入れについて企業として取り組んでいることは?」

もう一年長く着るためには、ちゃんと手入れすることも大事だと思う。手入れの方法とか、企業としてやっていることがあれば教えてください👔👖

美咲 ネットで検索しても、その手入れの方法がうちのプロダクトにあっているのかがわからないと思うので、SOLITではLINEやDMで直接相談をうけるようにしています。どんなにやりとりに時間かかっても、それだけ長く着てもらえて捨てないでいてくれるなら、嬉しい。

かおり newRのニットワンピースは新潟の五泉市で作っていて、お客様からの修理も同じ工場にお願いしています。修理の際、工場までの往復送料はお客様に負担いただくんですが、ワンピースの修理代はnewRで負担しています。私たちの「一年でも長く着てほしい」という思いに共感して実践いただいているので、ささやかながらそのお礼として

寺井 僕も個人で、修理屋さんにまず出してみるというのを積極的にやっています。出してみないとわからないですし、染め直しを依頼してみると、めっちゃ対応が丁寧だったりして親身になってくれるので、新品買うよりもよりストーリーができて愛着がわくのでいいなと。

質問🔍「好きの見つけ方は?」

好き❤️に気がつくための、ファーストアクションってどんなこと?

美咲 かおりさんに早く出会うことだとは思いますが(笑)。
私自身、中高大学のいろんな失敗経験があって、ようやく失敗の量が減ってきたところです。探している最中の旅路をどうにかしたいですよね。

寺井 旅路を短くしたいですね。サルエルパンツ、アシンメトリー、めっちゃダサかった時代があるので(笑)。

かおり サルエルが似合う人もいますからね(笑)。サルエルは自分に似合わないと敏感に感じ取った寺井さんのセンスがすごいです。
「好き」は分類できます。寺井さんが手放したサルエルというアイテムを好きなグループが必ずあるんです。そのグループにバトンタッチすれば、サルエルは生き返る。循環はもっとみんながワクワクできる仕組みになっていい。「好き」でつながる未来にしていきたいです

寺井 今は、好きな白いTシャツスタイルに辿り着いて楽になりました。「お前めっちゃその服好きやな!」と言われるんですけど、僕、気がついたんですよ。それでいいんだなと。服の選択肢を増やそうとするんじゃなくて、パターンを持っていることで楽になれるんですよ。

かおり 寺井さんのように自分が好きなパターンを見つける手法としておすすめなのが、自分のクローゼットを分析してみること。素材や、色、使用頻度、ときめき度などの要素をデータ化すると傾向が見えてきます。分析する服の数が多すぎると途中で嫌になるので、今のシーズンだけ!と狭い範囲でやるのがコツです。
ちなみに私は、ワンピース3着で一年を過ごしますが、このワンピが好きなので不満もなくごきげんに生きてます(笑)。

本日のまとめ:ファッションを悪者にしないために私たち生活者が「今」できること

美咲 私は、みんなでバランスを整えていきたいです。大量に作ることで単価が安くなって、買える人が増えるという側面もあります。全部が古着、全部がオーガニックコットンであるべきでもない。新しい服も着てみたいし、明日デートに着て行きたくなるような心がワクワクすることを抑える必要はないから、「選ぶ」ということができるといいですよね。

寺井 「服の一生」をいかに面倒見れるかだと思っています。少しでも長持ちできるように最後まで無駄にしないようにというのは、廃棄を扱う僕たちができること!

かおり みんなで今着ている服をもう一年長く着れるといいですよね。そのために、流行じゃなくてもいい、あなたが来年も着たいと思える服を選ぶお手伝いをしたいです。

これまで、私たち大人はファッションを楽しんできたじゃないですか。今の子どもたちが大人になったときに、染色しない生成色でシンプルな服しか選べない世界になっていたら申し訳ない。
この先の世代までずっと、ファッションにワクワクしたりドキドキしたりできるよう、私たちができることを「今」はじめていきたいですね🌏✨


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