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『異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花 嗜虐の拷問官』久住四季 著(メディアワークス文庫)

毎月更新 / BLACK HOLE:新作小説レビュー 2021年12月


 人気シリーズの3作目。どんなことにも動じないことから、‘雪女‘と渾名される新米刑事、氷膳莉花。そして、天才的な学者でありながら、数々の犯罪を計画した凶悪犯であり、現在は死刑囚として収監されている阿良谷静。この二人が、世間を震撼させる猟奇殺人鬼を追うシリーズである。一作目は臓器を抜き取る犯人を追い、二作目は顔の皮を剥ぐ犯人と対峙し、今作は対象に拷問を加えてから殺害する猟奇殺人犯、『拷問官』を追うというストーリーとなっている。

 本作が他の多くの警察モノと異なる点に、非常に謎解きモノとしての色彩が強いことが挙げられる。作者自身が謎解きミステリを得意としており、真正面から謎を解き明かしつつ、読者を翻弄し、欺く手捌きには定評がある。魔術が存在する現代世界を舞台とした『トリックスターズ』シリーズは、ミステリのコアなファンにも評価されており、『星読島に星は流れた』は、『本格ミステリベスト10 2016』で10位にランクインしている。本シリーズでも、意外な展開の連続に驚かされる一作目、巧みに演出された犯人の異常性に震撼する二作目、いずれも作者の高い技量を示している。派手な猟奇殺人で本を手に取らせ、得意とするトリッキーな仕掛けで続刊を手に取らせるというしたたかな戦略も、見で取れるだろう。

 ……と書いているといつまで経っても進まないので、ここで詳しいあらすじを。前作ラストで、念願の捜査一課への復帰を果たした莉花。彼女が遭遇した次なる猟奇殺人は、車により、手足のみが執拗にひき潰されている、というもの。さらに、被害者の手足の縛り方に奇妙な点が見つかり、捜査員を悩ませる。被害者が半グレの構成員であることから、一端は組織内の私刑で片付いたものの、莉花に協力する犯罪心理学者、阿良谷は、類似した手法による過去の殺人の存在を指摘し、同一犯による快楽殺人と主張する。
 今作の謎は多い。まず上にも挙げた、『奇妙な縛り方』『なぜ拷問をするのか』。そして中盤では『どうやら警視庁の人間が、外部に情報を持ち出しているらしい』ことが判明し、それは誰か? というものまで加わってくる。この二つの謎はいかにして繋がるのか? 核心が見えそうで見えないもどかしさ、『漏洩者探し』の行方、さらに所々に差し挟まれる、犯人の独白と思しきインタールード。これらが興味を掻き立て、ページを捲らせていく。リーダビリティは抜群である。もちろん最後には、今までの全てにしっかりと説明を付け、伏線も回収し、満足のいく結末を迎える。

 実は今作、これまで話とはかなり毛色が異なる作品なのだが、読み返してみると、確かにヒントはきちんと書かれている。実は過去作でも『この手のやつ』はきちんとやっており、ミステリ作家としての久住四季の、見過ごされがちな一面を再認識できる作品でもある。謎解きに拘った警察モノを読みたい人にもオススメ。

文責:剣崎聖也

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