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保健室の先生の励まし①

私が通っていた小学校は、かつて祖父や叔母、義理の叔父が教師をしていた伝統のある古い小学校で、クラスを松竹梅で分けられていました。私の学年は、松組と竹組の2クラスだけでした。
私は、その小学校で3年生までは毎日が天真爛漫な日々でしたが、4年生から6年生までの3年間は、仲間外れにされて村八分状態のいじめを受けた辛い時期がありました。そして殆どの友達が同じ目にあっていました。
仲間外れの呪縛が解けると、明るく活発な自分に戻り、仲間外れをする側にまわらなければなりません。そして、また目立ってしまうと出る杭は打たれてしまうのです。その原因は、親の事を自慢したり新しいブラウスを着ていたりテスとったりと、大したことではないのですが、子供の単純な僻みだったのだと思います。
それでも6年間の通知票には、明朗活発と書いてありました。先生方は、いじめ問題を把握されていたのでしょうか。

こうして記憶をたどりながら認めていると、色々な事を思い出します。誰もいない校庭の角にあるブランコで、一人ゆらりゆらり揺れていたあの日、寝る前に『明日は変なことがありませんように』と書いた紙を枕の下に敷いて寝た日。
6年生の時、児童会長選挙に立候補する人があまりいなかったので、担任の先生に立候補するように促されました。断る勇気がなかったので仕方なく立候補しましたが、どうしよう…当選したら、仲間外れにされる不安でいっぱいでした。
その為に、一人で落選の策を練りました。思えば、実におかしな選挙対策です。

演説は短時間に済ませて、その原稿は簡単な箇条書きにしよう。
そして、同級生の女子一人一人に、どうか、私に1票を入れないでね、とこっそり頼んでみよう。
計画通り多くの女子に必死に頼み、そして祈りました。どうぞ、落選しますように、友達が協力してくれますように。
他の候補者は、長い立派な演説でしたが、私の演説は計画通りとても短い物でした。しかし、先生に悟られないように声は大きく元気良く演説をしました。
私の演説はあっさりしていたから、絶対に落選だ。他の候補者は上手だったし、と安心していました。
すると、演説会終了後に教室に入って来られた担任の先生が「この人の演説は、短くて分かり易く大変上手だった。他の人は話しが長過ぎて、まとまりがなかった」
クラス全員を前にして大絶賛されてしてまい愕然とし、どうしよう、当選したら…一抹の不安が過りました。
しかし、結果はめでたく落選したのです。嬉しくて嬉しくて、仲間外れにされない事が決定した瞬間でした。何よりも嬉しかったのは、私の願いを聞いてくれた友人たちの行動です。
私の本当の実力で落選したのかもしれませんが、とにかくお願いをした友人たちに感謝し、一人一人に「ありがとう」を伝えました。
しかしその後も、いじめの悪循環は変わることはなく、親には心配をかけまいとその事を言えずにいました。

かねてから、母の旧姓と同じ名字の保健室の先生に親しみを感じていたので、思いきってその先生に相談をしました。
若くて美人の先生は、私の話しを真剣に聞いてくださいました。私の顔を覗き込むように、力強い眼差しで『貴女は強いのよ。いじめる人は可愛いそうな人、だから大丈夫』
その言葉に大きな刺激を受け、勇気がふつふつと湧いてきました。そうなんだ『私は強いんだ、強いんだ』と、何度も自分にいい聞かせました。
励まして頂いた後に、引き出しから何やら取り出して私にくださいました。それは小さいケースに入った、エメラルドグリーンの透き通った宝石のような石鹸でした。香りも良く心が穏やかになっていくようでした。
保健室のドアを開けて、一歩踏み出した時、廊下のガラス窓の向こうに見える校庭の景色が、明るく違う世界になっていました。世の中が180度変わった、とも感じました。
多分、私の表情は晴れ晴れしていたと思います。その時から強い精神という事を学び、今日に至ります。
頂いた石鹸は使わず、自分の部屋で密かに眺めては香りを楽しんで、心地良い気持ちになっていました。

自分が母親になった時、子供がそのような状況に陥ってしまったら、保健室の先生に励まして頂いた言葉で立ち直らせよう。そんな遠い未来の事までも考えました。
多感な年頃の3年間の苦しい試練は、机上ではできない学びがありました。私だけでなく、他の同級生の殆どの女子も同じ試練を経験して大人になりました。
先生、あの時に励ましてくださって、本当に有り難うございました。

※こちらの記事は『保健室の先生の励まし①』ですが、これに過去記事の②、③を足し加筆修正をして『保健室の先生の励まし総集編』と別の記事に致しました。

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