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演奏者泣かせの作曲家バルトークと、ハンガリー料理を楽しむ夏の夜

新日本フィルハーモニー交響楽団がお届けする、「コンサートに行ってみようかな」という気持ちをちょっと後押しするnote。
作曲家の好物や、曲にちなんだ「もの」や「こと」に焦点を当て、音楽を、そしてコンサートを、また違った角度から楽しんじゃおう!という、ゆるーい企画です。
クラシック音楽の難しい話はちゃんとした人にお任せして、打楽器奏者・腰野真那が楽しいと思ったことだけをご紹介します。

ティンパニという楽器をご存知ですか?

オーケストラの一番うしろで演奏している、大きな鍋の形の胴に革を張った太鼓を、大小4つくらい並べて演奏する打楽器です。

このティンパニ、オーケストラには欠かせない打楽器ですが、太鼓にしては珍しく、音程を変えられます。

一つ一つの鍋についたペダルを足で操作して音程を変えるのですが、もともと楽器自体が、きれいで安定した音程を出すのが難しい形をしているので、高度なチューニング技術と、高度な演奏技術があって、初めて"普通のティンパニの音"が出せます。

さらに大変なのは革なんです。
今では湿度や温度に左右されないプラスティック製のものが学校などでは普及していますが、オーケストラではより良い音を求める為に、山羊の革を使うことが多いのです。

でも…人間もお風呂で指がシワシワになったり、寒くて鳥肌たったりしますよね?
それは亡くなった牛さんや山羊さんも同じで、温度や湿度の変化で、ゆるんだり、引き締まったりします。何もしなくても演奏中にどんどん音程が変わってしまうんです。
オーケストラの演奏会に行ったら、ティンパニ奏者が何度も何度も革に顔を近づけているのを、ぜひ観察してみてください。
眠くて楽器にもたれかかってるのではありません。次に出す音程が大丈夫か確認しているのです。

(大体いつも寝そうなのは、ティンパニ以外の打楽器奏者か、トロンボーン奏者です)



クレイジーな作曲家バルトーク

さて、ティンパニの音程の取りづらさをお分かり頂けたところで、こちらの動画の冒頭22秒くらいまでをご覧ください。

ここで演奏しているのは、バルトーク作曲「管弦楽の為の協奏曲」の中の一節です。

この方が上手いので、なんてことなく聴こえるかも知れませんが、これ実はものすごい超絶技巧なんです。

動画の上に出てくる楽譜を見てもらうと、まずこの20秒ほどのフレーズに音符が16出てきますが、そのうち11個が違う音程なんですね。

え?

あらかじめ11個の音程に合わせた楽器を、11個並べて演奏するのかな?

もしかして、これ他の楽器と間違えてるんじゃないかな?

え?

1人でやるの?
4台を自在にあやつって?

ベートーヴェンなんて、20分くらいしか弾かないのに!



きれいなメロディとは裏腹に、普通のティンパニの概念からすると恐ろしく難易度の高い楽譜を書いてくる作曲家バルトーク。彼の他の曲や、他の楽器にも、とても難しいフレーズがたくさん出てきます。しかも絶対に演奏不可能な楽譜ではなく、めちゃくちゃ頑張ればいけるという、なんとも絶妙なレベル。
奏者たちを信じていたからこそ書けたんだろうとは思いますが、いざ自分が演奏するとなると生半可には出来ないのがバルトーク作品なんです。

そんな、ティンパニ奏者から絶大なる反感を買ったであろう作曲家、バルトーク・ベーラさんがこちら。

ハンガリー語圏では日本と同じく姓・名の順で表記するので、バルトークが姓、ベーラが名です


こんなまっすぐな目でこちらを見られた日には、どんなにクレイジーな楽譜でも、やるしかないって思っちゃいますね。
ある意味カリスマ? パワハラ? 教祖様?

…ティンパニのペダルだってね、一応音程のめやすになる目盛りがついてはいるんですよ。

でもね、なんと、同じ目盛りに合わせても、同じ音程になるとは限らないんです!
牛さんー!山羊さんー!
辛いよー!

というのを踏まえた上で、先程の動画右下の画面を見ながらもう一度聴いてみましょう。
ペダルを動かす時、止める前微妙にクイッってやってる時が何回かあるの、分かりました?
それが職人の技!そのクイッで、超微妙な音程を調節しています。

そして特筆すべきは"ティンパニの音の余韻を止める技術"
ティンパニって1音叩いたあとの、音の余韻が結構長いんですね。その余韻が伸びたままペダルを踏むと変な響きが出てしまうので、次の音に変える時のペダル踏む直前に手で余韻を止める! 
でも変な間が生まれないように、ギリギリまでは余韻を残す! 
と同時にもう片方の手では次の音を叩く! 
足は絶妙なペダル操作!

よっ! これぞ職人芸!

…色々と書きすぎましたが、今書いたことをこの20秒の中で全部考えながらもう一度ご覧ください。バルトークさんがいかにクレイジーか分かって頂けると思います。

いやー、クレイジー・オブ・クレイジー。
天然なのか、天才なのか、サイコパスなのかは分かりませんが、「管弦楽のための協奏曲」のこの部分、現代ではティンパニ奏者のオーディションでは欠かせない曲となりました。

さ、

難しいことを考えたあとは、美味しいもの食べて、飲んで、夏の夜を楽しみましょう!
今日はバルトークの故郷、ハンガリー料理を食べに、溜池山王へGyerünk!


ハンガリー料理って

新日本フィルが定期公演を行なっているサントリーホールから、徒歩6分のところにあるのは、都内でも珍しいハンガリー料理のお店、DÖBRÖGI Hungarian Bar & dining(ドブロギ・ハンガリアンバー&ダイニング)さんです。


可愛い内装の店内に心躍りつつ、まず頼んだのはオリーブフリット。
いきなりハンガリー料理でないものを頼んでしまったのですが、私の嗅覚は間違っていませんでした!
めちゃくちゃ美味しい!なんだこれ!

そしてこの日のおすすめメニュー、ランゴッシュ。
揚げた生地にチーズ・ニンニク・サワークリームが乗った、ハンガリーの屋台でよく食べられるソウルフードです。
この屋台は夏の行楽地や、お祭り、海水浴場などにあるそうで、ハンガリー人にとっては夏の風物詩だそう。

チーズとニンニクという最強コンビに、爽やかさをプラスするサワークリーム。しかも生地が揚げてあることで、サクサク感と油の香ばしさがジュワッと口に広がります。
ありがとうハンガリー。ありがとう溜池山王。

そして忘れてはいけない、ハンガリーと言えば、グヤーシュですね。

牛肉と、パプリカ等の野菜をじっくり煮込んだハンガリー伝統のスープ。見た目よりも優しい味で、心までほっこり癒されます。

お酒好きの方には、ハンガリーのトカイワイン(トカイ地方のワイン)や、スピリッツもおすすめ。

左:ウニクム、右:パーリンカ 
 (どちらもアルコール度数40%なので、飲み過ぎ注意)


サントリーホールで音楽を楽しんだ後は、屋台グルメから伝統的なスープまで楽しめるドブロギさんで、是非ハンガリーを感じてみてください。

新日本フィルハーモニー交響楽団、今度の定期演奏会では、ハンガリーの作曲家バルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」を演奏します。

先ほどご紹介した曲と同じく、ティンパニが大活躍するこの曲。新日本フィルが誇るティンパニ奏者・川瀬達也のペダルの妙技を是非聴きにいらしてください。

●新日本フィル演奏会情報●

《日時》

2022年79日(土)14:00開演 
会場:すみだトリフォニーホール
詳細:https://www.njp.or.jp/concerts/23124

2022年711日(月)19:00開演
会場:サントリーホール
詳細:https://www.njp.or.jp/concerts/23167


《プログラム》 ※両日とも同じ

・バルトーク作曲『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』
・オルフ作曲『カルミナ・ブラーナ』


7月11日の公演は有料の生配信もあります。(1.500円)
アーカイブが7月25日までご覧頂けるので、お忙しい方や、各奏者の表情までチェックしたい方はぜひ!
詳細:https://curtaincall.media/schedule/5197


(文・腰野真那)

腰野真那 (こしのまな/打楽器奏者)
群馬県出身。武蔵野音楽大学卒業。桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。2016年新日本フィルハーモニー交響楽団に打楽器奏者として入団。
これまで打楽器を久保昌一、関谷直子、坂本雄希、故・塚田吉幸、堀川正彦、松倉利之、宮崎泰二郎の各氏に師事。室内楽を中谷孝哉、吉原すみれの各氏に師事。現在オーケストラでの演奏を中心に、ソロでの演奏や後進の指導、司会者やライターとしても活動している。
好きな食べ物はチーズとラーメンとフィナンシェ。幼少期、オリーブのことをタイヤと呼んでいた。
Twitter:@ManaKoshino

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