【一日一言】「元首相らがEUに書簡を送ったことについての記事」に抱く、違和感。

奥原慎平「菅直人、小泉純一郎両元首相ら「多くの子供が甲状腺がんに…」 福島の関係者が反発」産経新聞、2022/1/31

記事の要約

 日本の元首相らが、欧州で原子力発電がグリーンなエネルギーとされたことに対して書簡で抗議した。抗議文の中で原発を否定する理由として「多くの子どもが福島原発事故の影響で甲状腺がんになったから」と述べたことに対して、事実に基づかない内容を書くことは福島のさらなる風評被害を生むとして批判を浴びた。

論点?

・「原発事故」についての「風評被害」はまだあるのか。政治家に対する非難の理由にされていないか。
・「甲状腺がんには悪質なものがないこと」は「原発事故の影響がないこと」とイコールではない。
・「原発事故の責任」は誰にあるのか。その責任はどうやってとるのか。

違和感

福島県の甲状腺検査の実施を決めた民主党政権(当時)で中枢にいた細野豪志元環境相(自民党)は菅、小泉両氏らの行動について、「さらっと(書簡に)書くような軽い問題ではない。10年の経緯を知らずに科学的事実に反する行為はあまりに配慮がない」と指摘した上で、「菅氏は首相として(福島原発の被災者の)避難範囲を決めた当事者だ。当時の不適切な判断で甲状腺がんになるならば、本人の責任も大きい。自らの政治責任をどう考えているのか」と産経新聞の取材に語った。

 「甲状腺がんの心配は一切ない」のに「嘘」を言うから風評被害が拡大することがこの記者が伝えたい要旨か。だがこれはまだ確定した事実ではないだろう。まだ10年で本当の影響がわかるまでに時間はかかる。たしかに、不確かではあるが絶対にないとは言い切れない、安全ではないものだから原発は停止すべきなのである。

甲状腺がんの過剰診断の問題などを取材する福島市のジャーナリスト、林智裕氏も産経新聞の取材に「福島はこうした冤罪(えんざい)による偏見と差別に苦しめられてきた。なぜ海外に偏見と差別を広げるのか。福島の住民にどうプラスになるのか」と菅、小泉両氏を非難し、こう疑問を呈した。

 社会から非難されるのは原発事故を起こした国と東電である。日本の社会が事故後に責任の所在をうやむやにしたままでいるから、「フクシマ」が悪いようなイメージがある。このジャーナリストの言うように冤罪に苦しめられるのは、犯人を特定しないからである。「福島は〜〜苦しめられてきた」という言い方は、とても曖昧だ。そしてこの主張に穿った見方をすれば、プラスになれば隠蔽や嘘は許されるのか、とでも言いたくなる。
 誰が福島に原発をおいたのか。そこに地方と都会の力の差による強引な取り決めはなかったのか。きちんと安全についての説明はなされたのか。


まとめ

 原発事故について、責任を負うべき人が逃げてしまったから(安冨『満洲暴走』(2015))、フクシマ問題はいつまでも終わらないのである。放射線が危ないのならば、危ないと名を正すべきだ。まだ確かなことが分からないならば、分からないというべきだ。
甲状腺がんに「生涯にわたって健康に影響しない潜在がんもある」ことは、福島原発の事故の影響がないことの証明ではない。なぜこの重要な点を混同させるのか。
 そのような不確かなことを(分かったふりをするのも大概だが)危険だと正直に言うことについて「風評被害を拡大させるのか」と正義論のようなものを振りかざし口を封じることは有効なのだろうか。
 誰にとって?
 福島県民にとって?
 ただワタシは、正確な情報を知りたいだけだ。

 福島県民を糾弾の理由に利用しないでくれ。



2022/2/1 Dienstag レポートに追われるの巻。

この記事に違和感があったために殴り書いたが、その正体は、記事の主題とそれに付け足して説得力を高めるための関係者の話が噛み合っていないことだと思われる。まるで締め切り直前にレポートに着手して時間が足りなくなり、とりあえずそれっぽい話をぶち込んで字数をかさ増しするどこかの丸のようだ。


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