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食べた人も、地域も、自然も喜ぶお米づくり|有機農業集団「無の会」に迫る【後編】

無の会がある会津盆地はお米の収穫時期の寒暖差が激しく、四方の山から流れる豊かな水が美味しいお米を育てる全国でも有数の米どころ。

その地にあって、農薬や化学肥料を一切使わず、自家製堆肥をすきこんだ土で育てられた無の会のお米は上品で香り高く、宇野さんたちをはじめ、訪れる人たちを虜にしている。

「うちのお米は炊いてからずっと放置してもさ、“腐らない”んだよ」

取材中、児島さんが差し出した小瓶には、3年間放置して自然に発酵し、乳酸飲料のような甘酸っぱい香りを放つご飯が入っていた。児島さんは「“腐らない”お米だから、胃もたれもしないし、ずっと食べ続けられるんだ」と胸を張る。

食べた人も、作物を育む自然も喜ぶ無の会の有機農業。その取り組みは、どのようにして行われているのだろうか。

温故知新の有機農法

無の会の有機農業を語る上で欠かせないものがある。江戸時代中期に書かれた農業技術書『会津農書』だ。

会津農書は、会津地方における稲作・畑作の農業技術、経営、行事などについて、挿絵などを用いながら極めて具体的に記しており、とりわけ稲作については、会津という厳しい自然条件のもとで、地域ごとに異なる水田の条件を考慮しながら、いかに米の安定生産を図るかに心を砕いている。

自然条件をよく理解し、その土地の特性を把握して人事を尽くせば、天地が万物を発育させる働きを助けることができる——。会津農書が示す、“天地人”の調和による生態系を保全的に利用する農業の考え方は、無の会の有機農業の根幹をなしている。

もちろん、無の会が江戸時代の古典農書を重要視するのは、ノスタルジーに浸り、“古き良き昔”に回帰しようとするからではない。会津農書の記述は、BLOF理論(※)などの現代農業理論とも矛盾しない、超実践的な技術体系であることがわかったためだ。

児島さんの参考書にはたくさんの付箋が付けられている

「古きを温ね、新しきを知る」。伝統と先進が融合した無の会の有機農法を学ぼうと、農園には毎年、多くの人が見学に訪れる。

BLOF(ブロフ)理論:小祝政明が提唱する生態系調和型農業理論(Bio Logical Farming)。アミノ酸、ミネラル、土壌の三要素に着目し、「高品質・高収穫・高栄養」を目指す栽培技術。

地域資源が循環する堆肥づくり

無の会が有機栽培を行う上で特に力を入れているのが、「年を追うごとに豊かになる」土づくりだ。

「うちの農園の土をなめてみるといいよ。甘いから」

児島さんがこう語るように、無の会の農園の土はそれ自体が甘く、香ばしい香りを放つ。栄養バランスがよく、異常気象や病気に負けない、豊かで健康な稲が育つ。会津農書に「最上の土は甘く重く柔らかい」と記してある通りの土である。

とは言え、強く、豊かな稲を育てる無の会の土づくりも、一朝一夕に出来上がったものではない。

「無の会の圃場は、いわゆる中山間地域で傾斜が激しく、土壌の中に栄養が留まりにくい。さらに、かつて行われた耕地整備の影響で表土が剥ぎ取られているから、ただ単に肥料を入れるだけでは強く健康な作物は育たないばかりか、土も痩せていく。まずは、土づくりが必須だったんです」と宇野さんは話す。

こうした土づくりに必要だったのが、炭素分の多い堆肥である。炭素分の多い堆肥を土にすき込むことで、土壌の団粒化が進んで稲は根張りがしやすくなり、有用微生物の活性が高まって病気が発生しにくい圃場環境が整う。

しかし、当時はこれと思う資材が見つからなかった。そこで、児島さんは身銭を叩いて堆肥場を建設。自前の堆肥づくりに乗り出した。

無の会の堆肥場

無の会の堆肥づくりで特徴的なのが、本来、処分されるはずの廃棄物を材料として活用している点だ。地元の企業と連携して、解体される古民家の茅葺き屋根や籾殻、かんなくず、ぬか、おから、油かす、酒粕、廃果物などを集める。地元企業にしてみれば、処分するのにお金をかけていたものを買い取ってもらえるわけだから大助かりである。

もちろん、ただやみくもに材料を混ぜているわけではない。材料ごとに異なるC/N比(有機物に含まれる炭素と窒素の比率)を計算しながら、①水溶性炭水化物②アミノ酸態窒素③ミネラル——がバランスよく含まれるよう堆肥を設計。化学肥料や農薬を使わずに、高品質かつ多収量の稲作を実現している。

地域資源をフル活用した植物性の堆肥

無の会では、年間700t強の堆肥をつくり、米のほかにも、野菜、なたね、会津みしらず柿、いちご、大豆、そばなどの栽培に使っている。15haにもおよぶ農園で使う肥料のほぼ100%をこの堆肥で自給しているというから驚きだ。

米づくりから未来を見据えて

無の会の圃場からの眺め。圧倒的な景観が広がる

宇野さんは語る。

「化学肥料や農薬を使わず、堆肥がつくる豊かな土で育った作物は、食べた人を元気にします。また、処分代がかかるはずの廃棄物を買い取れば地域が喜び、土は堆肥によって、年々肥沃さを増していきます。さらに、本来、焼却処分される廃棄物を堆肥にして田んぼや畑に還せば、大気中に放出される炭素分を土の中に貯蔵でき、肥料の海外依存度も下がります」

農業を取り巻く営みの一つ一つをつなげ、循環させることで、人も、地域も、自然も、年を追うごとに豊かになっていく。これが、無の会が実践する有機農業であり、米づくりだ。

こうした食の安全や、持続可能な生産活動への取り組みを独善的なものにせず、第三者の立場から正当に評価してもらうため、無の会は有機JAS認証(※1)とGLOBALG.A.P.認証(※2)を取得している。

さらに、2023年からは「会津農書を軸とした伝統農法」を柱に、地域を「世界農業遺産」へ登録することも目指す。「遺産登録が、慣行農法に劣らない有機農法の存在を広く認知してもらえるきっかけになる」——。その目は、豊かな自然や、自然と調和した産業や文化が次世代に受け継がれていく未来を見据えている。

(※1)有機JAS認証:化学肥料や農薬を使用せず、環境負荷の小さい生産方法で栽培された作物であることを、第三者機関が認証する制度。米の場合、播種前2年以上、化学肥料・農薬を使用しない圃場で栽培されていることが求められるなど、厳しい条件がある。
(※2)GLOBALG.A.P.認証:農産物の安全性や労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を行う事業体を認証する国際的な枠組み。世界120カ国以上に普及している。GAPはGood Agricultural Practicesの頭文字を取ったもので「農業生産行程管理」の意。

(取材・文:舘岡邦雄)


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