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大学生に塾講バイトを勧めない理由

こんにちは。予備校講師・受験コンサルタントのシンノです。

大学生になる皆さんの中にはアルバイトを始めようと思っている人も多いと思います。特に、塾講師のアルバイトは時給も比較的高く、自分の経験を活かしやすい仕事なので、大学生にはおなじみのアルバイトになっていますが、業界にどっぷりハマっている僕からすると、まったくお勧めできません。いや、私自身は大学1年の4月から塾講師のアルバイトを始めたし、塾業界というのは大学生アルバイトの存在を前提とした業界なので、僕がこれを言うと業界の誰かに刺されそうな気もするのですが、それとこれとは話が別。以下、どうして大学生に塾講師のアルバイトを勧めないのか、簡単に理由を挙げていきます。

①時間が制約される

大学生に塾講師バイトを勧めない最大の理由はこれです。大学生には突発的なイベントが付き物です。特別講義があったり、サークルの集まりが発生したり。大学関連以外でも、スポーツや演劇やあるいは旅行など、人生の中で自分の時間をもっとも自由に使えるのは、大学生の間だと言えるでしょう(こんなに自由な時間は、次は老後までない!)。つまり、大学生は大学の授業以外で時間に拘束されるべきではなく、比較的シフトが動かしやすいアルバイトを選ぶべきなのです。

ところが、塾講師というのは毎週○曜日の△時~□時まで、という形で完全に拘束されます。集団授業を担当した場合、自己都合による代講・休講は原則不可。個別授業の場合は塾によって異なりますが、そんなに自由にシフトを変えられるものではありません。つまり、アルバイトがあるから出たい特別講義に出られないとか、イベントに参加できない、といったことが生じてしまう可能性が高いのです。また、塾によってはドレスコードの厳しいところもあります。大手の塾では「茶髪禁止」というところもありますね。つまり、時間にせよファッションにせよ、「自由」という大学生活のメリットを大きく損なわせてしまう可能性が塾講師のアルバイトにはあるということです。

②実質的な給料は大して高くない

私が塾講師のバイトを始めたころ、最低賃金は700円くらい。これが、塾講師だと集団で2000円、個別でも1200円というあたりが時給の相場でしたから、塾講師のアルバイトは賃金面で非常に魅力的だったと言えます。

今はどうでしょう?最低賃金で応募を出すアルバイトはほとんどありませんね。スーパーやコンビニだと都内は1200円くらいのところも珍しくない。ところが、塾講師の時給は当時と驚くほど変わっていません!レベルが高い塾で、東大生・医大生しか雇わないという塾だとかなり高い時給を出すところもありますが、個別指導の時給は今でも1200円くらいが相場じゃないですか?(塾のバイトは「コマ給」という形で給与を提示するところが多いのでダマされやすいですが、1コマが90分の計算だと時給にすれば大したことないケースが多いわけです)つまり、塾講師として時給の優位性を得るためには集団授業の講師をしないといけないのです。

ところが、集団授業の講師というのは、個別指導よりもずっと大変です。例えば予習。授業の準備にかかる時間は個別の場合よりもずっと長くなる。多くの塾ではコマ手当、という形で時給以外のお金が手当てされていますが、予習にかかる時間分に対して十分な対価かというと微妙。また、授業以外の付帯業務、例えば模試の監督とか会議・研修への参加などについては、最低時給レベルの給与しか支給されない塾がほとんど。このように考えると、実際に必要な時間で得られる給与を割り算すると、時給2000円くらいでは割に合わないと思います。塾講師が賃金面でメリットがあると言えるには、相当に高い時給のところでないといけません。

③辞めにくい

アルバイトというのは辞めて変えやすい、というのもメリットの1つだと思いますが、塾講師はそう簡単に辞められません。年度途中の退職は(実際にはいっぱいいますが)、塾としては辞めてほしいのが本音です。たとえば、前期と後期で時間割が変わって、シフト上難しくなっても、集団授業の時間割は変えられません。集団授業の担当を続けたいなら、取りたい授業をあきらめなければいけないことになります。

④真面目すぎる人は続かない

「週に1回から勤務OK」と募集要項に書いている塾は多いですが、働き始めると週に1回では物足りなくなります。真面目な人ほど、生徒の成績を上げるにはもっと働かなきゃ、と思います。ここで、どっぷりはまって続けていく人もいますが、逆に真面目な人の中には年度更新時にきっぱりやめる人も多い。生徒の成績を上げるにはもっと働きたいが、学業上無理だからやめる、というのが理由。真面目な人ほど、学業との両立に悩むことがあります。

⑤視野が広がらない

塾で働こうと思う人の大半は、どこかで塾に通った経験があり、それなりの受験経験をした人です。つまり、自分の知っている世界でバイトをすることになりますね。でも、世の中で塾に通う人なんてそれほど多くないんですよ。大学受験のために予備校に通う人なんて、日本の高校3年生全体で見ればせいぜい20~30%くらいというところでしょう。補習塾的な存在まで広げればもっと裾野は広がるでしょうが、難関受験というともっと限定的。受験業界というのは社会の中では比較的狭い世界なのです。中学受験や高校受験で難関校に合格し、難関大学に進学してきた皆さんにとっては、受験勉強がこれまでの人生で大きな割合を占めてきたと思います。twitterやyoutubeでやたらと受験を語りたがる大学生がいるのは、彼らがこれまで一番取り組んできたものが受験であり、他の世界をあまり知らないからでもあるでしょう。

でも、これはとても残念なことだと思うのです。最初に言ったように、大学生には比較的自由な時間があります。皆さんには、この時間の中で視野を広げ、自分が今まで知らない世界を知ってほしいのです。例えば、皆さんは職業をどれほど知っているでしょうか?高校生というのは驚くほど職業について知りません。世の中のサラリーマンと言われる人が、どんな仕事をしているか、ほとんどの高校生は知らない。だから、高校時代に将来の仕事の希望を選べと言われたって選べないのは当たり前なのです!でも、大学に入ると就職のことも考えていかなければいけません。つまり、大学1・2年の間に、色々な仕事について知ってほしいのです。仕事を知るには色々な方法がありますが、アルバイトというのは一番身近な方法でもありますね。

そういう観点で言えば、塾講師というすでに馴染みのある仕事を始め、受験という自分がよく知っている世界に居続けることは、大学生にとってメリットがあるとは思えない。むしろ、色々なアルバイトをして、色々な会社で働いてみて、自分の知らない世界を知り、様々な会社を知った方がいいと思うんですよ。せっかくお金を稼ぐなら、視野を広げられるアルバイトをやってほしい。

ときどき、塾講師のアルバイトは他のアルバイトでは得られない素晴らしい経験を得られる、という人もいます。確かに、生徒の合格を知ったときは本当にうれしいし、自分の頑張りと成果が見えやすい仕事で、その点では非常に魅力はあります。でも、それが大学生のアルバイトとしてふさわしいかは別問題だと思うんですよね。

ここまで読んできて、それでも塾講師のアルバイトをしますという人は、以下の4つを守って下さい。

①最大週2日まで。どんなに人手不足でもこれ以上は授業をしない。

②会議や研修、模試監督など付帯業務は無理のない範囲で参加する。

③シフトやドレスコードが比較的自由な塾を選ぶ。

④短期のアルバイトなどで他の職種を知る機会を作る。

私の経験上、週2日以上働くと、大学生らしい大学生活は送れなくなります。要するに、塾講師のアルバイトをするなら「断る勇気」が必要です。

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