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塾講師として成長したいあなたへ②

「良い授業」とは?

 集団指導であれ個別指導であれ、塾講師が提供する最大の商品は授業です。塾講師として働く以上、「良い授業」ができるようになることが最初の目標となるでしょう。ところが、塾の中で評価される授業というのもまた、それぞれの塾によって異なる「文化」の1つと言えるかもしれません。生徒を指名しながら一体感のある授業を行うことが塾全体のルールというところであれば、生徒の巻き込みがうまい人が評価されるでしょうが、割と1クラスの人数が多い塾であれば、講師の説明のうまさが評価されるでしょう。ただし、私はどんな塾であれ、良い授業の基準は1つだし、1つであるべきだと考えています。それは、生徒の成績が上がる授業が良い授業だ、ということです。
 このごく当たり前のように聞こえる基準は、実は予備校業界では当たり前のことではありませんでした。予備校で評価される講師とは、第1に生徒を集められる人であって、生徒の成績が上がったかどうかは評価項目に入っていないことも少なくありません。もちろん現実問題として、生徒の成績が上がったかどうかは数値化したり比較したりすることが難しいデータであったからという理由もあるでしょう。ただ結果的に、昔の予備校には生徒のウケを重視するあまり、特に英語や現代文において、すべての問題で通用するとは限らない、耳障りの良い指導法や読解法がはびこってしまったことも事実です。
 塾は違います。どんな塾、形態であれ、生徒の成績が上がる授業が良い授業であって、そのために何ができるかを考えるべきなのです。大手予備校で授業を受けたことがあり、そこでの経験から塾講師になろうと思った人は、特にこの点を思い違いしがちですが、塾では、授業の派手さやパフォーマンスなど必要ありません。そんなことをしなくても、生徒の成績が上がるためにどうすればよいかを真剣に突き詰めていけば、生徒や保護者から信頼を得ることはできるし、生徒も自然と集まるはずです。

生徒の成績を上げるために必要なこと

「授業を10分延長したり補習を60分行ったりすることよりも、1週間=10,080分の時間全体の使い方を考えた方が生徒の成績は上がる」 
 これは、私が中学受験の算数を指導していた大学生のときに、ベテランで実績のある算数の先生に言われたことであり、予備校講師として指導する現在でも大切にしている教えの1つです。良い授業をしようとすると、分かりやすい授業、生徒が集中しやすい授業、といった授業時間内をどうするかということだけを考えてしまいがちです。しかし、「良い授業=生徒の成績が上がる授業」という定義であれば、授業時間内だけにスポットを当てるべきではなく、もっと広い視点で考えなければいけない、ということになるのです。
 そのための前提として必要なことが「敵を知ること」です。ここでいう「敵」とは、1つは生徒が挑む入試や定期試験であり、もう1つは成績向上の阻害要因となっている生徒が抱える課題、のことです。よく「経験が浅い」と言いますが、これをもう少し具体的に言えば「敵を知らない」ということ。つまり、塾講師として成長するためにまずすべきことは、入試を知り、定期試験を知り、生徒が何につまずいているかを知ることなのです。
 私は大学1年で塾講師のアルバイトを始めたとき、一番最初に個別指導を担当することになった生徒さんが私立高校を目指す中学3年生でした。ところが、私には高校受験の経験がなかったので、特に文法や単語をどの程度まで教えればよいかまったくわからなかった。それで、最初にやったことが、教室にあった入試問題正解(俗にいう「電話帳」)を全部コピーして家に持って帰り、それを片っ端から解いて文法問題をデータ化するという作業です。こんなこと、大学生のアルバイトがすることじゃないですけれども、ここで作ったデータはその後、自分の英語指導の土台になりました。これまで多くの塾講師の方を見てきましたが、進学塾の場合、入試問題に精通していることと指導力は比例関係といっても過言ではありません。
 このとき大事なことは、生徒と同じ視線で解く、ということです。最初から答えを見ては絶対にいけません。できれば生徒と同じように制限時間を設け、実際に答案を書き出してみる。そうでなければ、生徒がどこでつまずくのかがわからず、生徒にどう解くべきかの指導にもつながらないのです。
 さて、もう1つの敵、「生徒が何につまずいているかを知ること」、についてはまた日を改めてお話ししましょう。

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