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「爆買い」報道と進歩しないメディア ~前編~

 地方都市でインバウンドにもかかわっている私にとって、感じていたモヤモヤを少し晴らしてくれる記事がありました。

 日本で「インバウンド」が政治経済にとっての重要なイシューとなり、日中航空路線の充実も重なった2010年代前半ごろ(中国は北京五輪や上海万博を経て、経済的な自信を高めた時期でもあります)、炊飯器やウォシュレットトイレなどを大量にお買い上げしていく「爆買い」は流行語にもなりました。
 でも、コロナ前においても、中国からの観光客に人気の製品は家電から化粧品に移っていたし、この10年、中国はEC市場の急速な発展、マーケティングに長けた企業の登場などで激変しており、以前のような爆買いの観点から中国人観光客を見るのは違和感が残ります。

中国国内の変化とは

 「中国製品の品質が飛躍的に向上している」という点について、「所詮、中国製品だろ」という言葉も聞こえてきそうですが、私が感じている限り、「どのようなデザイン・意匠にすれば消費者に受け入れられるかを真剣に考える」という点に関しては、日本メーカーが及ばない点があるのではないかと感じています。
 例えば、近年の中国で大人気のコスメブランドが「完美日記」(パーフェクトダイアリー)と「花西子」。(「完美日記」は直近では苦戦しているという話もありますが…)。いわゆるZ世代にターゲットを徹底的に絞り、KOL(インフルエンサー)マーケティングに大胆に投資。ライブコマースでKOLが実際にメイクをして見せ、お店に行かずとも発色などを確かめられる、といった具合に、中国のEC市場の急成長とともに発展しています。また、製品も、口紅そのものに彫刻のような彫り物をしており、ついつい、SNSでシェアしたくなる仕様にしていることも興味深いところです。(私は化粧品を買うこともないので、製品そのものには疎いのですが、インバウンドにむけたマーケティングにおいては参考になる事例だと考えています)。
 つまり、中国での市場環境が激変し、中国国内に居ながらにして日本製品も含め好きなものが買えるようになった現在、以前のような、炊飯器を大量に買っていくような「爆買い」は起きにくい状況になっています。また、記事にもあるように、旅行者はますます「コト消費」にシフトをしていっています。こうした状況は、10年以上前のステレオタイプ的な中国人の購買行動を意味する「爆買い」とは明らかにニュアンスは違っているし、それでもあえて「爆買い」というタームを使っているのは、メディア自身が学習していないか、読者・視聴者をバカにしているか、どちらかにしか思えないのです。。。

「花西子」の公式HPより

マーケットインとプロダクトアウト

 話はそれますが、完美日記/花西子の事例で思い出すのが、日本の電機メーカーの「アメリカ・テレビ市場での敗戦」です。2000年代後半の超円高(今とは真逆ですね…)で、「世界の亀山モデル」で名を馳せた液晶テレビのシャープ、「プラズマテレビ」で一世を風靡したパナソニックなどの業績がみるみる悪くなっていきました。ただ、原因は超円高だけにあるのではないと、当時、電機メーカーの取材担当であった私は考えています。当時取材したある技術者は、以下のようなことを言っていました。

「私たち技術者は、とにかく映像をよく見せることに心血を注ぎこんだ。でも市場は、ある程度の映りの良さがあれば十分で、それ以上は求めていなかった。逆に、韓国メーカーが販売した、ガラスにディスプレイが入ったようなテレビが、「部屋の内装に合う」と、飛ぶようにアメリカで売れた。技術的には簡単なことなのに、テレビの枠といえば黒いと思っていた私たちの盲点を突かれたことは間違いない。」

 これまで以上に、消費者の趣味・嗜好が多様化する中で、もちろん、ホームシアターのような大画面で映像を楽しむ、「映り重視」の人もいます。しかし、逆に、映りはある程度の品質で十分で、「壁掛けできる」とか「部屋のインテリアを邪魔しない」などという観点で商品を選ぶ人も少なくないはず。「ターゲットの細分化」をできていなかった「プロダクトアウト型」の日本メーカーと、「現地市場の好みを取り入れた製品開発」を行った「マーケットイン型」の韓国メーカーとの間で差がついた、ということなんだと思います。

ますます重要なサイコグラフィック基準

 中小企業診断士試験のマーケティング分野で必ず学ぶ用語に「デモ・ジオ・サイコ」というものがあります。ターゲットの設定のところで出てくるのですが、以下のとおりです。

デモ=デモグラフィック 年齢・性別・職業・所得・国籍
ジオ=ジオグラフィック 地域・気候
サイコ=サイコグラフィック 消費者の価値観やライフスタイル

 先に挙げた、「完美日記/花西子」「韓国メーカーのTV」の事例はやはり、ターゲットを設定し、デモ・ジオとサイコグラフィック基準をうまく掛け合わせた即したマーケティングを行った結果ではないかと思うのです(完美日記/花西子はKOLが紹介した商品を買うというZ世代の消費行動、韓国メーカーはアメリカにおいて消費者が求めるものを追求)。
 そして、移り気な消費者の気持ちをつかむには、常に消費者の動向をアップデートするマーケティングを行わなければなりません。この努力を怠れば、市場についていけなくなるという点でも、成功したメーカーも決して安泰ではないのかもしれません。

メディアの話は後編で…。

 このテーマ、いつかは書こうと思って書き始めたのですが、書きたいことがあふれてきて、長文になってしまいました。メディアの話が深堀できませんでした。詳しくは後編に書こうと思うのですが、、導入だけでも。
 数か月前、インバウンドの関連で私が地元メディアから取材を受けたときのことです。インバウンド(中華圏)の期待について、「爆買いを期待しますか?」と地元の記者に聞かれて、思わず、「まだそんなことを言っているのか?」と(やんわりとですが)聞き返したことがあります(結局、そのメディアは、「爆買いに期待高まる」とニュースにしていましたが。
 それは、おそらく、停滞する日本にいる中で、「市場が成長する」ということを実感できず、10年前の話をコロナ禍を経た今でも、過去と同じことが起きているとその記者は考えたのではないかと推測します。
 でも、それを疑わずに書いてしまう、ステレオタイプで書いてしまうメディアの問題点の一端がここにあるのではないかとも感じてしまいます。そういう話も含め、後編に譲りたいと思いますので、きょうはここまで。

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